竜の神様、大いに慌てる。
縁のある者が捧げものをしないと龍の神様を助けられないと知ると、オミさんはあっさりと大事な力が込められている髪を切ってしまった。
おかげで龍の神様は元気になったようだけど、オミさんも大丈夫なの?心配になってオミさんを見上げると、オミさんは私の鼻をいきなりつまんだ。
「ふが!!?」
「間抜けヅラ」
「〜〜〜〜もう!!!こっちは心配してるのに!!」
「そんだけ元気なら、もう大丈夫だな」
「へ?あ、そ、そういえば、体に普通に力が入る!」
木を切られたと連絡が入った時は、全然力が入らなかったのに!!しっかり立てる事にようやく気付いた。そんなワンテンポ遅れて気付いた私をオミさんが面白そうに笑う。
「黒いのも寄ってこないな。大分、俺の力も更に入ったから守るのも楽だ」
「あ、そ、そっか‥。さっき一気に集まってきてましたね」
「そう。だから、髪で解決できるなら安いもんだ」
オミさんはそう笑って話しながら、私の頭を撫でる。
くっ!!!オミさん、格好いいがすぎないか?!いつもは子供みたいにからかってくるくせに‥。
ちょっと胸がギュッと苦しくなりつつ、照れ臭くてジトッと視線だけオミさんを見上げると、オミさんはそんな私を面白そうに笑いながら手を差し出す。
「未来に帰ろうぜ。爺さんも元気になってるだろ」
「‥はい」
オミさんの熱い手をそっと握ると、嬉しそうに笑ったオミさんが私の手を握り返してくれた。境内を出て未来の蛇神様の別荘へ戻ろうとすると、
「あら、青葉??」
「お母さん!?」
鳥居の方からお母さんがやってくる。
「あらあら、ルディオミさんも一緒なの〜?ヤダ〜、お爺ちゃんそっちに行ったって今連絡したのに〜」
‥相変わらずなマイペース!
私とオミさんは思わず一緒に乾いた笑いを浮かべる。
「龍神様にご挨拶したの?最近、なんだか神社全体が暗いからお掃除をとことんしようと思って、箒を買ってきたんだけど、なんだか随分綺麗になった感じするわ〜?あ、そういえばルディオミさん髪を切ったの?似合うわね!」
あ、うん。
こりゃ話が長くなってしまいそうだ‥。
なんとか早く切り上げて、お爺ちゃんの所へ行かねば‥そう思っていると、
「青葉」
声がして、神社の方を振り返ると白い着物に袴を着ているおじさんが立っている。いや、おじさんというか‥、死んだはずのお父さんが立っていて、小さく笑って手を振っている。
横にいるお母さんはオミさんと話をしていて気付いてないようだ‥。
お父さんは口元に指を立てて、まるでお母さんには内緒だよ‥とばかりに小さく微笑む。
‥私はといえば突然の事で声も出ない。
お化けっぽいのは見えたけど‥お父さんの姿なんか今まで見えた事がなかった。ずっと会えたらいいな、一目でも見えたらいいな‥そう思っていたお父さんがなんで今?!
と、お父さんの肩に小さく白い光が乗っているのが見えた。
もしかして龍の神様の力?
名前を呼びたいのに、はくっと口だけ動いて、目を見開いているとオミさんも気付いたのか、お父さんを見ると小さく頭を下げて、
「ずっと大事にします」
そうオミさんが言うと、お父さんは満足そうに微笑んだ。
その笑顔を見た瞬間、言葉が出た。
「お父さん!!!」
そう呼ぶと、お父さんはちょっと目を丸くしたかと思うと、柔らかく笑って静かに消えた。なんだか「ずっと見守っているよ」って言ってくれたみたいで、ボロッと涙が出てしまった。
突然叫んだ私と会釈したオミさんを見て、お母さんはちょっと驚いた顔をして、
「あらあら、お父さんに会えたの?元気そうだった?」
と、大変呑気な口調でボロボロ泣いている私に尋ねる。‥あの、本当にマイペースが過ぎないかい?そう思ってお母さんを見つめると、ちょっと涙目だ。
「‥やっぱり娘の結婚相手は気になるのね」
そう笑うお母さんに涙腺が壊されてしまって、更に涙が出るし、お母さんも涙ぐんでいるし、オミさん一人が大いに慌てて鳥居の前で右往左往していた‥。ごめんね、オミさん、ちょっとタイム入ります。泣いちゃいます。




