竜の神様、結婚はいつにしましょう?
翌朝、大学である。
オミさんといつものように朝食を食べて、学校へ行く。
学校まで住宅街の中をオミさんと歩いてるけど、昨日まで私とオミさんは竜の国にいたなんて‥不思議な気分だ。
「なんだか‥今が夢のような感じだな」
「夢?」
「ああ、昨日まで竜の国にいたから‥今は現実?って」
「‥なるほど。現実だ、テスト期間がすぐそこだ」
「ううう!!!オミさんにテストって!違和感しかない!!そしてテスト嫌だ!」
私がそう言うと、オミさんが面白そうに笑って私を見る。
「大学、卒業するんだろ」
「‥はい」
「じゃあ頑張らねーとなぁ」
「そうですね‥」
そうなのだ。
大学に通わせてくれたお母さんの為にも、何とか卒業はしたい。そう思って、オミさんの婚約の話を聞いた時に卒業まで待ってくれる神様とお見合いまでした‥。オミさんもそんな私の卒業を承知で私の側にいるけど、結婚ってどんなタイミングでするべきなんだろう。
お互いに「魂を結ぶ関係でいたい」イコール結婚しましょうねって約束はしたけど、すんごくボンヤリした話で、まだいつ頃までになんて何も話していなかった。
その前にキスされて私が逃げ回っていたのもあるし、なんなら竜の国であわや婚約破棄して戻ってくるハメになってたかもしれない。毎回ドタバタだなぁ‥。
お母さんも言ってたけど、何かしら話し合った方がいいんだろうな。
とは言えまだ学生だし、今、結婚とかってどうなるんだろう?でも昨日の夜、セキさんが結婚衣装の色をどうする?!なんて聞いてきちゃうし‥。あ、待って?そもそも結婚したら、竜の国で「結婚までは清いお付き合い」の約束が‥
「青葉」
「へぁっ!??」
オミさんに声を掛けられて、ハッとすると目の前にオミさんの大きな手があって目を丸くする。
「え?え??」
「目の前の電柱にぶつかる気か?」
「あ、ああ‥すみません、考え事してて」
あとちょっとでぶつかりそうな所を、オミさんが防いでくれていたのに気付いた。‥前にもやったな、これ。そんなことを思っていると、オミさんが私の手をさっと握る。ちょ、ちょっと?!慌てて顔を上げると、
「‥お前、危なっかしいんだよ」
「い、いや、大丈夫‥」
「なんだよ、手を握るのもダメなのか?」
「え??!い、いや、それは‥」
「じゃあ、いいだろ」
オミさんは、少し照れ臭そうにしつつも私の手を握れて嬉しいのか、ちょっと口元が緩んでいる。う‥、か、可愛い。こんなに大きくてムキムキなくせに私といるとデレちゃう姿とか、完全にギャップ萌えなんですけど。私は思い切り頭を撫で回したい衝動を必死に抑えて、オミさんと手を繋いで学校まで行った。
校門前で手を離したら、大変不満顔をされたけど‥、流石にまだ心臓が整っていなくてですね?
「あとで見てろよ」
「だから、そんなチンピラの捨て台詞を言わない」
教室へ入って、教科書を机の上に出しつつ、机に頬杖を付きつつ私をじっと不服そうな顔をして見つめる。
「なんでそうすぐ離れたがるんだ‥」
「だ、だって、やっと、つい最近恋人同士って言ったのに、友達に今度は結婚なんて‥」
言いかけて、慌てて口を手で塞いだ。
まずい!!ついさっきまで結婚の事を考えてたとはいえ、迂闊にオミさんに話したらどうなってしまうのだ。恐るおそるオミさんを見ると、
すんごく嬉しそうにニンマリした顔で笑ってる。
「よーやっと考えるようになったか」
「な、な‥」
オミさんのニヤニヤ顔に私の顔が一気に真っ赤になっていく。
なんでそんな嬉しそうに笑うの?!訳がわからなくて、思わず横を向くとオミさんがこちらをじっと見ている視線がチクチクと首元に感じる。
「‥いつ、結婚すっか」
「ま、まだ想像が出来ません‥」
「じゃあ、今日?」
「む、無理です!!!」
つい驚いてオミさんの方を見てしまうと、バッチリと水色や黄色に変わる不思議な瞳と目が合う。し、しまった!!慌てて俯くと、オミさんの大きな熱い手が私の空いた手をそっと掴んだ。
「‥‥じゃあ、いつにすんだよ」
オミさんのちょっと拗ねたような声に、私は多分耳まで真っ赤になっただろう。「赤りんご、返事は?」って言われたけど、か、返せるか〜〜〜!!?授業のチャイムが、私には救いのメロディーのように聞こえた。さー、授業だ、授業!!!




