竜の神様、告げる。
体が重くて、目が開けられない。
それでも私は何かを掴んでいて、それを少しだけ握ると、ぎゅっと握り返してくれる事がなんだか嬉しくて、小さく笑う。
ゆっくりと私の髪を誰かが撫でる。
ああ、気持ちいいなぁ。
ずっとこのまま、夢のような中にいて、髪を撫でて欲しい。
‥そう思う相手は、一人しかいなくて、でもその相手に私は言えるだろうか。全部勢いだけで、相手におっつけちゃっていいのかな?せっかく蛇神様が背中を押してくれたのに、私の心はすぐ弱気になる。
自分勝手でごめんね。
たった一言、それだけ言わせてくれたら笑い飛ばして、茶化してくれてもいいから。
涙が知らず、ほろっと流れて誰かがそれを拭いてくれた。
「‥‥オミ、さん」
「なんだよ」
ん?
オミさんの声?
ゆっくり目を開けると、別荘の寝室の天井が目に入って、ちょっと横を向くと頬杖をつきつつ私を見下ろしているオミさんが私をブスッとした顔で見ている。
「‥‥夢だけど、現実だった?」
「「現実だ!!このアホ!!なんで!お前は蛇神の神域にいても連れて行かれるんだ!?天才か!??」」
うう、いきなり怒鳴らないでくれ‥。
頭に響く‥思わず顔をしかめると、オミさんはハッとして静かに口を引き結ぶ。
「オミさん、修行お疲れ様でした‥。お帰りなさい」
私がそういうと、オミさんは「おう」と言いつつ気まずそうに目を横に逸らす。
「火花の神と、仕向けた奴は、もう捕まえた。迷惑かけて悪かった‥」
「いえ、それはオミさんのせいでは‥」
だって婚約者さんの言う事はもっとだ。
結婚の予定もあったのに、私と契約させられてオミさんを引き止める形になってたし‥。それを考えると、胸がズキッと痛んでオミさんを見るのが辛い。
婚約者さんにオミさんを返さないといけないのに、
‥告白なんてできるんだろうか。
オミさんは眉をしかめて、
「‥俺がいない間に他になんかあったか」
言わないと‥。勇気を出して、言うんだ。
「‥‥オミさんを解放したくて、お見合いしました」
オミさんは目を見開いて、私をまっすぐ見つめる。
一瞬、シンと静まり‥、
「‥‥俺は、言ったよな?魂と魂を結ぶから、そういうのは慎重にって」
低い静かな声に、怒りの色が混じっているのがわかって目を逸らす。分かってる‥、だけど、もうそれしかないって思ったんだ。
「‥オミさん、ごめんね」
「なんで謝るんだよ!!お前、もしかして結婚するんじゃねーだろうなぁ!!」
ジロッとオミさんが私を睨む。
あ、やっぱり怒った。
ねぇ、オミさん‥。
そうやって怒ってくれるのは、優しさからだけじゃなくて、ちょっとだけ私が好きだからって勘違いしてもいいかなぁ?泣きそうになって口をぐっと引き結ぶ。
黙っている私をオミさんは悔しそうに見て私の手をギュッと握る。
「誰かのものになるな‥」
「‥そうは言ってもですね‥」
「ダメだ!すんな!!」
「えっと、だから‥」
「「修行終わって1年ぶりに帰って来れたと思ったらお前ときたら拐われるし、連れ帰って来たらぶっ倒れてずっと寝てるし、こっちはなぁずっと心配だったんだぞ!!」」
そ、そうだったんだ!!?
目を丸くしてオミさんを見ると、私の肩に額を寄せる。
「‥やっと、会えたのに‥」
静かに呟く声に、いきなり胸が潰されそうになる。
オミさんが辛そうな顔を上げて私を見つめる。
そういう顔されたら、だから誤解するってば‥。
私はオミさんにちゃんと好きって言おうとして、口を開く。
「オミさん、私‥」
「黙ってろ」
そういうと、オミさんが私の手の甲を持ち上げると、トカゲのマークに静かにキスを落とす。
っっへ?キス???
目を丸くして、オミさんを見上げるとプイッと横を向く。
「‥お前が、好きなんだよ!」
「え」
いきなり告白されて、びっくりしてオミさんを見つめると、オミさんの横顔がジワジワと赤くなっていく。先を越された?いや、そうじゃない。
「でも、こ、婚約者さんが‥」
「俺は、お前がいいんだ!!!」
思わぬ言葉に嬉しくて、泣きそうになる。
‥本当に?オミさんが顔をぐりっとこっちに向けて赤い顔でやけくそのように叫ぶ。
「へ、返事は!??」
「「わ、私も好きです!!」」
「は?」
「えっと、好きです‥」
今度は私の顔が赤くなる。
オミさんを視線だけ、そっと見上げると一瞬呆けた顔をしていて、やがて目がパチリと合う。
ギュッと握るオミさんの手が熱いくらいで、私の手も熱くて、お互い真っ赤な顔を見合わせて笑うと、寝室の扉が大きく開いた。
「「ハッピーエンドだと聞いてぇえええ!!!!」」
「待って、蛇神様、もうちょっと待ってください!!!!」
突撃して来た蛇神様と、それを必死に止めるシキさんの登場に、オミさんと私の体が瞬間、大きく跳ねた。ば、バッチリ聞いてたのね!??




