竜の神様、迷惑行為?
セキさんに飴を舐めてもらうと、ようやく落ち着いたらしい。
とはいえ、問題は何一つ解決していない。
オミさんは結婚する予定の人もいるようだし?
あと、街中で蛇がカバンに入ったままだと、万が一誰かが見ると驚いてしまうだろうし‥。
そう思っていると、急に辺りが静かになった。
「あれ?静かに‥」
「‥野郎、さっき追い返したのに」
オミさんがチッと舌打ちして、手の平から大きな槍を一瞬で出したかと思うと、柄の部分をギュッと握りしめる。
「おい、セキ。守っておけよ」
「もちろんでございます!!」
「え、オミさん?」
どういう事??
私が言いかけた途端、目の前いっぱいに水が迫ってくる。
「わぁああ!!!???」
慌てて顔を庇おうとすると、セキさんが私の前に体を包み込むような膜を張ってくれて水がバシャバシャと大きな水音を立てて弾かれていく。
驚いていると、オミさんはその膜の上を飛び越えて、まっすぐ前に突っ込んでいく。
「あ、さっきの人!」
水色の髪の人は、さっきよりもちょっと怪我をしているようだったけど、オミさんと同じように槍を持って突っ込んで行く。
ぶつかり合う音に、びっくりして見ていると、カバンからニュルッとセキさんが出てきて、
「今、エトラ様が結界を張ってこちらへ引き入れたんです」
「あ、そ、そうだったんだ。良かった‥他の人が驚いちゃうと思った‥」
セキさんはそんな私を「なんとお優しい!!」と感動してから、私をじっと見上げる。
「エトラ様はですね、水竜の王の息子なんです」
「は、はぁ‥」
「まぁー、これが王の息子だっていうのに、意地が悪くて私ら蛇を使役するくせに、ネチネチ嫌味ったらしくて、蛇神様にも再三注意されているのにやめないものだから、ルディオミ様が気持ちよくぶっ飛ばして下さいまして!!」
‥すごく目に浮かぶ。
なんなら、今も思いきっり蹴り飛ばしてるし。
セキさんは、それじゃあ水竜さんの部下みたいなものなのかな?シキさんもセキさんもオミさんをボロクソに言うけど、慕ってるのはそんな理由があったのか。
「‥蛇族はずっと水竜に虐げられておりまして‥。しかしそんな所に火竜の!!しかも王族のルディオミ様が面倒臭いの大嫌いなはずなのに!水竜の王様にも進言して下さったおかげでようやく虐げられる事がなくなったんです!!」
「ああ、それで‥」
「それをエトラ様と来たら、反省するかと思ったら「妹の婿になるなら強い奴がいい!」とルディオミ様をご指名しまして‥」
それ、完全に迷惑行為じゃない??
私は遠い目をしてオミさんを見つめた。
エトラさんにの鳩尾にオミさんのキックが入ったのか、エトラさんがうずくまった瞬間に、オミさんは頭にスカーンと気持ちいい音を立てて槍で殴った。‥でも刃先でなく、柄の部分。さり気なく優しい攻撃である。
っていうか、そもそも刃先から炎が出てない。
じゃあ、ものすごく痛めつけようとしている訳ではないのかな?
エトラさんはなんとかオミさんの攻撃を交わして、ジャンプしてクルクルっと体を回転させてこちらへ飛んできた。
「あ」
「青葉!」
オミさんが焦った顔で私に手を伸ばすけど、私を掴もうとするエトラさんの手の方がわずかに早い。
ふっと腕に触れられた。
そう思った途端、ガクンを体が下に真っ逆さまに落ちる。
声にならない悲鳴と共に、思い切り勢いよく下に落っこちて、ちょっと柔らかい場所に尻餅をついた。
「‥い、痛くないけど、ここは??」
顔を上げて、薄暗い洞窟のような場所にいる事に気付く。柔らかいと思ったお尻の下にはこれでもかと草が敷き詰められていて、ふかふかしている。
段々と目が暗闇に慣れてくるけど、
シューシューと音がする。
その音のする方をじっと、目を細めて見ると‥私の周囲を取り囲むように沢山の蛇がとぐろを巻いてこちらを見ている。
「「へ、へ、蛇〜〜〜〜〜〜!!!!???」」
思い切り叫んで、飛び上がったのは言うまでもない。




