竜の神様、モノの神様修行をする。5
狐と兎のお面の女子達が訪れてからというもの、我が家はそれからひっきり無しにお客さんが来るようになった。
オミさんは神様といえど、まだ半神。
しかも強くて、力もあって、まだ結婚していない!
かなりの好物件らしく、しょっちゅう可愛らしく変幻した狐とか、兎とか、タヌキとか、えーと‥とにかく一杯女子が来ては求婚されまくっていた。
そういえば半端者ってなんだろ〜って大学から帰って聞こうとすると、リビングのコタツの中でオミさんが倒れていた。
「‥お疲れ様です‥」
「おう‥」
大学から戻るたびに女子に囲まれているオミさん。
実際見ていて面白くないし、今だって複雑な気分ではある。だけど、こんなに疲労困憊だとちょっと可哀想だなとも思って‥。オミさんにお茶を差し出すと、お礼を言って静かにお茶を啜る。これは相当疲れてるな‥。
「オミさん、夕飯の前におやつでも食べます?」
「‥食う」
「じゃあ、たい焼きどうぞ〜」
「たい焼き??魚??」
「いえ、中にあんこが入っているお菓子です」
帰る途中、お店で見かけて買ってきたのだ。
オミさんにまだほんのり温かいたい焼きを渡すと、面白そうに魚の形を見て「おおー!魚の形だ!」と目をキラキラさせる。こういうとこ、可愛いんだよなぁ〜。
「修行に、お客さんに、なんだか落ち着かないですね‥」
「まったくだ。結婚式のこと、なんも話せねーし」
「そ、そうですね。あの、でも、一応ここに資料がありまして‥」
「え?」
「いや、ちょっとはこう、話とかしておかないとかなぁ〜って」
うう、すんごく照れ臭いけど、冬休みにはうちの実家へ来なさいって爺ちゃんも言ってたし‥。ネットとかで調べた事をオミさんに見せると、オミさんは資料と私を交互に見て、やがて嬉しそうにニンマリ笑う。
「‥ありがとな」
「どういたしまして‥」
なんて事ないただの会話なのに、なんでこうも心がこそばゆくなるんだろう。オミさんの嬉しい!っていう気持ちが前面に出ているからだろう。うん、きっとそうだ。
色々資料を見ながら、話していると‥、
「竜の国でお祝いするなら、親父に話しておかないとだな」
「そうなんですか?」
「この間は黙って帰ったけど、祝いの時は流石に言わないとだし」
「‥‥オミさん、お兄さんにもお知らせするの忘れずに」
「あいつは別にいいだろ‥」
「家族で祝うとはーー?!!うちの家族もオミさんの家族に会いたいと思いますよ?」
私がそう話すと、オミさんは流石にうっと言葉に詰まる。
良かった〜〜、ちゃんと話しておかなかったら、オミさんの家族は蛇神様とかセキさんのみになってしまいそうだったな?!‥まぁ、きっと友達のヨークさん達も来てくれるだろうけど。
「私、まだオミさんのお父さんの人間の姿、見てないんですよね」
「あー、見なくていい」
「‥オミさんに似ているんですか?お兄さんのパティアさん?」
「話を聞け!‥‥あー、多分兄貴だろ」
「へ〜〜、そうなんですか!じゃあ優しい感じなんですね」
「俺も優しいぞ?」
何か言ったかな?
私はにっこり微笑むと、オミさんは即座に「おいこら!」って突っ込むけど、気にしない。
久しぶりに静かな、のんびりした空気。
ああ、以前はこんな感じで二人だけで話していたのに‥。なんだかものすごく久しぶりに感じるなぁなんて思っていたら、オミさんはちょっとソワソワした様子で私を見る。
「オミさん?」
「ちょっとこっち向け」
なんだろう?
オミさんの方を向くと、素早くキスされた。
一瞬の事に驚いて、目を丸くすると同時に顔が真っ赤になった。
「なっ!?」
「‥‥シャボン玉勝負‥」
「ひ、引き分けだったじゃないですか‥」
「だから、俺からしたんだろ‥」
オミさんがボソッと「青葉からが良かったけど‥」って話すけど、それはちょっと恥ずかしいかなぁ〜。そっと目を横に逸らすと、オミさんは小さく笑って私の頬に優しく触れて、もう一度顔を近付けてくるので慌てて目をギュッと瞑る。
すると、玄関の扉がガラガラっと開いて、
「こんばんは!!!イタチのべにですー!!夕飯のお裾分けお持ちしましたー!」
‥めっちゃ元気な声が玄関からして、オミさんと私は思わず顔を見合わせた。
「えーと、オミさんお客さんです」
「わーってるよ!!」
そう言うと、オミさんが「今行く!」と半ばヤケのように返事をすると、ギュッと私を抱きしめたかと思うと、唇を強く押し付けるようにキスをする。
なぁあああああ!!!??
驚いて目を丸くすると、オミさんがニヤッと笑う。
「今度はお前からな!」
「む、無理です!!!」
「間髪入れるな‥」
いや、本当無理だから!!!
真っ赤な顔で訴えたけど、オミさんはすっかり機嫌を良くして玄関へ「赤りんご〜」なんて言いながら向かって行った。…まったく、子供か!




