竜の神様、デート中に参加?
オミさんは自分の顔くらいあるんじゃないか?って大きさのハンバーガーを食べて、なおかつポテトも結構な量を食べたのに、もう一個注文して食べてた。
神様、そんな食べなくても平気なはずでは?
私は見ているだけで胸焼けしそうですよ‥。自分の分をなんとか食べきるとオミさんに「そんなちっこいので足りるのか?」って言われたけど、思い出して欲しい。この間、私の体で回転寿司のお皿3つ食べたらお腹いっぱいになった事を‥。
お店を出ると、まだちょっとパラパラと雨が降っているけど、空は明るい。まぁ、これくらいの雨なら歩くのも大丈夫か?
「オミさん、腹ごなしにショッピングモール行きません?」
「おう、コタツ見に行くんだろ?」
「はい、まだ暖かいけど‥冷えてくると、一気に寒くなるんで‥」
寒さに弱そうなオミさんはそれを聞いて、顔を顰める。
本当に寒いの苦手なんだな。
「まぁ、でも温かい部屋でコタツに入ってお鍋をしたり、アイスを食べるのも楽しいですよ?蛇神様もきっと好きだろうし、皆でコタツに入ってゲームも‥」
そう話した途端にオミさんが私の口元に自分の指をピタッと当てるので、ドキリとして驚いて顔を上げる。と、無言で私に首を横に振るオミさん。
「絶対来る。今すぐにでも来そうだ」
「確かに。とりあえず違う話しましょっか」
「おう」
‥どうやらオミさんも蛇神様に警戒継続中だったようだ。
お互い顔を見合わせて小さく笑ったその時‥チリンと鈴の音が聞こえた。普段だったら気にならない音なのに、すごく澄んでいて、しかもよく響く音に後ろを振り返ると、
先頭に赤い和傘を掲げた狐のお面を被って、着物を着た人が鈴を鳴らしていて、その後ろに白無垢を着た狐のお面を被った女性が静かに歩いている。そうして後ろにもゾロゾロと白い着物を着て、白い提灯を持っている人達が列をなしていて‥、
「‥もしかして、狐の嫁入り?」
初めて見る光景に私は目を丸くする。
周囲で沢山の人達は歩いているけれど、不思議なことにその列を避けるように歩いていて、お日様が小雨をキラキラと光らせて‥、そこだけ鈴の音しか響き渡らない静かな世界が広がっていた。
なんで?今まで天気雨の日に見えた事なかったのに‥。と、手を繋いだまま驚いた顔をしているオミさんを見上げて、ハッとする。そうか、オミさんと魂を半分結んでいるから見えたのかも。
オミさんは、鈴を鳴らして静かに歩いて行く狐の嫁入りの行列を、じっと見ている。
「‥神の世界の領域が、こんな都会なのに融合してんだな」
静かに話すオミさんにつられて私も小声になる。
「珍しいんですか?」
「この国自体が珍しい国だからなぁ‥。神社の隣にビルがあるとか規格外だろ」
そうなの?
この国に住んでいると普通の感覚がわからない。
不思議そうな顔をしてオミさんを見上げると、可笑しそうに笑う。
「普通はな自然に囲まれた世界が、神の世界に近いんだ。余計な雑物がないからな。でもこの国は、神が普通に石だらけの街中でも生きてる。面白いな」
石だらけの街中‥。
そう言われるとそうかも。オミさんもコンビニ大好きだしなぁ。
「オミさんも気に入ってますしね」
「ああ、コンビニのアイスも菓子も、さっき食べたハンバーガー美味かった」
「現世に慣れ親しみすぎでしょ‥」
思わず笑ってしまうと、オミさんも小さく笑う。
と、狐の行列で歩いていた子供の一人が転んでしまう。
「あ、大丈夫?」
慌てて狐のお面を被った子に手を差し出してしまったけど、子供の子はお面の向こうで驚いたのか無言で私を見上げる。あれ、これもしかしてダメなやつだった??失礼にあたっちゃう???
冷や汗が出ると、私の後ろからオミさんがひょいっと転んだ子の足元を見る。
「あー、履物の紐が切れそうだったのか」
私も転んだ子供の足元を見ると、どうやら赤い鼻緒が切れかけてバランスを崩したようだ。オミさんは指先から光を出すと、鼻緒がすっかり元通りになっている!しかも、小さく狐の模様が入ってる。
私も狐のお面を被った子も驚いて、鼻緒を見てからオミさんを見上げると、くしゃっと笑って、
「大事な輿入れだろ。気をつけていけよ」
そういって、狐のお面を被った子の手を引っ張って立たせてあげた。
狐のお面を被った子は小さく頭を下げてまた歩き出すと、一番後ろの黒い留袖を着た狐のお面を被った人が私とオミさんの方へ来ると、
「よろしければそこの神様、祝言の席にご参加下さいまし」
「「え?」」
私とオミさんの声が重なって、ヒュッと体が引っ張られた感覚になる。そうして気がつくとそこは、言の葉の神様の神社の鳥居の前だった。




