竜の神様、大事な人の香り。
オミさんズに手を握られ、私は瀕死の状態で学校へ着く。
椅子に座って、手を離してもらって私はようやく大きく息を吐いた。ほ、本当に死ぬかと思った!!両側に座るオミさん達からの視線を気にしないようにしつつカバンからノートを出していると、長谷君が教室へ入って来て目を丸くする。
「あれ?青葉、今日一人?」
「あ、おはよう。えーと、一人のような、そうでないような?」
「何だそれ!いつもルディオミと一緒だから珍しいな!」
「あ、はは‥そ、そうだねぇ」
長谷君がニコニコ話している横で、私の両脇から「ぶっ殺す」みたいな顔で睨んでますけどね。一体なぜ朝からこんな冷や汗が流れるんだ‥。
「今日授業終わったら暇?」
「あ〜〜、今日はお昼に帰ったらすぐバイトなんだ」
「何だ、そうか〜。じゃあさ、今度一緒に飯食べようよ」
「へ?」
両脇のオミさんがちょっと腰を浮かそうとしているので、慌てて両手を使って二人の手を握った。抑えて!!怒りを抑えて!!
「ほら、この間女の子の事でルディオミにも迷惑かけちゃったろ?だからなんか奢らせてよ」
「あ、ああ‥そういう」
「ルディオミって何が好きなの?」
「肉一択です」
「そんな感じだな〜!じゃあ、話しておいて〜」
そういうと長谷君は前の席に座っている友達の方へ歩いていく。
爽やかな風が今日も吹いてるな〜〜。
でも、そんな気遣いできて偉いなぁ‥。私もちゃんとそういうの忘れないでできるようにしよう。そう思って、両脇のオミさんを交互に見ると、赤い顔をして固まっている。
「え??お、オミさん??だ、大丈夫??!」
「「‥だ、大丈夫‥」」
二人して同じタイミングで話すので、大丈夫‥って事でいいのかな?
とりあえず長谷君に殴りかかりに行かなさそうだし、手を離しても平気かな?と、ちょうど良いタイミングでチャイムが鳴ったので、そっと手を離す。
オミさん達は、私の手をチラチラと見ていたけど‥、
え、流石に授業中は手を繋げませんよ?
ノートを広げて、先生の方を向くとオミさんズが私の両脇を一歩詰めてピタッとくっ付く!??
「ちょ、な、何でそんなくっ付く必要が!??」
「「なんかあったらすぐ助けられるだろ」」
「だからって、こんなくっ付く必要ないと思いますけど!?」
「「神の好意だ」」
「絶対違うと思うんですけど〜〜〜!!」
小声で一人でブツブツ言ってたらやばい人になっちゃうけど‥、一応クレームを入れてから私は授業をしたけど‥正直生きた心地がしなかった。授業を受けるだけでなぜこんな精神的ダメージを負うのだ…。
疲労困憊の私は授業が終わって帰る前に一旦トイレへ駆け込んだ。
だって私の一人になれる場所なんて、もはやトイレとお風呂くらいしかない‥。疲れたよ、パトラッシュ〜〜。
トイレから出てきて、手を洗っていると‥、
「あ、いたいた!青葉だっけ?」
「へ?」
横を向くとラナちゃんが立っている!
今日も黒いワンピースで、大変ゴスロリちっくである。
「昨日はごめんね!あれから大丈夫だった?」
「あ、いえいえ、私は大丈夫でしたけど、ラナさんは大丈夫でした?」
そういうと、ラナちゃんはげっそりした顔になって‥、
「ラナでいいよ。蛇神様がエトラのアホはどっかに連れてってくれたから大丈夫。修行もね〜、もう終わりって感じだったの。だから今日から蛇神様の神殿に住むんだ!」
「あ、修行はもう終わりだったんだ!」
「こっちと時間の流れが違うからね〜。実質半年くらいあっちにいたの」
そ、そうか‥。
時間の流れが違うんだった!
感心していると、ラナちゃんは私の前に紙袋を差し出す。
「これ、元に戻る薬。うまくいけば戻るのがもう少し早くなると思う」
「あ、ありがとうございます!」
「いや〜〜、完全に私の落ち度だから。それにしてもあんた竜の匂いしないね」
竜の匂い??
私が不思議な顔をすると、ラナちゃんはちょっと得意げな顔をする。
「竜族はね!好きな人ができるとすぐ匂いを付けて、「自分の大事な人!」って周囲に伝えるんだって!なかなかロマンチックだよね〜!だから、あんなに好きな感じなのに匂いがしないの意外だな〜って思ったの!」
ものすごい情報に目を丸くした私。に、匂い??
ラナちゃんは私に薬を渡せて満足した顔で「じゃあね〜」と言って、トイレから出て行ってしまった‥。
思わず自分の匂いを嗅いでみたけど‥、何もしない。
竜族って不思議な生き物だなぁ‥。そう思って私もトイレから出て行った。




