竜の神様、竜の国から神の島へ。
どうやら私達が審議に物申す事まで予測済みだったらしい。
ご丁寧に姿を消して、待ち伏せするなんて念の入れように恐れ入る。そう感心しちゃうけど、現在そんな待ち伏せしてた人達から逃げるために右往左往しているヨークさんの手の中でそろそろ私の何かがやばい。
と、頭上からヨークさんが、
「青葉ちゃん、泳げる?!」
「泳げます!!200m余裕です!!」
「200がどれくらいか分からないけど、竜三匹分の距離を泳いでくれるか?」
「分かりました!!」
ぽいっとサンダルを脱いで、いつでも来いとばかりにスタンバイすると、
手がゆっくり開いて、水面スレスレに飛んでいるのに気付く。
「泳いだら、すぐに岸へ上がって森へ!そこまで行けば追いつけないはずだ」
「分かりました!!」
ぱかっと手が開いて、私は海の中に落ちていく。
急いで顔を上にあげて、足をバタバタと動かして水面から顔を出すと、ヨークさんが気付かれないようにするためか、水面スレスレを飛んでいる。
私は大きく息を吸って、少しでも見つかりにくいように潜って泳いで行く。
なんとか早く岸に辿り着かないと!!
ようやく足が付くくらいの浅瀬に来て、後ろを振り返るとまだ竜が何匹か飛んでいるけれど、遠目になると誰が誰だか分からない。
ヨロヨロしつつ岸に上がって、足がシンドイけれど急いで森の中へ走って行く。
つ、疲れた!!砂浜長い!!
そう思っていると‥一匹、黒い竜がこちらに気が付いたのか、ものすごい勢いで飛んで来た!!
「わぁああああ!!!!!」
自分史上最高に早く走ったと思う。
砂浜を駆け抜けて行くけど、間に合わない!!
だめだ!!あのでっかい口で体を掴まれたら、もうおしまいだ!!あと少しで森なのに!!
その瞬間、黒い竜が力を使ったのか、丸い光がこちらへ勢いよく飛んで来る!
あれに当たったら、間違いなく動けない!
そう思った瞬間、丸い膜のようなものが私の後ろに現れて、その力を大きな音を立てて弾いた!
「え?ええ???」
驚いて、一瞬足が止まりそうになるけど、止まってる場合じゃなかった!!
黒い竜は驚いた様子で周囲を見回している。
今の内だ!!
砂浜に足を取られるけど、必死に森の中へ走って行く。
一瞬驚いて黒い竜がまたも力を使ったのか、砂浜が砲弾が当たったかのように穴が空き、砂が飛び散る。
「〜〜〜〜!!!!」
もう声も出ない!!
怖いとか、そんな事より森だ森!!!
「「「青葉!!!!」」」
目の前の林の中から腕が出てきて、グイッと引っ張られるとそのまま林の中に引っ張った人と倒れこむ。すると黒い竜は、急いで上空を飛び上がってそのまま何度か旋回していたけど、諦めたのか遠くへ飛んで行った。
「い、行った‥?」
ほぉっと息を吐いて、私は自分が林に突っ込んだ際に下敷きにしている人を見て目を見開いた。
だって、目の前にはオミさんがものすごい鬼の形相を私を睨んでいるんだもん‥。
「お、オミさん!??」
「‥なんでお前がここにいるんだよ」
「し、審議の不服申し立てに?」
「だから!!!そんなものになんでお前がくるんだよ!!」
「‥えっと、この世界の人間じゃないし、それに‥」
オミさんを見下ろすと、まだ怒った顔だ。気持ちは分かる。
だけど、私だって怒っているのだ。
「‥もうこの際いいじゃないですか、破棄した仲ですし」
そう小声で言うと、オミさんは一瞬切なそうに私を見つめた。そうして私を抱えたまま体を起こして、海水で濡れた私の服を構うことなく、ギュッと抱き寄せる。その暖かさに思わずじわっと涙が出た。
「‥今回は、その、」
「わかってます。理由はセキさんから聞きました。でも、相談くらい‥して下さい」
オミさんの首元に額をグリグリと擦り付ける。
喰らえ!海水と砂でぐしゃぐしゃだぞ。
あとついでに涙つきだ!
私がずっと鼻を啜る音を聞いたオミさんの体がピクッと揺れて、腕の拘束を緩めて、恐るおそる私の顔を見る。
「‥オミさんのバカ」
「あ、わ、悪かった!!悪かったから泣くな!!」
オミさんは私の泣き顔を見て、慌てて背中を叩いたりさすって、アワアワしている‥。火竜の闘神は相変わらず涙に弱いなぁ。小さく笑って私はなんでここにいるのかと色々聞きたかったけど、まずはオミさんの体を私もギュッと抱きしめた。
オミさんはそんな私に驚いて、カチッと固まってしまったので、私はそれをいいことにオミさんにしばらくぎゅーっと抱きついた。




