竜の神様、駆けつける。
ズキズキと全身が痛む。
‥痛い。
痛くて、目が開けられない。
首元にいつも着けている蛇神様から貰った、護符がわりのネックレスがシャラっと音を立てて落ちた。ネックレスが落ちた?っていう事は、蛇神様と同じくらいの強さか、もっと強い存在に連れて来られたのかな?
どこかものすごく大変な事になっていると分かっているのに、冷静に考えている自分がいて‥、
『竜の娘が言ってたのは、お前か‥』
頭に何か声が響いて、ようやく目を開ける。
目の前は、真っ暗で上も下もわからないくらいだ‥。それでも床だと思われる方に手を置いて体を持ち上げる。
「‥あなたは誰ですか?」
『雷の火花の神だ』
随分とファンタジーだな‥。
そう思って、顔を上げるとパチパチと光があちこち弾け飛ぶ。あまりに綺麗な光景に、無理やり連れてこられたのに思わず見惚れてしまう。
「‥なんでここへ?」
『竜の娘がお前の事を話してな‥。食べてもいいが、嫁にしてもいいかと思ってな』
竜の娘‥。
もしかして、オミさんの婚約者の人?
私は目を見開いて、火花が私の周りをぐるぐると周りながら、パチパチと弾け飛ぶのを目で追いつつ話す。
「私は貴方とは結婚しません!それに契約をしてるんですけど!?」
『ああ、大丈夫だ。契約をしている竜の子から貰い受ける』
そんなあっさり言い退けたけど、オミさんは首を縦に振るわけないだろう。第一結婚なんてする気がない‥。私はパチパチ弾け飛ぶ火花を見る。
「‥すみません、オミさんが例え首を縦に振ろうと私は結婚はしません」
静かにそういうと、火花がバチンと一層強く弾けた。
『優しく言っている間に嫁になれば、魂は食わないぞ?』
‥これは、脅しじゃないんだろうな。
神様だし、私の魂なんて簡単に食べられるんだろう。
神格を上げたいから、私を連れて来たのに‥。選択肢は「はい」しかないなんて、あんまりじゃない?
逃げられるんだろうか‥、ズキズキと痛む体をなんとか庇うように座り直す。
せめて一目、オミさんに会いたかったな。
小さくため息をつく。
ようやく決心したのに。蛇神様に色々約束して貰って、ようやく一歩踏み出せると思ったのに‥。いや、そんな事を考えても仕方ない。
結婚はしたくない。
力を食べられて死ぬほうがまだマシだ。
顔を上げて、パチパチと弾ける火花を見上げると、火花は静かに私の目の前にやってくる。
「‥結婚は、しません」
『そうか、それは残念だ』
私は、そっと手を差し出す。
パチパチと火花は線香花火の終わりの時のように、光り出す。
できれば痛くないといいな。やっぱりオミさんに会いたかったなぁ。色々な事が頭の中を駆け巡って、差し出した手の平を涙ぐんで見つめると、火花とぼやけた視界が広がる。
すると、後ろに誰かが立っている気配がする。
「振られたんだから、さっさと諦めりゃいーもんをよぉ‥」
よく聞き覚えのある声に手がピタリと止まる。
すると私の周囲を囲うように、ぐるりと火がものすごい速さで丸く円を描き、まるで私を守るかのように火が揺らめく。
この炎って‥。
呆然とその炎を見ていると、私の目の前にオミさんが現れた。
「「本当にお前はよぉ、勝手にまた食べられようとしやがって!」」
「オミさ‥」
オミさんは、手の平から槍を出して刃先から炎を出す。
火花がバチバチと弾けてオミさんの方へ向かっていくけれど、だ、大丈夫なの?!相手は神様だよ?!!私は目を見開いて、オミさんを見ていると、私の肩に誰かが手を置いた。
真っ白い手だけがうっすら見えて、
そんなの怖いはずなのに、全然怖くなくて、
ただ「大丈夫」って言ってくれているようで、私はもう一度前を向いた。
真っ暗な火花が散っていた空間を、オミさんが縦に大きく一振りすると、突然ぱっくりと空間が左右に切り開かれたように別れて眩しく光りだし、慌てて目を瞑った。
「‥青葉」
どこか遠くでオミさんが私を呼ぶ声が聞こえるのに、体が全然動かなくて、何かをグッと掴んだかと思うとそのまま意識が遠のいた。




