竜の神様、一緒に引っ越しする。
びしょびしょになってしまった我が家‥ならぬ我が部屋。
大家さんは早急に引っ越し先を探すと言ってくれたけど、さてどうなるやら‥。
翌朝、スマホのアラームで起こされてオミさんのシートベルトのように私の腰に回された腕を外そうとしていると、部屋の呼び鈴が鳴らされた。
「こんな朝早く誰だろ‥」
不思議に思いつつ、オミさんも起きたのか腕を離して私と一緒に玄関まで行く。そっと扉を開けると、大家のおばさんが立っていた。
「おはようございます!昨日は大変だったでしょう?家は大丈夫?」
「あ、はい。お陰様で‥なんとかなりました」
「引っ越し先なんだけどね、すぐ近くに古い一軒家があるのよ。この間、手直し終わったばかりだから良かったら、そこに今までの値段でいいから引っ越ししない?」
一軒家??
それなのにお値段一緒でいいの?
私が驚いた顔をすると、大家さんはちょっと眉を下げて、
「古い家だからね。若い人は借りないし‥。かといってお年寄りの方は「自分には大きすぎる」って借りないし‥。処分してもいいかな?って思いつつ、思い入れがあるもんだから手直ししたの。だから住んで貰えるだけで嬉しいのよ」
そんな思い入れがあるのに、いいの?そう思ったけど、確かに住んでない家はどんどん悪くなっちゃうしなぁ。私は大家さんを見て、
「それでしたら、ぜひお引っ越しさせて頂けると‥」
「そう言って貰えて、こっちも嬉しいわ!はい、これ家の地図と鍵!もういつでも引っ越して貰っていいから!なんならあっちが気に入ったら、あっちにずっと住んでもいいから!!こっちの鍵は今度取りに行くから持っていて!」
‥どっちかというと、それが本音では?
まぁ、黙っておくに越したことはない。私はお礼を言って地図と鍵を受けると大家のおばさんは、機嫌良さげに帰っていった。
後ろを振り返ると、一部始終を聞いていたオミさんもちょっと驚いた顔をしている。
「‥と、いう事らしいです‥」
「いきなりだな。場所はどこだ?」
「えっと、ここらしいんですけど‥」
地図を開いてオミさんと見ると、よく行くスーパーにもコンビニにも近い。おお、結構いい場所ではないか?と思っていると、オミさんがハッとした顔をする。
「‥今度、神をする場所じゃねーか」
「え?」
「‥神になるっていうけど、社は持たないんだ。人間の神じゃねーから」
「ええええええ??!!そんな事ってあるんですか?!」
「人間が来たら、かえって危ないからな」
「それは私もでは??」
「お前は俺と同じ神になるだろーが」
「あ、そ、そうだった!!」
私は驚きつつ、その地図を見るけど‥民家なのに「モノ」の神様の社兼家になるのか?と不思議な感覚だった。
オミさんはちょっとワクワクした顔で私を見て、
「んじゃ、引っ越しするか!」
「そ、そうですね‥」
「荷物は、この家に力を使って移動させるから、とりあえず一纏めにするぞ」
「早い!何もかも早い!!」
手早く朝ご飯を食べると、早速オミさんと私とで荷物をリビングに集めて置く。ダンボールにたっぷり入った衣装も置いて、準備はバッチリだ。
オミさんは両手の手のひらを荷物にかざすと、荷物がパッと消えてしまった。
「すごい‥」
「まぁ、神だしな!」
「本当にオミさん神様なんですね〜」
「‥おい」
しみじみと呟くと、オミさんからツッコミが入ったけど気にしない。
ガランと何もない部屋を見渡して、ちょっと寂しくなる。
だってここに一杯思い出が詰まってる。
オミさんと出会って、沢山話して、しょっちゅう言い合って‥、でもいつも帰ってくる場所はここだった。
「青葉」
オミさんに呼ばれて後ろを振り返ると、オミさんにシャボン玉が手渡された。
「え、これ‥」
「この家での勝負はまだちゃんと決まってなかったろ。シャボン玉をどっちが長く残せるか勝負だ」
ニヤッと笑うオミさんの顔をまじまじと見つめる。
「‥俺も、ここ結構気に入ってた」
「オミさん‥」
「お前がいた場所だしな」
オミさんはそう言って、ベランダの窓を開ける。
ちょっとヒヤッと冷たい風が部屋に入ってくるけど、構わずオミさんはベランダへ歩いていくので私もついていく。
「‥新しい家でも勝負するぞ」
「負けませんよ」
「おし、じゃあここでの勝負を今こそつけるぞ!」
「望むところです!」
オミさんも同じように、ここを離れるのを寂しいと思っていたのが知れて嬉しいのと、そんな私を気遣ってくれて、こんな素敵な提案をしてくれるオミさんの優しさが胸をくすぐる。やっぱり神様だなぁと、好きだなぁ。
オミさんの「せーの‥」の声に合わせてシャボン玉を吹いた。
この家に「ありがとう」と「またね」の気持ちを込めつつ、私とオミさんはシャボン玉を吹いて、顔を見合わせて笑った。




