竜の神様、デート開始。
オミさんが作ってくれた朝ご飯を食べると、もうすでに出かけたいのかソワソワしだすオミさん。
落ち着いてくれオミさん、水族館もショッピングモールもどこにも逃げない。あと私の心臓を朝から破壊するような可愛い行動は慎んでくれ。もうすでにガムテープが欲しい。
「青葉、早く着替えて来いよ!!」
「はいはい、行ってきます〜」
洗面所で着替えを持って行くけど、オミさん相当楽しみだったんだな。
朝ご飯まで用意しているなんて思わなかった私は、こそばゆい気持ちになりつつ着替える。オミさんを驚かそうと、こそっと買っておいたミモレ丈のアイボリーのワンピースを着て、ちょっとだけお化粧をして洗面所をそっと出るとオミさんはベッドで雑誌を読んでいる。
「青葉、こっちの場所も‥」
何かを言いかけたオミさんは私を見て、動きを止めた。
「オミさん?」
ちょっと口を開けて私を見ているオミさんの名前を呼ぶけど、オミさんはじっと私を見ている。お〜い、聞いてるか〜い?とばかりに手を振ってみると、オミさんはハッとした顔になった。よかった、意識を取り戻したようだ。
「なんですか?可愛くて驚きましたか?」
ニマッと笑ってみせると、オミさんは目元を赤らめて「‥おう」って小さく呟くので、そんな反応に私がやられた。やばい!!心臓が!心臓がぁああ!!!そうだった!こういう時オミさんは素直だった!
小さく深呼吸して、オミさんを見ると‥オミさんは普通にシャツとジーンズなのに様になっている。いいなぁ、神様は素地がいいからなんでも似合うな。うん、ちょっと冷静になれた。
「えーと、じゃあ、行きますか」
「‥おう」
さっきまでソワソワしていたのに、オミさんは途端に体がギクシャクした動きになって思わず笑ってしまう。あの、神様、大分緊張してます?オミさんは笑う私をじとっと睨んで「赤リンゴのくせに」って言うけど、オミさんも赤いです。
二人で玄関を出ると、オミさんはちょっと周囲を見回す。
「オミさん?」
「いや、今日は誰もいないなって‥」
「‥デートの話をする度に、小声だったし大丈夫では?」
とは言いつつ、何かあるとすぐにどこからか聞きつけた蛇神様からメールとかくるけど。今回は流石に来ないと思うなぁ‥多分。
そんなことを思っていると、オミさんが私の手をぎゅっと握る。
「一応、姿を見えずらくしておく」
「オミさん、どれだけ警戒してるんですか‥。ほらほら電車に乗りますよ」
「転移ならすぐなのに‥」
「まぁ、移動もデートの楽しみだし?」
そう話すと、オミさんはちょっと目を丸くして私を見てから、ニヤッと笑う。
「俺と話すのも楽しみか?」
「オミさんも楽しみですか?」
「なんで質問に、質問で返すんだよ」
「なんかここで素直に頷いたら、負けかなって」
「なんで勝負になるんだよ!」
「オミさんのせいですかね〜」
素直に認めたら、絶対ニヤニヤして調子に乗りそうだなって思ったのもあるけど‥。オミさんは「素直じゃねーな」って言うけど、オミさんのせいだと思います。二人で電車に乗って、色々話しているとあっという間に水族館到着である。
駅からすぐ近くの大きなビルの中に入って行くと、オミさんは周囲を面白そうに見渡す。
「ビルの中にあるのか?」
「そうみたいですね〜。私もここは初めて来ました」
「へぇ、水族館は見たことあったのか?」
「小さい時に一回?大人になってからは初めてです」
なにせ田舎には水族館などない。
何かの用事で上京した時に、お母さんに連れて行ってもらって以来だな。予約していたので、すぐに中に入るとオミさんは興味深そうにあちこち見回す。
「青葉!なんか綺麗に光ってるぞ」
「あ、クラゲですね〜。ライトアップしてあって、光の色が少しずつ変わるそうです。あっちのコーナーは大きな水槽に入ったお魚が見どころだそうです」
「‥人間、すげーな」
感心したように話すオミさんに人間代表の私、ちょっと得意満面である。
こういうのは竜の国にはなさそうだしね。
「竜の国の、オミさんが連れて行ってくれた湖も、お花畑も綺麗で素敵でしたよ」
そう話すと、オミさんは私をじっと見て‥嬉しそうに微笑む。
「‥また行くか?」
「また行きたいです。船とか、今度はゆっくり乗りたいし‥」
あの時はヨークさん達が落ちてくるし、白いアザラシっぽい可愛いの‥撫でられなかったし。オミさんも思い出したのか、ちょっと笑って「近いうち行こうぜ」と言うので、今度こそアザラシっぽいの撫でよう!そう心に誓いつつ頷いて、オミさんと水族館の奥へと足を進めた。




