竜の神様、緊張が走る。
ちょっとひとしきり泣いてからお母さんにお爺ちゃんの話をして、私とオミさんは早速蛇神様の別荘へ帰ることになった。
けれどお母さんは、すぐに帰るのを残念がって‥
「もう帰っちゃうの〜。せめてお婆ちゃんが町内会の集まりから帰るまでいたらいいのに〜」
って言うけど、爺ちゃん!爺ちゃんの方も心配して!!
そう言うとお母さんは家からカバン一杯に何やら詰め込んで私に渡す。
「じゃあ、蛇神様と言の葉の神様に、狐の神様だっけ?とりあえず色々お土産になるような物を入れておいたから渡して置いてね!」
「‥我が家のぬか漬けを果たして神様が喜んでくれるのか?」
「気は心よ〜〜!!」
うちのお母さんのこのマイペースっぷりときたら‥。
ひとまずお母さんからカバンを受け取ると、「冬休みには帰って来なさいよ〜」と話すので頷いてから、我が家の玄関でそわそわしながら待っているオミさんの方を見上げる。
「オミさん、じゃあ行きましょっか!」
「‥お、おう」
オミさんはちょっと家の中を見たそうだったけど、冬休みね!
なにせ部屋が綺麗だったか思い出せないし‥。
ポケットから金の懐中時計を出して、ツマミを右に回す。
「‥御神木が守られた未来の蛇神様の別荘へ‥」
そう話すと、体がまたもグイッと引っ張られて行く。
遠くでお母さんが呑気な声で「またね〜」と言っているのが聞こえて、ちょっと力が抜けた瞬間、蛇神様の別荘の玄関の前に立っていた。
「戻ってきた‥」
「すごいですね、狐さんの時計‥」
そう言って手の中にある時計を見ると、一枚の葉っぱになっている。
「あ、あれ?!!」
「なるほど、化かされた‥っていうオチをつけるのか」
オミさんが感心したように私の手の中を見つめるけど、そういう演出?!
ちょっと口をポカンと開けていると、オミさんは可笑しそうに笑って、私の頬にサッとキスをする。
「な、な、なあぁああ???!!」
「‥誰かさんはすぐに自分と離れようとするからな」
「え、あ、だって、さっきのは‥」
「わーってるよ。お前がそういうのを躊躇わずにするのは‥。ただ、俺もお前といたい‥の、その、忘れんな」
オミさんはちょっと照れ臭そうに横を向く。
いつもなら肩からサラリと流れるあの長い赤い髪がなくて、私は思わず言葉に詰まる。
後先考えずに飛び込んでいってしまう私を責めるのでなく、側にいたいと言ってくれるオミさんの優しい気持ちと言葉に、嬉しいのと、どうしてそこまで優しくしてくれるんだろうという思いもあって‥。私はそっとオミさんの手を握る。
「‥帰ったら、髪を綺麗に切り揃えましょう。それで、乾かします」
私がそう言って、オミさんを見上げると満足そうに笑って頷いてくれた。
「あー、お二人さんもう終わったかの?」
ガラガラっと引き戸が勢いよく開かれて、私は体をびくりと跳ねさせると、蛇神様がニンマリ笑っている。
「おー!ルディオミ!随分と良い男になったではないか!あ、それはお土産だな?!うむうむ、青葉の母上は気が利くのう!これシキ、お土産を言の葉の神様と、狐の所へ持っていってくれ〜」
サッと私の手からお土産がパンパンに詰まっているカバンを蛇神様が受け取ると、リビングへ走って行くので私とオミさんはちょっとぽかんとしつつ、リビングへ一緒についていくと、
お爺ちゃんがむすっとした顔で、大きなソファーに座って腕を組んでいる。
その姿を見て、オミさんがピッと姿勢を正す。
「お爺ちゃん!起きてもう大丈夫なの?」
「大丈夫だ。さっき、シキさんとやらに色々説明してもらった」
チラッと横を見ると、キッチンからトレイにのせてシキさんが持ってきてくれたけど、小さく笑って頷いている。シキさんに説明してもらうのが、このメンバーの中では一番正解かもしれない。
「‥えーと、そ、それなら良かった。と、いうわけで改めて紹介を‥」
「いや、教えてもらったんでもう良い」
びしゃりと言い放ち、私とオミさんをジロリと睨むように見つめる爺ちゃん。な、なんだ??まだ何か文句があるのか?!私とオミさんに言い知れない緊張が走った。




