竜の神様、匂いの解説。
まるさんとぺたさんにお礼を言って別れ、猫又さんも新たな力をもらってウキウキで時計塔さんの元へ「払ったよって教えてくる!」と、帰っていった。
私はようやく元に戻ったオミさんを見上げると、
「‥花を届けるんだろ」
「そ、そうだった!!花は大丈夫‥だった、良かったぁ」
ホッとして花の鉢を持ち直そうとすると、オミさんが私に手を差し出す。
花の鉢を持つの?手をつなぐの??
恥ずかしかったので、花の鉢を差し出すとオミさんが小さく笑って花の鉢を持ってから、私の手をさっと繋ぐ。
「お、オミさん!!??」
「なんかあったら危ないだろ」
「も、もう大丈夫では?」
「それはわかんねーだろ」
「‥神様なのに?」
「神でも、だ」
そう言ってオミさんは鼻歌でも歌い出しそうなくらい上機嫌で私の手を握りながら、花の配達へ一緒に行った。ちなみに私は恥ずかしくて堪らなかった。
結局花の配達をして、オミさんと一緒に戻ってバイトもやってから帰ってきた。
玄関へ入ると、大きく息を吐く。
「はぁ‥なんか今日だけでも盛り沢山で疲れた」
「だな、肉食うぞ肉」
「何サラッと肉に方向転換しようとしてるんですか、魚です魚」
オミさんといつものように話せる事にホッとしつつ私は買ってきた物を冷蔵庫に仕舞う。うん、今日はあれだ。鮭の照り焼きにしよう。
ご飯の前にちょっと休もうと部屋へ行くと、オミさんがビーズクッションに座っていて私をじっと見つめている。
「…オミさん?疲れました?チョコでも食べます?」
「チョコは後でいい」
そう言って、隣に座れとばかりに横に並べたクッションを叩くので私はちょっと恥ずかしかったけど、隣に座る。
「‥で、なんですか?」
「匂いについて聞いてたろ」
あ、そういえばそうだった‥。
なんか黒い塊の出現にびっくりしてすっかり忘れていた私は「そうですね」と頷いた。
好きな人に付けるって言ってたけど、香水か何かなのかな?
オミさんを見上げると、オミさんの目元が赤い。
なんならちょっと横を向いてるんだけど、眉を顰めている‥。お、お〜〜い本当に大丈夫なのか?私は心配になってしまう。
「えーと、言いにくい事なら別にまたの機会でもいいですよ?」
「い、いや、それは、言う‥言うけど」
「言うけど?」
オミさんがチラッと視線だけ私を見る。
な、何??そんな言いにくい事なの??
そう思っていると、オミさんの大きな手が私の手をギュッと握る。
「絶対、逃げんなよ」
「そ、そんなに怖いんですか?」
「怖くはないけど、お前‥逃げそうだから」
「ええええ、そ、そんなに??」
「だから、約束しろ。逃げないって」
「えええ‥、じゃあ、が、頑張って逃げません‥」
私がそう言うと、オミさんは「絶対だからな!」と念を押してから私をじっと見つめる。緊張がこっちにも伝わってきて、私までドキドキしてしまうんですけど??
オミさんが目をウロウロさせつつ、私の手をギュッと握る。
「に、匂いは、その、き‥キスをする事で力が移ってつくんだ‥」
「っへ?」
「だ、だから!!!き、キスで‥」
「わ、わー!!!わーーー!!分かりました!!分かりましたぁああ!!!」
慌ててオミさんの言葉を遮ったけど、な、なるほど??!
そういえばお付き合いしてるのに、結婚まで約束してるのに、手を繋ぐのもやっとだし、頬にキスされたのもつい最近だし、そういうの全くなかったですね!なにせ私がものすごく恥ずかしがって逃げ回ってたし!!
途端に蛇神様のニヤニヤ顔も、
オミさんズの恥ずかしそうな顔も、
「俺が先だ」って言い合っていた姿も思い出して、私は顔から火が吹き出るかと思った。
う、うわぁああああ!!とんでもない事を聞いてしまったんではないかぁあ!!もう自分でも顔が真っ赤なのが分かる。要するに「キスしないんですか?」って聞いてたようなものじゃない!!
一刻も早くこの場から逃げたい!そう思って立ち上がろうとすると、オミさんの手がギュッと私を行くのを引き止める。
「‥逃げない約束だろ」
オミさんのちょっと恥ずかしそうに俯きつつ呟く声に私の心臓が思い切り潰される。無理!!!こんなの無理!!恥ずかしいのと照れ臭いので本当に無理〜〜!!二人でしばらく顔も合わせられずに部屋の中で座り込んでしまった‥。




