竜の神様、立ち尽くす‥。
オミさんに長谷君が何の半妖かを聞こうとしたけど、結局授業を真面目に聞いてノートを取るのに夢中になって、すっかり忘れてしまった私。
授業が終わって、今日はこのままお母さんに会いに家に戻るためにノートを片付けていると、黒髪のきっちりと後ろに一つに結んだ子が扉の前でまた長谷君の様子を伺っているのが見えて、私は思わずドキリとする。
と、何故か長谷君が真っ直ぐにこちらへ来る。
「青葉、ちょっといいか?」
「へ、うん?」
黒髪の女の子はジッとこちらを見ているけど、動く気配はないのでそのまま話を聞く。
「あのさ、そっちの扉に黒髪の女の子がいるの‥見える?」
「あ、うんいるね」
私がそういうと、長谷君はちょっと顔を曇らせる。
「‥その、あの子にここ最近付き合って欲しいって言われてるんだ。その気はないって何度か断ってるんだけど、最近はちょっと付きまといがすごくて大変なんだ」
‥あ〜〜〜、すっごい嫌な気持ちわかる!
思わずウンウンと頷く横で、オミさんは腕を組んで黙っている。
長谷君は、くるっとオミさんを見上げて、
「ものすごく申し訳ないんだけど、青葉を彼女って紹介させて欲しいんだ」
「はぁ?!」
「彼氏がいる子に頼むのもどうかと思うんだけど、頼れる存在がいる相手の方が何かあった時、心配がないかなって、ちょっと考えてて‥」
オミさんは「彼氏」とか「頼れる存在」という言葉にピクッと眉を動かす。
‥どうやらちょっと嬉しい‥のか?
私がオミさんを見上げると、オミさんはちょっと目を逸らして、はぁ〜〜ッと大きくため息を吐く。
「‥仕方ねぇなぁ」
「悪い!!本当に助かる!!」
「じゃあ、すぐ言いに行った方がいいかな?」
「できれば‥お願いしたい!多分、校門の前か、帰り道の途中で待ってると思う‥」
それは待ち伏せではないのか?
私が遠い目をして、オミさんを見上げると、
「ひとまず俺は一歩離れて見てる」
「は、はい!」
「ヤベェって思ったら逃げろよ」
「イエッサー!」
長谷君は申し訳なさそうに私を見て、「本当ヤバかったら逃げていいから」って言ってくれたけど、こんな風に頼ってくるなんて相当しんどかったんだろうな。
学校を出て、長谷君と並んで歩いていく後ろで、オミさんが付かず離れずの距離で歩いているのが見える。それだけでホッとしていると、黒髪の女の子が建物の前に立っている姿が見えて、思わず体が強張りそうになる。
その瞬間、その建物の前から何とお母さんがひょっこり出てきた!!
「あ、青葉!良かった〜。ちょうど会えた〜」
え、
な、
何で???
私が目を丸くして、思わず立ち尽くすとお母さんはニコニコしながら手を振ってこちらへやって来る。
「お、お母さん、なんでここに!?っていうか、駅で待ってるはずじゃ‥?」
「そうなんだけどね〜。そこで買い物してたのよ〜!」
なんでこんな時に!!
私はあまりのタイミングの悪さに頭が痛くなりそうだ。
いきなりのお母さんの出現に私も長谷君もびっくりしているし、チラッと後ろを見るとオミさんも驚いた顔をしてる。だ、だよね〜〜。
お母さんはニコニコしながら私と長谷君を見て、
「ところでえーとお友達??」
「あ、え、ええと‥」
前の方を見ると、黒髪の女の子がこちらを思い切り睨みつけている〜〜〜!!
こ、怖い!!しかし、ここで彼氏って言っておかないと長谷君も大変だ。
ごめん!オミさん、今だけ‥。
「う、うん、大学の、その、彼氏です」
「まぁまぁ、そうなの〜!」
「初めまして、あ、青葉さんとお付き合いさせて頂いてます」
「まぁまぁ、よろしくお願いします〜」
ううう、前を見れば黒髪の女の子はもっと睨んでくるし、オミさんも睨んでるかな‥と思って、後ろをチラッとまた見ると、ちょっと立ち尽くしているオミさんが見えて、その途端胸がぎゅうっと痛くなる。
あ、嫌だこれ。
すごく自分がもしされたら、嘘でも悲しい。
胸がぎゅうぎゅうに痛くなるけど、嘘とは言えなくて、ギュッと手を握って何とかお母さんと話すけど、早くこんなの終わってくれ!そう思って、ますます手を握りしめた。




