竜の神様、結婚の作法。
バイトを終えて、一緒にいつものようにスーパーに寄って家に戻ってくる。
二人で夕飯を食べてから、ぼんやりとテレビで今月の末にある大型連休はどう過ごす!?なんてニュースで流れている。連休かぁ〜。オミさんとうちの実家へ行こうって約束したし‥、お母さんに連絡しておくか。
そう思って、私はスマホを取り出してお母さんに連絡しようとすると、反対にメールの着信音が鳴る。
「あれ?お母さんから??」
いつもなかなか連絡してこないのに。
珍しいなぁ〜なんて思って、メールを開くと、
『友達の妹ちゃんが結婚する事になったから、そっちに行きます〜〜!明日のお昼には着くね!』
って、書いてある。
え、ちょっと待って。
「あ、明日の昼!!??」
私の声に、オミさんがびくりとする。
ど、どうしよう!!まさかのお母さんが来る!!隣に座っているオミさんを勢いよく見上げる。
「明日の昼、うちのお母さんここに来るそうです!!」
オミさんは、ちょっと目を見開いて‥、
「こっちに来る‥」
「はい。あ、泊まるのかな?それも聞いておかないと‥」
「泊まる‥」
「あ、泊まるのはホテルみたいです。夕飯は一緒に食べようって」
シンと、思わず部屋が静かになる。
待ってくれ、いきなりオミさんを紹介??!こ、心の準備が全くしてないんだけど!!オミさんもちょっと動揺した様子だったけど、すぐに私を見上げる。
「‥挨拶だけ、する」
「「え、ええええ!!!だ、大丈夫ですか!!??」」
「むしろ、お前の動揺の方が大丈夫か」
「‥そうですね。すっごく動揺してます」
素直にそう言うと、オミさんが可笑しそうに吹きだす。
「‥自分の親だろ」
「だって、結構一大イベント感ありません?」
「どっちかてーと、それは俺の方じゃねぇ?」
確かに。
でも紹介するのも結構ドキドキしますよ?
バイトの話もあって、葉月さんに連絡したら、
「お姉ちゃん、今日連絡してきたの?3日前くらいに来るって言ってたから休むと思ってたんで、お店を元々お休みにする予定だったから大丈夫だよ〜」
って、言われたんだけど。
母よ、なぜ先に娘には教えてくれないのだ。
電話を終えて、オミさんを見ると
ベッドの上でなんか真剣に考え込んでいる。
「オミさん、どうしたんですか?」
「こっちの世界って、なんか挨拶の仕方に作法ってあるんだろ?」
「え?普通にお付き合いしてます〜くらいだと思うけど‥」
そう言うと、オミさんは目を丸くして、
「‥前に蛇神が、「お前には大事なうちの子はやれん」って言われてから殴られるのが作法って言ってたぞ?」
それ完全に騙されてます。
ぶっと吹きだすと、オミさんは騙されていた事にようやく気付いたのか、ちょっと顔を赤くして「あの野郎」って呟いたけど、そんなのいつ言われたんだろう。
おかしくて笑ってしまうと、オミさんは私の頬をふにっと摘む。
「笑うな」
「殴られる覚悟だったんでふか?」
「‥‥そりゃな」
私の頬を摘んだまま、横を向いたまま答えるオミさんにじわっと嬉しくなる。あ、これは頬がゆるゆるになるな。摘んでてもらって、良かったかもしれないな。
「‥竜の国には作法ってあるんれふか?」
「‥逆立ちして挨拶する」
「絶対嘘れしょ」
ジトッとオミさんを睨むと、ニヤッと笑う。
簡単に神様が嘘をつくんでない。
特に作法はないというので、ホッと息を吐くとオミさんがニヤニヤするので今度は私が横を向いた。
ひとまず明日のお昼に、うちの駅で会おうとお母さんにメールを送っておくと、「おっけ〜〜」と返事がきたけど、返事まで呑気だ。こっちはドキドキしてるんだけどなぁ。
そう思っているとオミさんは私の頬を突く。
「りんごが緊張してる」
「オミさんはしてないんですか?」
「どうやって避けようかって考えなくていいしな」
「いやそこかい!!」
私が突っ込むとオミさんは面白そうに笑う。本当、随分余裕だなぁ。




