竜の神様、竜の国でお仕事。
透き通った水面を船が進んで、船底のガラスから水中がさっきよりももっとよく見えるし、水面の花も手が届きそうなくらい近くて、私は感動しっぱなしである。
‥ただオミさんの腕が私の腰にしっかり回されて、大変恥ずかしい。
ちょっとだけ振り返ってオミさんを見上げる。
「‥あの、オミさんちょっと腕を離したりとかは‥」
「しねぇな」
「‥は、恥ずかしいなぁ〜なんて‥」
「俺は別に恥ずかしくない」
神よ、私は恥ずかしいんですけど‥!
遠く見つめると、ふと水面から白いアザラシみたいのが顔を出して驚いた。黒いつぶらな瞳に、白い毛並み、小さな水かきとヒレがある。
「お、オミさん!!!アザラシの赤ちゃんみたいのがいます!!」
「あ?ああ‥、白竜族の仲間だ」
「白竜族‥えーと、ファルファラさんの国の仲間って事ですか?」
「ああ。水場の汚れを食べてくれる魔物だ」
「へぇえええ!!!」
いわゆる掃除屋さんって事?
こんなに可愛いのにお仕事してるの??
私はもう一度白いアザラシのような魔物を見るけれど、こっちを興味深そうに見ているつぶらな瞳が可愛いすぎて‥、胸が潰れそうだ。
「‥オミさん、撫でても大丈夫ですか?」
「‥おう」
「お、おいで〜〜。いや、撫でさせて〜〜」
私がアザラシに似た魔物に船のふちから顔を出してそう言うと、オミさんがぶっと吹きだした。だ、だって撫でたいくらい可愛いんだもん!!
「‥なんですか、可愛い生き物に勝てないくらい仕方ないじゃないですか」
「そうか‥」
オミさんがニヤニヤ笑うので、じとっと睨むとオミさんが体を起こして、白いアザラシの方へ手を伸ばそうとしたその時‥、
湖にものすごい音を立てて、何かが落ちてきた!!
バシャンと大きな水しぶきをあげたので、白いアザラシの魔物が一斉に逃げてしまった。あ、アザラシちゃん〜〜〜!!
オミさんがチッと舌打ちして立ち上がり、何かが落ちてきた水面を見ると、
水面から顔を出したのは、昨日蛇神様の所へ来た緑の髪の人だ。あ、あれ??!私もその人も驚いて、顔を見合わせて思わず目を丸くする。
「あれ??ルディオミと彼女、こっち来てたの?」
「てめーは何やってんだよ‥」
「それがよく分かんねーんだけど、白竜族の魔物に追いかけられてて‥」
「はぁああ?今度は何したんだよ」
「言っとくけど、まだ何もしてないぞ!」
「それが怪しいんだよ!」
オミさんがそう言った途端、バシャン、バシャンと船の両脇に誰かが落ちてきた??そちらを交互に見ると、昨日やはり一緒にいた銀髪の人と、水色の髪の人が水面から顔を出した。
「「あれ??ルディオミと彼女??」」
オミさんと私を見ると、声を合わせてそう聞くけど‥、仲がいいね。
チッとまたもオミさんが舌打ちしたかと思うと、いきなり手の平から槍を取り出し、刃先に炎を纏わせた。
「青葉、ここにいろ」
「は、はい??」
「あっちをちょっとのしてくる」
あっち??
オミさんが見上げた方を私も見ると、白い艶々とした鱗を持つ龍のような生き物がこちらを一直線に飛んで向かってくるのが見えた。
「な、ななななんですかあれ?!!!」
「白竜族を守護する魔物の一つだ」
そう言うとオミさんが、赤い翼を広げて空へ飛び出し、口を大きく開けて嚙みつこうとするのを避けつつ、槍で反撃する。すごい、すごいけど‥。
その魔物のお腹辺りに何か黒い影が見える。
あれって、なんだろう。
水の中にいた男の人達は、ぷかぷか浮きながらオミさんの攻防を「すげーなぁ」「やっぱ強くなったなぁ」「格好いい!」と、大変呑気な様子で眺めている‥。
「‥あの、魔物のお腹に黒いのが見えるんですけど、あれってなんですか?」
「え?黒いの?」
「見えません?ほら、あのお腹の所」
「‥彼女ちゃん、なんか力持ってる?」
「え、いえ、力は‥」
だってたまに黒い影は見えてたし。
これが特別な力‥とは思えないし。
でも、何かあの白い龍のような魔物のお腹にくっ付いている黒い影が気になる。嫌な感じがするのだ。
そう思っていると、緑の髪の人が水から飛んで出てくると、船のふちに飛んできて私を見下ろす。
「気になるなら近くに行ってみる?連れてくよ」
「え、いいんですか?」
立ち上がって、緑の髪の人の手を取ろうとすると、
「「ヨーク!!!!勝手に青葉に触んじゃねぇ!!!!!」」
オミさんの怒鳴り声が空から響く。
と、慌てた顔のヨークさんが私の手に触れる前にパッと離れる。
た、戦ってるのによく見えたね??!




