竜の神様、モノの神様修行をする。3
私のミニスカワンピ姿を見て、真っ赤な顔になったオミさんだったけど、普段着を着た私を見てようやく平静を取り戻したらしい。
オーバーシャツにパンツ姿を見て、心底ホッとしていた。
‥オミさんこそ、結婚したらどうするんだろう。思わず考えたけど、それを深く考えると私も顔が赤くなる事必須なので、あえて考えを放棄した。
「イタチのべに君は大丈夫だったんですか?」
「ああ、あっちはな。なんか古い屋敷にあった物が盗み出されて、それが悪食になってた。まぁ、小さいからすぐ祓えたけどな」
そう言ってオミさんがジーンズのポケットから出したのは、小さな手鏡だった。銀色のちょっと色がくすんだ‥でも、小さな手鏡を縁取る草花の飾りはとても可愛い。
「これが悪食の元だったんですか?」
「そうだ。自分に映った物を取り込んで大きくなってた」
「お、おお‥。結構怖い!」
「まぁ、悪食自体は祓ったんで、今はただの鏡だ」
「‥それ、どうするんですか?」
招き猫の白さんのように、どこかに飾ったりするのだろうか?
私がオミさんと手鏡を交互に見ると、
「しばらくは蛇神か、言の葉の神様に預かってもらって落ち着かせるしかないな。まだ鏡も不安定な状態だしな」
「え、じゃあオミさんが神様になったら?」
「うちで管理する」
「ひぇええええ‥」
「大丈夫だ。怖いことはねーよ」
そうかもしれないけど、安定しないなんて聞いたらちょっと怖い。
あと家に置いておくってのも、ちょっと怖い。
私が鏡を恐るおそる見ると、オミさんが可笑しそうに吹き出す。‥私は言っておきますけど、いたって普通の人間ですからね?
「前から色々視えてはいたんだろ?」
「視えてましたけど‥、害があったのはお隣さんくらいで‥」
「ああ、そうだったな」
そう。私の以前住んでいた部屋のお隣さん。
気が付かないうちに何かに取り憑かれて、私の部屋の壁を叩いたり、追いかけてきたけど‥、オミさんのおかげで助かったのだ。そう考えると、やっぱり怖い。
オミさんはそんな私の考えている事を察したのか、大きな手を私の頭にわしっと乗せると、
「指輪もあるし、大丈夫だ」
そう言って、そのままグラグラと揺らすように私の頭を撫でるので目が回りそうになる。あの!もうちょっとソフトにお願いしたいんですけど!?
とはいえ安心したのは確かで‥。
私が頷くと、オミさんは「んじゃ学校行くぞ」と言って、ギュッと今度は私の手を握る。熱いくらいの手の体温にまたホッとしていると、オミさんは小さく笑って力を使い、大学の門の前へと一瞬で移動した。
あっという間で便利だけど、オミさんと話ながら歩く時間も好きだったから、ちょっと寂しいなぁなんて思ったけど、これ言ったらオミさん調子づくかな?そう思っていたら‥、
「便利だけど、ちょっとつまんねーな」
オミさんがボソッと話すので、思わずオミさんの顔を超高速で見上げる。
「なんだよ‥」
「いや、私もちょっとそう思ってたんで‥」
私の言葉にオミさんは目を丸くすると、照れ臭そうに頬を掻きつつ私をチラリと見る。
「‥んじゃ、今度は一緒に歩いて行くか?」
「それは嬉しいですけど、でも、修行が‥」
「蛇神はこの際考えなくていい」
オミさんがうんざりした顔で話すと、私とオミさんの後ろから‥
「なんじゃー!酷いのう!新婚早々離ればなれになったら寂しいと思って配慮してやっておるのに!」
‥なんか聞こえたぞ?
私とオミさんでゆっくり後ろを振り返ると、本日はウサギの耳のついたピンクのパーカーに、ショートパンツの出で立ちの蛇神様がニンマリ笑ってオミさんを見ている。
「お主、甘やかな蜜月は当然青葉と一緒にいたいだろう?」
「ちょっ!!!おまっ、黙ってろ!!!」
「ププー!!真っ赤!ミニスカで真っ赤になってるし、大丈夫なのか?お主!」
「テメェ!!!ぶっ殺す!!!」
「オミさん、端から見たら完全にイチャモンつけてるヤンキーだからやめて!」
‥大学の門前で、頼むからやめてくれ!!
中学生が一見、大学生に完全に絡まれているんだけど、オミさんの風貌に皆遠巻きで見ていて、視線が痛い。
そのすぐ後にシキさんが眉を下げつつ「ご迷惑をお掛けします」と言って、二人を連れていってくれたけど、もしかして一番頼りになるのはシキさんでは?とにもかくにも感謝して私は人だかりから逃げ去るように大学へ向かった‥。




