竜の神様、竜の国でお肉を食べる。
オミさんのジェットコースターみたいな空の旅に悲鳴を上げた私‥。
死ぬ!!本当に死ぬ!!と、首にギュウギュウとしがみついていたけど、オミさんが急に止まったので、何事かと顔を上げるとオミさんが静かに地面に降りたのでホッとした。
「青葉、あれ美味いやつ」
「へ??」
ニヤニヤしながらオミさんが林の向こうを指差すので、指差した方向を見ると牛に似てるけど真っ黒でモフモフな毛に覆われた生き物が草を食んでいる。
「‥牛っぽい魔物ってあれですか?」
「おう!あれが美味いんだ」
オミさんはそういうやいなや、手から槍の形をした炎を出し、ものすごい勢いで牛の魔物に投げたかと思うと一瞬でいなくなってしまった。
「え??!いなくなった?」
「セキに送った」
「せ、セキさんに???!」
「城で捌いてくれるから、昼に食べようぜ!」
「す、すごい‥セキさん、本当にすごい」
しみじみ言うと、オミさんが私をジトッと見る。
「俺も牛のやつ獲ったぞ」
「‥そうでした。あの炎の槍、すごいですね!」
そう言うとオミさんがニヤッと笑って、
「まぁな、あれくらいなら一発だ!」
と、わかりやすく機嫌が直った。
‥オミさん、こっちにいるといつもより素直になるの??私はバレないように小さく笑うと、オミさんは林の中をズンズンと歩いて行くので慌てて追いかける。と、オミさんが急に足を止める。
オミさんの視線の先を私も見ると木々に赤い実がなっているのが見えた。
「‥オミさん、もしかしてあれってさっき食べたのですか?」
「おう!採っていこう」
オミさんが枝を引っ張って実を採ってくれた。
りんごに似てるけど形が小さいみかんくらいの大きさで、さっき食べたのよりはちょっと小さめだ。
「綺麗な色ですね〜」
「赤いと熟してるってサインだ」
そう言ってオミさんはバクッと囓るので、私も食べてみると朝食で食べたのよりも甘酸っぱい味が口いっぱい広がる。りんごとみかんが混ざったような面白い味だけど美味しいなぁ。
「これ本当に美味しいですね!」
「じゃあ、もっと採っておくか」
「え、いいんですか?」
「俺の庭だし」
「庭‥。そういえば言ってましたね」
庭っていう広さ‥私の世界とはかけ離れすぎているんですが‥。思わず遠くを見つめた私を横目にオミさんはせっせと赤い実を採るので慌てて止めた。そ、そんなに食べられないから!!
「オミさん、食べられるだけでいいですよ」
「‥日持ちするし、明日の朝食いたくね?」
「あ、うーん、確かに朝食べたいですね」
「じゃあ、もっと‥」
「い、いい!!もういいですから!!」
オミさんすごく張り切ってる??
どこからか出した白い袋にオミさんが採った赤い実を詰めてくれて、「あっちにも違うのがあるぞ」って案内してくれるけど‥。これは相当張り切ってるな?
「よし、昼飯も調達出来たしそろそろ帰るか!」
「絶対、絶対安全運転ですよ?」
私はかなり念を押した。
急降下だけは本当に心臓に悪い。
オミさんはちょっと不満げだったけど今度は安全運転だったので、大変安心した。
お城の二階のテラスへ降りようとすると、テラスに蛇神様とシキさんが笑顔で手を振って立っているのが見えて、オミさんは顔を顰める。そんな顔をしない‥。
「蛇神様!シキさん!!もうこっちに来たんですね!」
「昨日は地竜の所で泊まってなぁ〜。そのままこっちへ来た!」
「‥来なくていいっつーの」
オミさんがすかさず突っ込むけど、蛇神様はサラッと無視する‥。強い。
私の持っている白い袋を見ると、ニマッと笑って‥、
「なんじゃ王族御用達の実を自ら採ってきたのか?随分と張り切っておるのう?」
「はぁああ?!そんなんじゃねーし!食いてぇから採ってきたんだよ!」
ニヤニヤする蛇神様をジロッと睨むオミさん。
お、王族御用達??
そんな由緒正しい実を採ってきちゃって良かったの??
私は腕の中にある白い袋とオミさんを交互に見ると、オミさんはちょっと照れ臭そうな顔をしつつ私の手を握って、スタスタと歩き出す。
「‥とりあえず飯だ、飯!!」
「うむ馳走になるぞ!!」
「何でだよ!!」
オミさんが怒鳴るけど、蛇神様が持っていたカバンから「特選タレ豪華版」なるものを見せると、オミさんはグッと歯噛みして「‥タレ寄越せ」と言いつつ、また歩き出した。‥タレの美味さには勝てないらしい‥。




