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始動

 目的の為、リンとは基本的に行動を共にするようになっている。


 彼女とは別に、最近厳つい連中達に付き纏われるようになった。


 俺が燃料の入ったドラム缶を持ち上げると、


「待ってくれ兄貴! 兄貴の手をわずらわせるまでもねえよ。俺に任せてくれ」


 ライゼルはそう言い、慌てて俺からドラム缶を奪っていく。


 いつから俺はお前の兄貴になったんだ。


 歳だってお前の方がたぶん上だろ。


「いいって、俺の仕事だし。どうしてもってならルナを手伝ってやってくれ」


「安心してくれよ。そっちは問題ねえ。ルナ嬢には烈剛族の舎弟を三人つけてるからな。埃一つ持たせやしねえよ」


「それは良くやった!」


「お安い御用さ」


 俺が言う前にルナに配慮しているとは、こいつわかってるな。


 俺とライゼルは笑い合った。


 ライゼル達にはちゃんとルナに謝罪してもらった。


 どうやらルナを蹴飛ばしたのはライゼルの舎弟の一人の暴走らしい。


 そいつの事は許せないが、俺がぶっとばしてから未だに立てないようだ。


 直接手を出した訳でもないライゼルや他の舎弟のこともまとめてボコしてしまったのは、やりすぎたかもしれない。


 不意打ちに近かったしな。正面から戦ったら烈剛族相手に勝てなかっただろう。


 怪我を負わせた件については、ルナの痣が残らなかったら許してやるつもりだ。


「お前ここは債権奴隷の区画だけど、自分の持ち場に戻らなくていいのかよ」


「兄貴の班員に頼んだら泣いて喜んで代わってくれたぜ」


 お前の頼みは脅迫と変わらない気がする。


「そういや、ルナはどこ行った?」


「犯罪奴隷の区画を調査を兼ねて探検してくるって言ってたぞ」


「危ないだろ。何で止めないんだ」


「私は止めましたが、必要な事だからと聞き入れてくれませんでした」


 リンは一応止めてくれたらしい。


「心配ねえよ。俺に盾突く馬鹿な犯罪奴隷はいねえし、兄貴の仲間に手を出す大馬鹿者は、存在するものならむしろお目にかかりてえくらいだ」


「そうか……それならまあいいか」


 悲しい事に、ライゼル達を沈めたせいで俺の悪名もこの施設に浸透してしまった。


 俺達は当初ライゼルのことを荒くれ者の主という認識だったが、実態は大きく異なっていた。


 犯罪奴隷の荒くれ共を力を持って大人しくさせ、秩序を保っていたのだと言う。


 思っていたよりもずっとまともな奴だった。


 ライゼル達烈剛族は元々貴族に仕えていたらしいが、主君に裏切られ罪を被せられて犯罪奴隷の身に落とされたらしい。


 俺の周りの奴隷は理不尽な身の上ばかりだな。


 兄貴などと言い謎に俺のことを慕ってくるが、元々仲間にする予定の人員だったのだから、かまわない。


 ルナの護衛も担ってくれるのはありがたい話だ。


「あまり過保護にすると逆に看守に目をつけられてしまうのではないでしょうか。今も作業時間なので、この場にいないのが気づかれたら罰を受けてしまうかもしれません」


「はあ?」


 ルナの扱いについてリンから忠告を受けた。


 確かにそれはまずい……完全に盲点だった。


 目から鱗だ。


「すみません! 出過ぎた事を言いました! どうか命だけは!」


 突然リンが命乞いをしてくる。


「いや、別に怒ってないんだが」


「落ち着いてくれ兄貴! 脱出するにはリンも必要なんだろ? 貴重な人員を無駄に減らすことはねえって!」


「お前ら話を聞けよ。怒ってなどないって言ってんだろ」


 こいつら、俺のこと何だと思ってるの?


 命がどうとかそんな重い話してなくない?


