竜の神様、不器用な優しさ。
お兄さんから出てきた黒いものを消したオミさん。
周囲の人達はその光景を見ていたはずなのに、やがていつものようにあちこち動き出して、何事もなかったように歩き出す。
座り込んでいたお兄さんも、なんで座っていたんだろう‥という顔をして、立ち上がるとどこかへ歩いて行く。
「…本当に忘れたんだ」
「だから言ったろ!」
「あれ?私は?」
「お前はさっき言の葉の神に会ったからなぁ」
どんな理由??
神様の世界って意味が分からない。
「おら、戻るぞ。もうあれは大丈夫だから安心しろ」
「あ、はい‥」
あれ‥と、言われてお兄さんの小さくなった背中を見る。
もう大丈夫。
そう言われて、ようやく安心した私の目からぼろっと涙が溢れた。
「「えっ!!ちょ、おま、なんで泣いて‥」」
「す、すみません‥、あ、安心して??」
怖かった‥。
本当に怖かった。
あんな大きな声で叫ばれたのはもちろんだけど、あのじっとりした気持ち悪い視線が本当に怖かった。助けをもっと早く求めれば良かったのに、まだ大丈夫‥、大丈夫って思ってた。
でも、怖かった。
そう思ったら、涙が出てきて‥、オミさんが困ってしまう。そう思っているのに、涙が拭いても拭いても止まらなくて自分でも困ってしまう。
オミさんは、「あ〜、えーと‥」とオロオロしながら私を見ると、
でっかい体で急にすっぽり抱きかかえたと思ったら、背中をトントンと優しく叩く。
「‥だ、大丈夫、だから‥」
抱きしめたくせに、体がガチガチに固まったオミさんがなんとか私を宥めようとしているのか、一生懸命体を縮こませつつ私の背中を優しく叩くので、そのアンバランスな感じに思わず涙が止まった。
「と、止まったか?もう、泣かないか??」
焦ったような、ホッとしたような顔を見て、ぶっと吹きだした。
な、なんか可愛いぞ?
「あ、お前、何笑ってんだよ!俺は心配してだなぁ!!」
そんな様子に私は泣き笑いになって、涙を拭いてオミさんを見上げると、なんか顔がほんのり赤い。あれ?オミさんもしかして照れてる??私がじっと目を見ると、思い切り横に逸らされた。
「おら!!もう泣き止んだなら帰るぞ!!」
「え、は、はい」
オミさんは、こっちを見ようとせずにズンズンと前へ進んで行く。
私もゴミ袋を持って急いで、その後ろを追いかけていくと、オミさんはちょっと足を止めて私が付いてきているか確認すると、また前を向いて歩いていく。
‥どうやら照れてるし、心配もしてくれているらしい。
なんだかそんな不器用な背中を見て、笑ってしまう。なんだいい所もあるじゃないか。
お店に戻ると、葉月さんがちょっと目が赤い私を見て心配してくれたけど、理由を言ったら怒られた‥。
「「そういう時は、絶対すぐに言いなさい!可愛い姪っ子に何かあったら、お姉ちゃんもだけど僕も助けるから!!」」
って、いつものほわほわはどこかにいった葉月さんにコンコンとお説教を食らって、オミさんがそんな様子をニヤニヤしながら見ていた。‥くそ、やっぱり嫌な神様だ!
こってり絞られたけど、オミさんがいてくれるから安心って言われたけど‥、本当に〜〜??一緒のベッドで寝てるなんて言ったら、またとんでもない事になりそうだから敢えて黙っておいた‥。
そうして、片付けとお説教が終わって私はオミさんと帰る。
「スーパー寄って行こう。カツサンド食べたい」
「だからバイト代で買って下さい」
私が冷静にそういうと、ジトッとオミさんが私を見る。
な、何??
「‥さっき泣いてた時のが可愛げがあった」
「「は、はぁあああ???!!」」
何を言い出すんだ、何を!!
私の顔が赤くなると、オミさんはやり返せたとばかりにニヤリと笑う。
「りんごみたいになってるぞ」
「「だ、黙って下さい!!」」
「じゃ、カツサンド買ってくれ」
「「この性悪神様〜〜〜〜!!!!」」
なんという神であろう。
この人、修行しに来たんじゃないの!??ジロッと睨むと、オミさんは両ポケットに手を突っ込んでニヤニヤしながら「うわーりんご怖えー!」って言うので、本当にいい性格してると思う‥。




