竜の神様、「福」を貰う?
招き猫の白ちゃんはオミさんに綺麗にしてもらった上に、時計塔さんの所に再就職先が決まって嬉しそうだ。
夕飯を食べてから、白ちゃんを置きに行く事になった。
オミさんは3つ目のメンチカツを食べつつ、白ちゃんを見て、
「まぁー、たまに会いに行くけど、なんかあれば猫又に相談しとけ」
って、優しく話すけど‥。
オミさん結構面倒見がいいんだな。
でもそういえば、どつき合いしつつもヨークさん達となんだかんだ仲が良いし、セキさんやシキさんが言うには蛇族が虐げられていたのを助けたのもオミさんだったし‥。弱っていたり、助けを必要としている存在を守るのって、オミさんに合ってるのかもなぁ。
そう考えると、蛇神様の采配はすごいなぁって思ったり。
私がメンチカツを一つ食べ終える頃、オミさんは全部食べきってしまうと、白ちゃんをさっと持ち上げる。
「んじゃ、ちょっと送ってくる」
「え?もう行っちゃうんですか?」
「新しい職場に合うかどうかもチェックしとかねーとだろ」
「お、おお。神様、人事担当みたいなセリフを言ってる」
「雑誌に書いてあった」
「まさかの知識がそこから!!!」
しかし白ちゃんはそんなオミさんに感動して、『か、神様ぁああああ!!!』って、にっこり笑った顔なのに声は完全に涙声である。
『私、まだ32歳なんですけど、神様に「福」を招いておきますね!!!』
「いや、そんな‥」
『招き猫としての矜持をここで見せつけず、いつ、どこで、誰が見てくれるんですかぁああああ!!!絶対「福」を招いておきますからね!!!』
「‥わーったよ、ありがとな」
なんというか、半ば押し売りのような「福」を頂いたようだ。
オミさんはちょっと面白そうに笑って、白ちゃんの頭を人撫ですると、時計塔さんの元へ白ちゃんとあっという間に出かけてしまった。
「‥そっかぁ、4月からこんな感じになるのか‥」
一人残された部屋で思わずボソッと呟いた。
3月には結婚して、4月から神様になったオミさんとどんな生活になるんだろう‥と、ちょっと先が見えなくて不安に思ってたりしてたので、少しだけこの先が見通せてホッとした。
そうだよね、何もかもが結婚して変わる訳じゃない。
きっと、少しずつ変化していくんだ。
どこかナーバスになっていたのかもなぁ‥。私もオミさんのように前を向いて、進まないと!ちょっとやる気が湧いてきて、食器を洗ってから山積みになったダンボールを見る。
「よし!先ずは衣装を決めちゃおう!!」
そう思って、ダンボールの蓋を開けようとすると‥
「あれ?ダンボールの上が濡れてる??」
なんで段ボールが濡れてるの?
不思議に思って、上を見上げると‥、ビシャッと水が顔に落ちてくる。
「え、ええ??水???」
驚いて声を上げた瞬間、水が天井から勢いよくバシャーーーっと部屋の中へ流れ込んできた!!な、なんで??!外は雨なんて降ってないよね?
「あ、っていうか、衣装!!!!濡れたらまずい!!」
ど、どうしよう!!ダンボールを守ろうとするけど、水がどんどん流れ落ちてくる。ダンボールを水から避けようと棚の上に置いていると、オミさんが部屋へ戻ってきて部屋の惨状に目を見開く。
「青葉!大丈夫か!!」
「お、オミさん!!天井から水が!!」
「天井?!!」
オミさんが驚いて上を見上げた瞬間、我が家の呼び鈴が連打された。
こんな時にどなた〜〜!??オミさんがちょっとイラついた顔で、玄関へ向かおうとするので私がダッシュで玄関で向かった。今、行ったら尋ねてきた人がオミさんの顔にびっくりしそうなんだもん。
扉を開けると、大家さんのおばさんが真っ青な顔で立っていて‥
「ごめんねぇ!!今、上の階の人の水道管が破裂したみたいなの!家財道具は大丈夫?!」
そういった瞬間、部屋から水が勢いよく流れてきた。
オミさんが慌てた声で、向こうの部屋から「わーー!!俺の雑誌!!」って叫んでいる。あ、雑誌まで濡れたという事はベッドも悲惨な事になってるな?
大家さんと私がしばし見つめ合った‥。
「‥ちょっと引越し先を早急に探すから、待っててもらえるかしら?」
「あ、ありがとうございます‥」
おっかしいな〜〜。
招き猫さんの「福」はどこに行ったのかな?
どこか遠くを見つめつつ、急いで部屋へ戻ってダンボールの衣装の救済へ走った私だった。




