竜の神様、供給過多。
私とオミさんがテレビに出てからというもの、呪いからすっかり御利益のある時計塔と猫さんというイメージが定着したらしく、カップルとか出会いの欲しい若い人達で現在時計塔はごった返してるらしい。
私としては大変恥ずかしかったけど、時計塔さんと黒猫の猫又さんはなんやかんやで協力し合って写真に写っているらしい。私という尊い犠牲を払ったので、是非とも今後も仲良くして欲しい。
ちなみにバイトから帰ったら、すぐに家の中にゲーム機一式と、ソフトまで御丁寧に置いてあって私とオミさんは疲れていたはずなのに、張り切って遊んでしまった‥。
まぁ、翌日の学校での皆の反応の方が、もっと大変で‥。
囲い込みの取材のように、いつからだの、どこで出会っただの聞かれて、私は半分パニックだったのに、横にいるオミさんはニヤニヤしながら何か聞かれても「日本語得意ジャナイ」とか言って誤魔化すので腹ただしい事この上なかった。
家に帰って来た私は、オミさんがお風呂に入っている間、蛇神様とオンラインゲームをしつつ、オミさんと付き合い始めた事がテレビでバレた事を話したら蛇神様はそれは可笑しそうに笑った。
「まぁ、良いではないか!いずれは結婚するんじゃろ?」
「うっっっっ、ま、まぁ‥できれば‥」
「まぁ、どっちを選ぶのも青葉の自由じゃがの〜」
呑気な口調なのに急に出てきた魔物を、的確に撃ち落とす蛇神様。
ゲームクリア!と表示が出てきて、丁度いいタイミングでゲームが終了だ。また明日一緒にクエストをしようと約束して電源を落とした。
「お、終わったか?」
「あ、オミさん。また髪濡れたまま‥乾かせるんでしょう?」
「そうだっけ?」
相変わらず上半身は裸で、バスタオルだけ肩に掛けたスタイルでお風呂から出てきたオミさんは私に無言でドライヤーを手渡す。
‥本当にもう自分でできるくせに。
ジトッと見上げるけど、オミさんはニヤニヤ‥というか、ニマニマしている。‥言葉にはしないけど、嬉しいんだろうなぁ。何も言ってないのに、私の前にいつものようにちょこんと座ってすでに待ちの姿勢だ。
「‥オミさんって結構甘えん坊なんですね」
「あぁ?」
「いいえ〜、独り言です」
そういって、ドライヤーのスイッチを入れるとオミさんはすぐに静かになって、チラッと私を見上げる。
「オミさん?」
「連休、どっか行くか?」
「あ、そうですね‥、実家に一度行きたいんですよね」
「実家‥」
オミさんがちょっと目を丸くする。
うう、なんか私が急に恥ずかしくなってきたな。
「‥こ、婚約、したの、言わないとマズイじゃないですか‥」
私は恥ずかしいので目を逸らしつつそう答えると、こちらを見ていたオミさんはパッと前を向いてしまう。ちょっと?私はまだ話してますけど?
「‥オミさーーん、聞いてます?」
わざとらしくオミさんの顔を覗き込もうと近くに顔を寄せると、オミさんの耳が赤い。ついでに頬も赤い。
「え、赤い」
「うるせぇ!!風呂から出たばっかだから!」
それは大分無理があるかなぁ?
プイッと横を向いて、なんとか顔を見せないようにするくせに私のドライヤーからは離れようとしないオミさん。
オミさん、何気に自分の婚約者って言ってもらいたかったみたいだし、嬉しいのかな?‥嬉しいって思ってるって事でいいのかな?なんだか私までじわじわと嬉しくて顔が赤くなっていく。
「‥神様のくせに」
「あぁ?」
「‥‥一緒に、実家行きます?もしあれなら、姿を消しても」
「行く」
「いいんですか?」
「‥結ぶんだろ‥」
魂を結ぶ、つまり結婚するんだろって言いたいんだろうけど、それを言うのも恥ずかしいらしい。え、何、可愛いんだけど。スリーストライクが急に入って、私はあまりの可愛さに胸が一杯になって静かに床に倒れた。
「お、おい!大丈夫か?!」
「‥ちょっと供給過多で苦しいです」
「はぁ?」
「オミさん、可愛い‥」
「‥そりゃお前だろ」
突然の一言に、私はもう目を閉じた。
だって心臓が今確実に止まった。
どうしよう‥。
オミさんのデレがものすごい。
こんなに一気に来るの??私はまだ全然、お付き合いのなんたるかを知らないのに、こんなに甘いの‥対応できないんだけど。
「おい、青葉?」
ツンツンと私の頬を突くオミさんの声が聞こえるけど、私にはわかる。
これは面白くてたまらない!ってニヤニヤしているオミさんが私を見下ろしながら頬を突いているって事を。くそ〜!現在私は供給過多で稼働しておりませーん!




