竜の神様、消えたり、現れたり。
オミさんと一緒に電車に乗ると、えらい美形だけどメンチ切って車内に入っていくので周囲の人が少しでも避けようと距離を作る。あああ、かえってすみません!ご迷惑お掛けします。
「‥お前、二つ乗るって言ってたけど、これ歩いた方がいいんじゃねぇか?」
「たった今、そう思いました‥」
そう、本当に思ったし、明日は歩くと決意した。
だって今、オミさんに壁ドンされていて、ものすごく恥ずかしい。とてつもなく恥ずかしい。友達にでも見られた日にはとんでもないことになる。
オミさんを見上げると、サラリと長い赤い髪が私の頬に流れてくる。
どうしたって人が乗ってくる度に、押される体を守ろうとしてオミさんが私を抱きしめるので、私の顔は真っ赤である。あああ〜〜〜!!!こんなの無理なんだけど〜〜〜!!!!耐性ゼロなんだけど〜〜!!??
早く、早く目的地に着いてくれ!!!
そう願っていると、ようやくアナウンスが流れて、ホッとする。
電車からヨロヨロしながら出てくると、オミさんが電車を見て、
「人間って、あんなのよく平気で乗れるな」
「ちっとも平気じゃないんですが、乗ってますね‥」
朝からいつもの倍疲れた私は、改札へオミさんと出る。
切符を吸い込まれて出てこない様子をオミさんは驚いて私を見るけど、いいから!!ついたら、もういいから!!オミさんを引っ張って、ようやく駅から出る。
「‥で、オミさん大学にもう着いちゃうんですけど、どうしますか?」
「手の甲出せ」
「あ、はい?」
ちょっと袖をまくると、右手の甲にトカゲのマークが見える。
オミさんは私の手の甲を指差すと、何かを小さな声で呟く。
「‥これで、俺の姿は見えない」
「見えない??」
「隣にはいるがな、人からは見えない」
「そ、そんな事が‥」
言いかけると、「青葉!おはよう!」と友達が声をかけるので、慌ててそちらに手を振る。
「お、おはよう」
「早く行かないと遅刻だよ〜!」
「う、うん」
私はそう言って、ちらりとオミさんを見上げると、どうだとばかりにニヤリとオミさんが笑う。‥どうやら本当に人には見えないらしい。
私の心配をよそに友達は、色々話していて‥、今日はテストがあると言われてげんなりした‥。次から次へと色々あるなぁ。
講義を聞くべく、教室へ入って友達と話しているその横にオミさんが当然のように腕を組んで座っている。‥うーん、こんな所まで一緒か。
「あ、青葉じゃん!課題のノート、この間ありがとな」
声の方を見ると、長谷君がやってきた。
髪を明るい茶色に染めて、ちょっと柔らかい顔つきの男の子である。人当たりがいいので、皆にモテモテだ。たまたま同じ講義を聞いてたので、先日ノートを貸したのだ。
「どういたしまして」
長谷君からノートを受け取ると、横にいた友達が長谷君を興味津々といった感じで話しかけるので、場所を交代したい‥。
「長谷君、今度皆で遊びに行こうって話してるんだけど、どう?」
「お、いいね。青葉は行く?」
急に話を振られて、目を丸くする。
「い、いや、私は‥」
なにせ、私の真横に離れると力が出せないとか言う、メンチ切っちゃう手の掛かる神様がいるので、出かけて遊ぶなんて気が微塵も起きない。
「なんだよ〜。一緒に行こうぜ〜!」
「あー、うん‥日程次第かな?」
そう言ってるのに、長谷君は私の前の椅子に座って、「いつならいける?」と食い下がる。うーん、大変しつこい。どう断ろうかなぁって思っていると、私の肩にオミさんの腕がズシッと乗る。
「‥こいつは、俺が予約してるからダメだ」
「「っへ???」」
オミさんを見ると、隣の友達も長谷君も驚いた顔をしている。
え、もしかして見えてる???
オミさんをまじまじと見る。
「‥だろ?青葉」
「‥‥はい?」
疑問形にするなって言われたけど、急に現れた赤い髪の褐色肌のイケメンに女子が沸いたのは言うまでもない。朝からものすごいな!!長谷君は静かにフェードアウトしてくれたので助かったけど‥、早速姿を現わしたら意味ないだろうに!!
急いで、また姿を消してもらうべく教室を一緒に飛び出した私だった‥。
前途多難すぎる‥。




