竜の神様、コタツにご満悦。
シャボン玉の勝負は引き分けだった。
なかなかいい勝負だったかも?
でも、そのおかげでなんだか私もオミさんもスッキリした顔で家からお別れできた気がする。
「次の家でも勝負な!」
「気が早い‥。今度こそ私が勝ちます!」
「お前、本当負けず嫌いだな」
「オミさんに言われるとは心外です」
ああ言えばこう言う‥なんてお互いに言い合いつつ地図の場所までせっかくだから歩いていこうと、オミさんが言うので一緒に歩いていく。道路に面した道を一本中へ入って行くと、静かな住宅地で木々を植えている家が結構あった。
「ここか」
「え、ここ??」
オミさんに言われたその場所をまじまじと見ると、ウッドフェンスに囲まれた白い壁の家は、屋根は濃いグレーの瓦屋屋根。広い芝生の庭と、縁側があって私は驚いた。
「え?!!大きくない??」
「そうなのか?」
「都内で芝生の庭つきの家なんてすっごい高くて借りられませんよ?!」
「じゃあ、これが白の言ってた「福」ってやつかもな。本来なら、この場所を神の方から借りる予定だったんだ」
神様が賃貸契約するの??!
目を丸くすると、オミさんが可笑しそうに笑う。
「神の世界は人間の世界と繋がってるんだぞ。当たり前だ」
「ちょっと待ってください。私は人間の世界の常識でしか神様の世界を知らないんですけど‥?」
オミさんは「それもそーだな」と言いながらも面白そうに笑って、私の手を握るとずんずんとその白い家の方へ歩いていく。鍵を早速開けると、木の引き戸をオミさんが開けてくれた。
手直しした‥と、大家のおばさんが話した通り、木の香りが玄関一杯に広がった。そうして、広い玄関の前には我が家から送ったダンボールと荷物の山があったけど、それでも狭く感じない。
「‥とりあえず、荷物を広げますか」
「そーだな。あ、隣に部屋が二つあるぞ」
「え、どれどれ?」
玄関を入って左側にふた部屋あって、一番奥の洋間に私とオミさんがいつも寝ているベッドがドーンと置いてあった。なぜにこんな的確に??思わずオミさんを見上げると、首をフルフルと横に振る。
「俺は玄関にって‥」
「そうなんですか?」
「うむ、わしが置いておいた!!」
なんか聞き覚えのある元気な声が聞こえたぞ?
オミさんと私で、声のした方を振り返ると蛇神様がニヤニヤ笑って立っている。
「蛇神様!?」
「なんじゃ〜竜の子、もう仕事をする気満々だったとは!」
「ちげーよ、今回はたまたま‥」
「しかも職場に住み込みとは感心じゃな!!」
「人の話を聞け、招き猫を助けた縁だっつーの!」
「あの暴れん坊のルディオミがのう〜!」
蛇神様、オミさんの話を聞く気がないでしょ?
しかし本当に話を聞きつけるのが早いなぁ〜‥。蛇神様の後ろからひょこっとシキさんが掃除道具やら何やら一式を持って現れ「お手伝い致します!」というので誰が断れよう。二つ返事でお願いした。
シキさんとオミさんと私で、ざっくり荷物をあちこちに置いているその横で、蛇神様は縁側でのんびりお茶をしていた‥。お手伝いとは?と、蛇神様がクルッと私の方を向いて、
「コタツが壊れたらしいではないか?今度はこの家用に大きめのを用意しておいたぞ」
「え?コタツですか?」
「竜の子が残念がっておったし、わしも寒いのは嫌じゃ」
「‥蛇神様って、結構オミさんに甘いですよね‥」
自分が嫌って言っておきながら、本当はオミさんに‥って思ってたのだろう。私がそう話すと蛇神様はイタズラを見つけられたかのようにニンマリ笑う。リビングでオミさんが「青葉、コタツあるぞ!!!」って喜びの声を上げているのが聞こえた。蛇神様からのプレゼントですよって教えると、ちょっと複雑な顔をしていたけど、素直に喜んたげて!
荷物もそんなに多くない私とオミさんの引越しは1時間もせず、あっという間に終わった。ひとえにシキさんの溢れる家事能力のおかげだと思う。あんなにあった衣装が綺麗に仕舞われて‥、私は感動しきりだった。
早速広いキッチンでお湯を沸かして、お茶を淹れるとコタツに座卓、テーブルの上にはお菓子が置かれていて‥絶対抜け出せないトラップのような出来上がり具合だった。
オミさんと、蛇神様がまんまとコタツトラップから抜け出せないようである。二人は「コタツ最高」「やはり大きいのを買っておいて正解だったの〜」とホクホクした顔でまんまと捕まっている‥。シキさんがそれを見て、
「お昼はお引越しもしましたし、お蕎麦に致しましょう。すでに注文しておきました!」
と、爽やかな笑顔で言うので私はもう頷いておいた。
とりあえずコタツにでも、どうぞ?




