竜の神様、モノの神様。
向かいの蕎麦屋の店のおっちゃんに捨てられたという招き猫の白ちゃん。
御年32歳。結構年上だった。
道端に捨てられているままだと、廃品業者に回収されてしまう‥と、おいおい泣くのでひとまず連れて帰る事になった。ちなみにメンチカツはちゃんと買ってからである。
部屋に入って、オミさんが招き猫を段ボールの上に置く。
オミさんは夕飯前なのに、メンチカツの匂いに負けて4つ買ってきたから‥と、早速一つを囓りつつ招き猫の白ちゃんを見る。
「で、お前はこれからどうしたいんだ?」
『うう、せめて第二の人生をゆっくり過ごしたいです。あと耳直して欲しいです』
「あ〜、これか‥。その前にこの汚れだなぁ」
『ヤニとかあちこち付いてて悲しい‥』
なんか会話が面白い。
スマホで綺麗なヤニの落とし方を検索すると、ちょうど家にある物で落とせそうだ。と、オミさんが私を見て、
「俺がやる。どーせ4月からはこういうのが仕事になるだろうし」
「え??お仕事??」
「「モノ」の神になるんだ。人間のじゃねー」
「ええええ!?そうだったんですか!でも火竜なのに?」
「火はな、『再生』とか『復活』の力があるんだ。あとは穢れを焼き払うってな」
オミさんの言葉に私は目を丸くする。
火にも意味があるんだ!!
しかし白ちゃんは、オミさんの「焼き払う」という言葉を聞いて、思い切り震え上がった。
『も、燃やされるのは嫌です!!!!』
「アホか、燃やさねーよ。再生するんだっての!!」
『あ、なるほど?ちょっと顔が凶悪だったんで実は怖くて‥』
「テメー、マジで燃やすぞ!」
「オミさん落ち着いて!!!神様!!神様でしょうに!!」
慌ててオミさんを止めると、オミさんはむすっとしつつ白ちゃんの体を他にも壊れてないか、確認し出す。しかし「モノ」へ対する神様もあるなんて‥。そんな世界を初めて知ったけど、あのさ私に一言くらい教えてくれても良くない?ちょっとブスッとして、
「オミさん、そういうの教えて下さいよ」
「‥悪かった。コタツですっかり忘れてた。メンチカツやるから許せ」
「お手軽すぎ!!!」
オミさんと話していると、おずおずと白ちゃんが『あの〜〜、綺麗にして貰えます???』と、申し訳なさそうに声を掛けるのでハッとする。さっきに続き、今回もすみません。
白ちゃんの修復と掃除はオミさんがすると言うので、私は夕飯作りをする事にした。キッチンで、ささっと味噌汁と野菜炒めを作っていると、
『買った当初はツルツルのお肌だったんです』
「そうか、そうか」
『たまにおっちゃんも私を拭いてくれてたのに‥』
「確かにここの辺りは綺麗だな」
『もういらないって‥』
「しょーがねーよ。人間には物の声は聞こえないしな」
なんか、オミさんカウンセリングもやってる感じ?
ちょっと会話が面白いな〜なんて思いつつ、夕飯を作り終えて、リビングを覗くと‥
「わ!!すっごい綺麗!!!」
思わず大きな声で言ってしまうくらい、招き猫の白ちゃんは綺麗に磨かれて、耳も綺麗に割れている所が塞がっている!
『はい!!すっごく綺麗にして頂きました!』
「わ〜〜、良かったですね!オミさんすごいですね!!」
「まぁ、神だしな」
ちょっと自信満々にオミさんは言うけれど、まだ半神ですよね?
でも嬉しそうだし、あえて黙っておいた。
「んじゃ、次は第二の就職先決めねーとなぁ‥」
「あ、そうか。そうですよね、どこかのんびりとお客さんを出迎えられる場所か」
葉月さんのお店にどうかな〜と思ったけど、色々すでに飾ってあるしなぁ。
できれば静かで‥、たまに見に行ける距離とか‥、
「あ、時計塔」
オミさんがポツリと話して、私を見る。
「時計塔!確かにいいかもですね!あそこは猫又さんもいるし、猫キャラ定着してますし!すぐに何かあれば見に行けますしね」
私の言葉にオミさんが小さく笑って頷く。
「ちょっと時計塔に聞いてくる」
「え?今から?」
「その方が白も落ち着くだろ」
そう言ってオミさんは、パッと姿を消してしまった。
白ちゃんは感激して『本当に神様!!!』って言うけど、そうだね神様だね。ほどなくしてオミさんが戻ってきた。
「時計塔と猫又は面白そうだし、入り口に置いてくれていいってよ」
「良かったね〜白ちゃん!今度は時計塔さんの所だよ」
『なんと、物でいえば歴史のある時計塔さんの元で再就職とは!!神様、怖いって思っててごめんなさい!!!』
白ちゃんの言葉にぶっと私が吹き出すと、オミさんが「そういうのは胸に秘めとけ」ってむすっとした顔で言いつつ、2つ目のメンチカツを食べ始めた。ちょっと!!夕飯前ですよ!!




