竜の神様、約束します。
「オミさん!!髪!!!」
ざっくりと自分の髪を切るオミさんに驚いて目を見開くと、オミさんはちょっと頭を振ると掴んだ長い髪を御神木の周りを囲うように置くと、何やら呪文のような言葉を呟く。
すると、オミさんの切った髪が急に燃え出し、御神木の周りを囲うと、赤い炎と共に青い炎が上がる。
「え??炎が‥」
気が付くと手に触れていた龍の神様がいつの間にか見えなくなって、赤い炎と一緒に上がった青い炎は龍の姿になって御神木の周りを螺旋状に絡まって、そのまま空へと登っていった。そうして、空へ上がったかと思うと、空が眩しい光に包まれたかと思うと、神社全体に今度は雨のように光が降ってきた。
パラパラと光が落ちてきて、神社のあちこちへ雨のように染み渡り、さっきまで全然感じなかった清らかさが神社いっぱいに満ちていくのが分かる。
驚いてオミさんを見ると、襟足には当然髪がなくて‥。あんなに手入れされて喜んでいた髪を切ってしまったオミさんを見て、私は言葉がうまく出てこない。
「オミさん、髪‥なんで‥」
「言の葉の神様が縁のある者の捧げ物が必要って言ってたろ。龍と竜繋がりだし、俺はお前と魂を半分結んでいる。誰よりも縁があるだろ」
そうだけど‥。あんなに大事にしていた髪なのに。
私は泣きそうになって、オミさんの襟足にそっと触れる。
「大事な‥髪だったんじゃないんですか?」
「髪はその内伸びる。それに、お前と爺さんを助けられるなら別に構わない」
あっさりと言い放つオミさん。‥そんな簡単に私やお爺ちゃん、龍の神様の為に切って捧げてしまうオミさんに嬉しいのと、申し訳ない気持ちで一杯になる。
と、オミさんが私の髪を撫でるとニヤッと笑う。
「‥まぁ、髪は今度は俺が乾かしてやる番でもいいだろ」
そういうので、胸がいっぱいになってオミさんに思い切り抱きついた。
オミさんはその途端、石のように固まってしまうけど‥。そんな優しい気持ちが嬉しくて‥。
気に病まないように掛けてくれた言葉も嬉しくて、私はしばらくギュッとオミさんを抱きしめていたけど、オミさんが私の背中をトントンと優しく叩くので、顔を上げると赤い顔でオミさんが向こうを見ろとばかりに御神木の方を指差すので、そちらを見ると‥、
真っ白い光の塊が空中に浮かんで輝いている。
こちらをなんだか優しげな瞳で見ていて‥。ば、バッチリ抱きついているのを見られてる〜〜!?慌ててオミさんから体を離した。
「‥え、えっと??」
「龍の神様だ。力が戻ってきたけど、まだ少し弱いからお前でも見える」
「あ、そっか。高位の神様は見えないんだった‥」
でも、あんなにキラキラと光っているのを見ると、大分元気そうな印象だけど‥。そう思っていると、頭の中に声が響く。
『竜の子よ、孫を助けてくれただけでなく、私にまで力を与えてくれて感謝する』
これ、もしかして龍の神様の声?
静かな低い声に驚いてオミさんを見上げると、静かに頷く。
オミさんは白い光の塊を見て、
「こちらこそ、父に話をしてくれたおかげで青葉さんに会うことができました。ありがとうございます」
オミさんの言葉に私の顔が一気に赤くなると、白い光が小さく笑った気配がする。そうして、こちらを優しく見つめる感覚に包まれる。
『竜の子よ、我が孫を‥頼む。孫よ、いつでも見守っている。これからもそのまま優しく、柔らかくありなさい』
小さく頷くと、龍の神様は私とオミさんの周りをぐるっと囲むように飛んでから静かに消えると、リンと綺麗な鈴の音が周囲に響いた。すっかり清々しい空間になった神社に驚きつつ、オミさんを見上げる。
「消えたけど、龍の神様大丈夫なのかな‥」
「少し休むらしい。やっぱり弱ってたしな。すぐに元気になるのに時間が掛かる。でも、これで言の葉の神様も助けられると思う」
それなら良かった!
私はホッと息を吐くと、オミさんが私の顔をまじまじと見つめて、なんならちょっとニヤニヤしてる。
「オミさん?」
「俺の力がすげー入ってる」
「え?そうなんですか??」
「俺の髪にも力が入ってるからな!」
「そ、それって切っちゃったらまずいんじゃないですか?!」
「それくらい大事なもんを捧げなきゃ助けらんねーだろ」
すんごい大事な事実をサラッと述べたけど、そんな大切なことを後から言うんじゃない!!ええ、どうしよう‥、コタツで高めのアイスを買ってあげようなんて思ってたけど、それだけじゃ全然足りないよね?!