 本当に怒ったところで殺しなんてしないし、お前らの過剰な反応に苛つかされたくらいだわ。


「おい! お前ら一人少ねえぞ。何処でサボってる!」


 タイミングを見計らったように看守ドンマーが現れた。


 リンが心配していた展開だ。


「小娘がいないな。連帯責任で全員鞭打ちの刑だ!」


 ドンマーはその場で鞭を地面にしならせ、威嚇してくる。


 大変なことになった。


 最悪他の奴らを避難させて罰を受けるのは俺だけにしたい。


 交渉してみるか。


「仕事を遅らせはしないから、勘弁してくれないか?」


「あん? 俺に口答えする馬鹿は誰だ? ……って、お前か」


 俺は無言でドンマーの前に出る。


「よ、よし。今回だけは見逃してやる」


 マジか。


 言ってみるものだな。


 まさか無条件で許してくれるとは思わなかったわ。


 ドンマーもバーンのようにそんなに悪い奴じゃないのかもしれん。


「今回だけ特別にサボってる小娘を差し出せば他は許してやろう。特別だからな!」


 相手は譲歩してくれたつもりだろうが、その選択は一番俺にとって受け入れがたいな。


「それも勘弁してくれ」


「なっ! 何を言ってるんだ貴様!」


 ドンマーは驚き顔で俺に言う。


 そりゃ無理あるよなー。


 だって、ルナの奴普通にサボってるんだもん。


 今回ばかりは言い訳の余地がないんだよな。


 だからと言ってルナを鞭で打たせる訳にはいかない。


「代わりに俺が相手になるからさ。それで許してくれません?」


 俺はぎこちなく笑いながら、ドンマーに詰め寄る。


「ッチ。今回だけだからな! さっさと業務に戻れ!」


 え? いいのかよ。


 今回は許される理由がないと思ってたが、拍子抜けだ。


 お前意外と話がわかる奴なんだな。


 誤解してたわドンマー。


 そそくさとドンマーは作業場を去って行った。


 代わりにライゼルが近寄ってくる。


「兄貴……あいつ生意気だな。ムービングファッキンプレスの刑にしてやるか?」


「待ってください。それにはまだ早いのでは?」


 ライゼルの提案をリンは否定する。


「何だそれは?」


 一文字も聞き慣れない名前の刑だな。


 リンも知ってるという事は、知らないのは俺だけなのか?


「何って、兄貴の必殺技じゃねえかよ」


「尚更わからんわ」


 適当なこと言うな。


 そんな意味不明な名前の必殺技なんてお披露目したことないんだが。


 そもそも必殺技ってなんだよ。


 その答えはリンが説明してくれた。


「作業レーンに乗せて倍速で圧縮機に巻き込ませて事故死させるルシファーさんの必殺技の事ですよ」


「それか」


 あれは別に俺の必殺技って訳じゃねえから!


 事故死させる必殺技って、もはや事故死じゃねえだろ。


 被害者は一人で、その被害者の看守バーンは死んでるから今の所必殺ではあるかもしれんけども。


 だいたいその技名なんなの?


 やった俺ですら知らないのに何でお前ら通じるの?


 そもそもあれはただの事故死だ。


 俺の計略みたいにしないでもらいたい。


「兄貴にとっては日常的な殺戮の風景で、必殺技という程のものじゃねえってことか。本当に恐ろしい男だ」


 俺もそんな男がいたら本当に恐ろしいと思う。


「いや、俺達を許してくれた相手にそんな酷い仕打ちをする理由がないだろ」


「そうか。ドンマーの奴命拾いしたな」


 俺はそんな軽いノリで人殺す奴だと思われてるのか。


「ただいま! どうしたんだい? 何か問題でもあったの?」


 探検を終えたらしいルナが烈剛族を連れて作業場に戻ってきた。


「お前が気にするような事は何もないな。けど、作業時間内はあまり出歩かない方がいい」


「わかった。君がそう言うなら、そうするよ」


 ルナは基本的には聞き分けが良くていい子だ。


「犯罪奴隷の区画を自由に出入り出来るようになったから、現状私達が行動出来る範囲での施設の構造は全て確認できたよ」


 ライゼルを仲間に出来た俺達に奴隷間の壁はもうない。


「さっそく明日、最初の作戦開始だ。看守室に侵入してリンに施設のデータを取り出してもらう。その間私達で看守達の妨害をしよう」


 ルナの考える作戦は信頼しているが、上手くいくか何だか不安だ。

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