竜の神様、そっと置いて。
オミさんを訪ねてきた美女さんに「婚約する事になったから、契約を破棄しろ」と言われて、あまりの出来事に呆然としながら別荘に帰ってきたので記憶がない。
記憶はないけど、別荘のいつも寝ているベッドの上に私は座っていて、
まるさんとふわさんが心配そうに私を見上げている。
婚約‥。
決まったのかぁ‥。
そうだよなぁ‥、闘神とか言われちゃってるし、さっさと身を固めろ〜とか言われちゃう身分だろうし。一緒にずっといられる訳じゃないのに、また私ってば懲りずにもう少しいられるんだって思い込んでたなぁ‥小さく笑って、ベッドのシーツを見る。
始まる前に終わってる。
そう思ってたのに、それでもう少しだけ一緒にいてもいいかなって思ったのに、それさえもダメだった。
「‥‥完全に終わった」
顔だけベッドに突っ伏すと、まるさんが私に声を掛ける。
「まだ、真実かどうかは分かりませんよ?」
「‥いえ、真実かどうかは別として、契約はもう破棄します」
「「えええ??でも、か、課題が‥」」
「‥課題は、まだ分かりませんけど、パティアさんにお願いしてみます。あと、お見合いします‥」
まるさんのつぶらな目が大きく開いた。
あ、可愛い。
思わず、そっとまるさんの頭を指先で撫でる。
「‥どっちにしろ、オミさんをいつかは解放しようと思ってたんです。無理矢理契約させられて、私の事を守るなんてオミさんに悪いですし‥」
「ルディオミ様は、それを知ってらっしゃるんですか?」
「‥知らないです。いつまでも契約してていいって言ってくれたけど、ファルファラさんの結婚式だってあるし、それまでは一緒にって思ったけど‥。時期がちょーっと早まっただけですから‥大丈夫です」
そう思ったのに、涙がじわっと出てきて慌てて目を擦る。
「確認をしてからでも遅くないのでは?」
「‥オミさんの顔を見たら、決心が鈍っちゃうから‥。できればオミさんがいない間にお見合いして、結婚を決めます」
「そんな‥」
「ごめんね、まるさん。もしよければ言の葉の神様にお願いしてもいいですか?」
まるさんは小さな声で「承知しました」って言ってくれたけど、きっと納得してない。うん、わかるよ。私も全然納得できてないし、心はバラバラになりそうなくらい痛い。でも、もう私の恋は終わったんだ。
窓の外の欠けた月を見て、ぼんやり見て、
失恋ってこんなに辛いんだなぁって、どこか他人事のように思った。
翌朝、まるさんから言の葉の神様がなんと今日、お見合い相手を紹介するというので驚いた。
「今日ですか‥」
「‥あの、でも、今回はしなくても‥」
「いえ、お見合いします」
まるさんは、心配そうに私を見つめるけど、ごめん。もう決めたんだ‥。決心が鈍る前に葉月さんにバイトをお休みする事をお詫びするメールを送った。
そうしてどうしようかと迷ったけど散々お世話になっているし‥そう思って、ざっくりお見合いする理由も書いて蛇神様にだけ、メールを送った。
返信が即来て、
『待て、早まるな。あ、でも面白いかも?いや、待てやっぱ早まるな』
って、返事が来て思わず笑ってしまった。蛇神様、心の声が全部メールに出てます。
自分が神様の魂と結ばれるなんて想像つかないけど、
優しい人だといいなぁ。
できれば大学までは行かせて欲しいって頼もう。
あと一緒にゲームもして欲しい。
かき氷も食べて欲しい。
シャボン玉も飛ばしっこしたい。
お祭りにも行きたいし、花火も見たい。
空も飛んで欲しい。
そんな事を思ったら、涙がボロボロ出てきた。
「‥・全部、オミさんじゃん‥」
やっと涙が出てきて、ソファーの上で涙を拭いていると、まるさんが心配そうに私を見上げる。と、玄関の扉がカラカラと小さく開く音がして、慌ててゴシゴシと顔を拭いて玄関へ行くと、シキさんがちょっとしょんぼりした顔で立っていた。
「‥私が近くまでご案内しますね‥」
「すみません、よろしくお願いします」
「‥本当に行くんですか?」
「‥はい、お願いします」
シキさんは何か言いたげだったけど、口を閉じる。
ごめんね、シキさんまで嫌な気持ちにさせちゃって‥。
帰ってきたらオミさん、ちょっとくらい怒ってくれたらいいなぁ。勝手に決めるなって。でも、できれば最後は笑って欲しいなぁ‥。そう思って、静かに扉を閉めてお見合い場所へ向かった。




