竜の神様、誤解と蛇の怒髪天。
今日はお昼前に授業が終わるので、家に帰ってお昼を食べてからバイトの予定だ。
オミさんは帰り支度をする私をチラチラ見つつ、
「話、聞けよ」
「嫌です」
「絶対誤解してる」
「そうですか、そうですか」
カバンにドスッと気持ちいい音を立てて、教科書を突っ込むとサッサと私は出口を目指して歩いて行く。と、出口の付近で長谷君と目が合う。
「青葉、もう帰るのか?」
「うん、長谷君は授業まだあるの?」
「いや、俺も帰るんだけど電車?」
「うん」
「じゃあ、一緒に帰ってもいい?」
オミさんがギロっと睨むけど、私は知ったこっちゃありません。
「うん、別に構わないよ」
そう答えると、オミさんは今度は私をジロッと睨む。
そんな睨まれても私は知りません。
長谷君は私の隣にサッと並んで、この間の時計塔の映画の話をしだす。どうやらあれをキッカケに映画のオファーがあったらしい。もしかして、蛇神様の加護かな?
駅までの道のりを、長谷君とオミさんに挟まれて歩きつつ、
「良かったねぇ。やっぱり努力の甲斐があったね」
「‥そう言って貰えると嬉しいよ」
爽やかな笑顔で話す長谷君。
そういえば半妖らしいけど、なんの妖怪なんだろうなぁ。今度蛇神様に聞いてみようと思いつつ、顔を見ていると長谷君はちょっと照れ臭そうに笑って、
「青葉、人の顔をじっと見るクセあるよな」
「え??そ、そうだった?ごめんね!」
「‥いや、なんか可愛‥」
長谷君が言いかけた瞬間、オミさんに急に手を引っ張られてよろけた。
「お、オミさん!急に何をするんですか!!」
「人が来てる」
と、自転車に乗った人が私と長谷君の間を後ろから「すみませーん」と言いつつ通り過ぎていく。あ、なるほど‥。それなら、声を掛けてくれればいいのに。ちょっとぶすっとしつつオミさんを見上げると、オミさんも拗ねたような顔で私を見ている。
‥あの、怒りたいのは私なんですが?
プイッと横を向いて、歩いて行こうとするとオミさんの大きな手が私の手をぎゅっと掴んで離さない。長谷君と一緒にいるのに、手を繋ぐとはこれいかに?私は大変恥ずかしいんですけど?
‥でも、これ以上オミさんに話すのもなんだかシャクだし。
もう気にせず歩こう!!
半ばヤケになって、手を繋いだまま長谷君と話しつつ、駅まで歩いた。
「じゃー、俺バイトだから!」
「うん、頑張ってね〜」
手を振ってから、私はちょっと熱いくらいのオミさんの大きな握られた手を見る。顔は、ちょっとモヤモヤするのでまだ見られない。
一夫多妻制とか、結婚する予定の女性がいるとか、
私は何一つ聞いてないんだけど?
言われてみれば、確かに国も種族も違うし、生活習慣も考え方も何もかも違うんだろう。そもそもオミさんなんて神様だし何もかも知らない世界だ。‥だから慎重に考えて決めろって言ってくれたんだろうけど、言ってくれたんだろうけども!!!
「青葉‥」
オミさんの私の名前を呼ぶ声に、ピクリと体が揺れる。
そんな優しく呼ばないでよ。
私は、結婚したら一緒にいると思ったのに、他の人と結婚しているオミさんを想像して胸が痛かったっていうのに。
グッと口を引き結んで、どうにかオミさんの熱いくらいの手から逃げ出そうとすると、肩に掛けていたカバンの中から何かがニュルッと出てきて私の腕の上を滑っていくので、思わず悲鳴を上げた。
「ひゃぁあああ!!?」
「青葉?!」
「ああ、ルディオミ様ぁああ!!大変でございますー!!!セキは、一大事とあって急いでこちらへ駆けつけましたぁあ!!青葉様、ダメでアホなルディオミ様ならびに極悪人のエトラ様より手酷い目に遭われておりませんかぁあああ!!」
カバンの中から出てきたセキさんは、思いっきり人前だというのに大声で叫ぶので、私とオミさんは慌てて物陰へ逃げていった。
「せ、セキさん!あの、できれば小声で話してくれると‥」
「嗚呼!!申し訳ありません!青葉様!!それで、傷ついてなどはおりませんでしょうか?セキは心配で、心配で‥」
セキさんは、私のカバンから顔を出してハラハラと泣くのでそっと指で頭を撫でて、静かに微笑み、
「ものすごく傷つきましたね‥」
「なっっっっ!!!」
オミさんが私の言葉に目を丸くして固まると、セキさんは目をクワッと開いてオミさんを見ると、
「ああああ!!ルディオミ様のバカ!アホ!粗忽者の無礼者!!青葉様申し訳ありません!!このセキ、腹を!!腹を切ってお詫びをぉおおおおお!!!!!」
‥物陰に隠れても、セキさんの声量が大きすぎるのでひとまず落ち着いて貰おうと、飴を上げた。ちょっと舐めて落ち着こうか。




