竜の神様、モノの神様修行をする。2
座敷童のこがねさんが訪ねてきた翌朝。
朝食を食べ終えて、オミさんと一緒に大学まで行く為に準備をしていると、玄関の呼び鈴が鳴る。
「おはようございますーー!いつぞやの狐の山吹ですー!」
「へ??!」
いつぞやの狐の山吹!?
私が驚いた顔をしていると、オミさんが玄関へ向かう。一緒について行くと玄関口で、狐のお面を被っている男の子が立っている。
「あ、結婚式の時の‥」
「はい!先日はお世話になりました!申し遅れました山吹と申します」
「いえいえ、こちらこそ時計を頂いて助かりました!」
私と山吹君とでペコペコと頭を下げあっていると、山吹君の後ろから茶色のふわふわと跳ねた髪をした4歳くらいの、小さいな男の子が山吹君の着物の裾を掴みつつ、こちらをじっと見ている。
「えっと、おはようございます?」
「は、初めまして!!イタチのべに申します!!」
「イタチ‥?」
イタチって、あの生き物のイタチ??
私がオミさんを思わず見上げると、オミさんが頷いて「長く生きてりゃ半妖にはなる」って事も投げに言うのでまたも驚いた。そ、そうなの??べに君を見ると、ほにゃっと柔らかく笑って私を見るので、あまりの可愛さに胸がギュッと痛くなった。半妖だけど可愛いなぁ!
「で、こんな朝早くからどうした」
「はい、イタチのべにが住んでいる場所の周辺で悪食が暴れておりまして」
え?!もしかして早速仕事?
オミさんは、指をパキッと鳴らすと私を見て、
「青葉、ちょっと掃除してくるから家で待ってろ」
「掃除とな‥」
「帰って来たら大学に送る」
「‥はーい」
これはもう決定事項なのだろう。
オミさんは私一人で行動しようとすると、やたらと私を心配するからなぁ‥。静かに頷くと、オミさんはニヤッと笑ってからイタチのべに君と山吹君を見て、「じゃ、サクッと終わらせるから案内してくれ」と返事をすると、すぐに来てくれると思ってなかったのか、二人は驚いた様子でオミさんを見上げる。
ベニ君は、丸い目をキラキラさせて‥、
「神様って、こんなにすぐ助けてくれるんですか?あ、でもどうしよう!僕何もお土産も持ってきてなくて‥」
「アホか。見返りが欲しくてやってるわけじゃねーよ。おら行くぞ」
オミさんがそう言って、サンダルを履いて玄関の外へ行くと二人は感動しつつオミさんの背中を追いかけた。思わず私はそんなオミさんの背中に向かって、
「オミさん、気をつけて下さいね!いってらっしゃい!」
そう言うと、オミさんはピタッと体の動きを止めて、
ゆっくり私の方へ振り返ると、ちょっと照れ臭そうな顔をして、
「‥行ってくる」
ボソッと呟いて、ベに君と山吹君を連れてパッと消えてしまった。
‥うん、なんか私まで照れくさいな。
静かに玄関の扉を閉めて、ちょっと気のせいでなければオミさんと同様、顔の赤い私はオミさんが帰ってくるまで、ひとまず大学へ行く為の準備を再開した。
「あ、そうだ。その間に蛇神様に衣装の相談しておこうかな」
文化祭にコスプレ衣装を用意しなければいけないんだけど、昨日のミニスカワンピは、オミさんをからかうのにはピッタリだったけど、本番当日には流石に着られない。ネット通販にも詳しい蛇神様に購入先を聞いてみようと思ってメールをすると、
『送ったワンピースが着られるなら、そのサイズのをいくつか送る』
と、即レス来たので、ちょっと迷ったけど‥まぁ、オミさんもすぐ帰って来ないだろうと思って寝室でワンピースを着てみた。
「う、まずい‥、ウエストがきついかも‥」
最近、よく食べるオミさんに釣られて食べ過ぎてたなぁなんて思って、蛇神様に恥ずかしいけど『ウエスト、ちょっとキツめ(涙)』なんてメールをしていると、パッと突然何もない空間からオミさんが現れた!!
「青葉!帰ったぞ!!」
「えっ!??お、オミさん?!!」
「なっ!??あ、あお!??」
ミニスカワンピをガッツリ着ている私を見たオミさんは、顔が一気に真っ赤になって慌てて後ろを向いた。‥いや、あの、服は着てますよ?
「な、なんで、それ着てるんだよ!!」
「蛇神様に衣装の相談をする為‥ですかね」
「あ、あいつ!!絶対、わかってて青葉に着せやがったな!!!」
‥それは私もちょっと思いますね。
とはいえ、耳まで真っ赤なオミさんを見て、なんというか面白い。小さく笑って「すぐ着替えますね」と言うと、あからさまにホッとした様子で、オミさんは無言で首を何度も縦に振った。今度何かあれば、これを着てもいいかもしれないな。
そんなことを思っていると、ピコッと私のスマホにメールの着信がきて、
『なんじゃ〜!まだまだ修行が足らんなぁ〜!!(笑)』
と、蛇神様から来ていて‥。
私はオミさんの為にそっとスマホを閉じると、すかさずオミさんのスマホが鳴り、確認したオミさんの「蛇神〜〜!!!」という叫び声が朝イチで家の中に響いた。




