竜の神様、緊急事態。
オミさんと私の結婚に驚いて、わざわざ田舎から上京してきた爺ちゃんは、駅の構内だというのにいきなり怒鳴りつけて、私の側にいるオミさんをギロリと睨む。
「青葉!聞いてるのか!!」
「聞いてるよ‥。爺ちゃん、とりあえず落ち着いて」
「ええい!!落ち着いてるわ!!」
いや〜〜、全然落ちついてませんよね。
オミさんは背筋をぴっと正して、挨拶しようとすると爺ちゃんはそんな隙さえも見せない。ツンと横を向いて、私の手を引っ張る。
「帰るぞ」
「はぁああああ???」
「大学は休め。とにかく一旦帰るぞ」
「ちょ、ちょっと待って爺ちゃん!テストも近いし、文化祭も近いし、何よりちょっと話を聞いて!」
私と爺ちゃんはもう人目も気にせず、バチバチと睨み合うと蛇神様がのんきな声で「青葉の気の強さは祖父似なんじゃな〜」って言うけど、違うと思いたい。
私はオミさんの方を向いて、
「お母さんの説明で混乱したと思うけど、彼がオミ‥えっとルディオミさんで、け、け、結婚したいと思ってて‥」
オミさんは慌てて小さく会釈すると、爺ちゃんはまたも顔を横に背けて‥
「ダメだ!!そんな髪の長いチャラチャラした奴なんて認めん!!」
「ええーーい!!!髪が長いからチャラチャラしてるとは限らないでしょ!!その感覚どうにかして!!」
ダメだーーー!!
これは全く話を聞く気がないな??
私はジトッと爺ちゃんを睨むと、ふと私の持っているカバンに付けていた龍の神社のお守りがポトっと床に落ちてしまった。
「あ、お守りが‥」
私がそう言うと爺ちゃんの手の力がちょっと弱まる。
「‥お守り、持っていたのか‥」
「爺ちゃんが持っていけって言ったんでしょ。ちゃんと持ってたよ」
まぁ、このお守りにお願いしたらまさかのオミさんが現れたんだけど‥。私がそのお守りを拾おうとすると、急に自分の力が何かに吸い取られたようになって、足に力が入らなくなって倒れそうになる。
「え?」
ぐらりと倒れかけた私の体を咄嗟にオミさんが支えてくれて、なんとか転ばずに済んだけど‥。足に力が入らない?爺ちゃんが私を支えてくれているオミさんを見て、
「青葉、どうしたんだ!お、おい!君、青葉から離れ‥」
そう言った爺ちゃんも急に倒れそうになって、シキさんが受け止めてくれた。と、爺ちゃんは苦しそうに胸を掴んでいる。
「爺ちゃん?!!」
と、蛇神様が爺ちゃんの体に触れる。すると、淡い光に包まれたかと思うと一瞬で眠り込んでしまった。
「蛇神様!?爺ちゃんは‥」
急な出来事に私はパニックになる。
なんで?今まで元気そうだったのに‥。青い顔になった私の手に握られているお守りを蛇神様がチラリと見て、
「どうやら神社の方で何かあったようじゃな‥」
「神社で?」
「ここ最近、神社で何か起きたか?」
「え‥夏前の台風で神社の一部と家の屋根が飛んじゃった事くらいで‥」
「それ以外で、何かあったようだ。龍の力が弱っている」
「弱ってるって‥」
私の力がうまく入らない原因もそれ?
オミさんは私を縦抱きして、蛇神様を見て、
「とりあえず青葉の力も弱まっているから、蛇神別荘貸してくれ」
「そうじゃな‥。青葉どころか祖父殿にも黒いのが目を付けてる‥」
え‥。
黒いもやの事??
私が周囲を見回すと、黒いもやがあちこちからこちらへ近付いているのが見えて、オミさんの服を思わずギュッと掴む。以前、オミさんの体に入った時に見た時と比較にならないくらい、黒いもやが一杯だ。
オミさんがチッと舌打ちして、「悪食も来てるな‥」って呟く。
蛇神様が、両手を広げてパンと手を打つと、周囲が真っ白な光に包まれて、周囲にいた黒いもやが一斉に綺麗に消えた。
「き、消えた‥」
「掃除は大事じゃからな!」
ニヤッと笑うと、すっかり綺麗になった駅からまたも力を使ったのだろう。夏休みにお世話になった蛇神様の別荘が目の前にあって、こんな時なのに思わず嬉しくなってしまうけど‥。いやいや今はそれどころじゃない。
玄関を蛇神様が開けてくれて中へ入ると、以前は一階にリビングとキッチン、洗面所やお風呂しかなかったのに、玄関の横に部屋ができていて、寝室がある?!!驚いて目を丸くすると、蛇神様がニヤッと笑う。
「客間を作っておいたんじゃ。便利じゃろ?今度青葉が泊りにきたら、わしはここに泊まるから夜通し遊ぼうな!」
「神様って、すごいですねぇ‥」
思わずポカーンと口を開けてしみじみそう話すと、蛇神様は得意げに「そうじゃろ、そうじゃろ!!」と話す。早速、お客さん用の寝室のベッドにシキさんが爺ちゃんを寝かしてくれたけど‥。ちょっと青い顔の爺ちゃんを見て、私は胸が騒ついてしまう。うちの神社で一体、何が起きたんだろう‥。




