竜の神様、常に臨戦体制。
オミさんは、火竜の神様の息子だそうだ。
ペットボトルを不思議そうに見ながら、水を飲んで、
「まぁ、ちょっと自分の国で暴れてたら、親父に真面目に神としてやる気あるのか?って言われてなぁ。修行して来いってここに送られた」
「「百パーセント自分のせいですよね!??そんな問題になんで私が巻き込まれるようになったんですか!??一切関係ないのに!!!」」
いや、確かにね、小さい頃から家の神社の境内の中にいたのに、全然知らない場所にいつの間にかいたり、姿がぼんやりした人に声をかけられるとかあったよ?でも、だからって私を選ぶ理由にはならないよね!??
私の言い分にオミさんはハハッと笑って、
「まぁ、よろしく」
「よろしくじゃなーい!!!!」
私が大きな声で言うと、隣の部屋からドンと壁を叩く音が聞こえた。
す、すみません‥うるさくして。
「‥今の音はなんだ?」
「お隣さん、結構神経質な方なんです‥。ちょっとでも物音を立てると、すぐに壁を叩いてうるさいって注意してくるんです」
うう、結構辛いんだよ??そんな環境なのに‥。
か、神様???
どうすりゃいんだよ‥。私がジトッとオミさんを見る。
オミさんはちゃっかり私のお気に入りのビーズクッションにゆったり座って、長い足を床に無造作に組んで座っている。
こんな状況なのに、えらい美形だなぁってしみじみ思う私も
相当肝が据わってるのか?!
はぁっと大きなため息をつく。
「修行が終われば、帰るんですか?」
「多分な」
「多分って‥」
「何をもって修行が終わりかわかんねーまま、ここに送られて来たんだ」
それは、大分絶望的だな。主に私が。
晴れて一人暮らしだと思ったのに、入学して早々に神様‥しかも男性が送られてくるとか、神様無茶しすぎではないか?
「あの、私は一人暮らしでして‥」
「それで?」
「あと女子なんですよ‥」
「見りゃ分かる」
「若い男女が一緒に暮らすのとか無理なんですって!」
私がありったけの勇気を出して「お前とは暮らせない!宣言」をすると、オミさんはちょっと考えて私を見る。
「お前、幾つだ?」
「19ですけど…」
「もっとガキかと思った」
「神様らしかぬ発言はアウトでは?」
「今は、人間界だしセーフだ」
「どんな了見ですか!」
この神様、相当口が悪いな!?
私はジロッと睨むと、オミさんは長い赤い髪をガシガシとかく。
「俺とお前は契約されている以上、一定の距離を離れて行動できない」
「はぁ」
「あと、お前の側にいないと力が出せなくなる」
「はぁ」
「故に、できる限り俺はお前の側にいて行動しなけりゃならない」
「はぁあああぁああ!!??」
私が思わず声を出すと、隣からまたドン!と壁を叩く音がして、思わずびくりと体が跳ねた。
オミさんは隣の壁を見ると、チッと舌打ちをする。
「うるせぇな、殺すか」
「‥仮にも神様が軽率に殺そうとしないで下さい‥」
なるほど、送られて来た理由が何となく分かったぞ。
私が遠い目でオミさんを見ると、私を一瞬見るけど、また壁の向こうをみる。だめだ、これではうっかり殺しそうだ‥。視点を変えよう。
「えーと、力が云々って言ってましたけど、防音とか出来ます?」
「ぼうおん??」
「ああ、あっちにここの音が聞こえないようにするんです。そうすればあっちも静かでいいかなって‥」
殺しちまえば早くないか?って言うけど、
なぜそっちに振ろうとするんだ。
「もしかして、出来ません?」
「できるに決まってるだろ!」
そういって、オミさんはパチッと指を鳴らすと、周囲に白い光が雨のようにパラパラと降ってきた。雨??いや、光??驚いて、降ってくる光を見入っていると、オミさんがニヤリと笑う。
「これであっちには音が何一つ聞こえないぞ?」
そういって、オミさんがドン!と大きな拳で床を叩く。
わっ!!また壁を叩かれる!そう思ったのに、向こうからいくら待っても抗議の音がしない!
驚いてオミさんを見ると、ニヤッと笑う。
「どうだ?これくらい簡単だぜ?」
「す、すごい!!ありがとうございます!!!」
私が力一杯お礼を言うと、オミさんはちょっと驚いた顔をして、「そうかよ‥」と横を向いた。あ、もしかしてあまり褒められなれてない感じ?