第65話 三股!?
ウィルが意識を取り戻すと、ベッドの横では服を着たテスカが正座をさせられアリスに説教をくらっていた。
その説教が飛び火する事を恐れたウィルがしばらく気を失ったフリをしていると、部屋にトーマスとララが入って来た。
「アリス、何を騒いでるんだい?ウィルが目を覚まし…あれ?テスカ様、正座なんかしてどうしたんですか?」
「あちきはウィルのベッドで寝ていただけなのに、アリスが勝手に怒り出して困ってるのさ。」
「か、勝手!?さっきから言ってますけど、ウィル様のベッドで寝ちゃダメなんですってば!し、しかも、は、裸でなんて絶対ダメです!少しは反省して下さい!」
「反省も何も、何でダメなのかねぇ?そこを説明してくれないとわからないさねぇ?」
「ダメなものはダメなんです!」
「まあまあ、アリス落ち着いて。ねっ?ウィル君もまだ眠ってるんだし、それに流石に神様に正座はやり過ぎよ?」
「ララ様…わ、わかりました…。」
「テスカ様ももっと恥じらいを持って下さいませ。ウィル君に嫌われてしまいますよ。」
「そ、そうさねぇ。気をつけるよ。」
ニコニコしながらも圧の込められたララの言葉に2人が押し黙った所で、ウィルは何事も無かったかのように起き上がると、自分が気を失ってから何があったのかを聞いた。
まず骨龍が消滅すると同時に、クラスティとラウヌは忽然と姿を消していた。
狂奪の覇気によって暴れていた神聖派の貴族や兵士達はしばらくすると正気に戻り、チャールズ率いる皇帝派の軍勢とウィリアム率いる神殿騎士団によって鎮圧され、その後、駆けつけた皇帝ロベールの号令により皇帝派と神聖派の内乱は終結していた。
そして、内乱の首謀者であるオグニイーナ、ミカエル、ジェレミエルの3人はシーザー達によって捕らえられると、テスカとゲンの作った隔離結界に幽閉されていた。
「…そうですか。クラスティは姿を消したんですね。まぁ、あのかまってちゃんならそのうち現れるでしょうから、また愛の鉄拳をぶち込むとして、何よりララさんが無事で本当に良かったです。あれっ?トーマス兄さん、その怪我は?」
ウィルのその言葉にララが申し訳なさそうに瞳を潤ませると、トーマスはその肩を優しく抱き寄せた。
「ああ、何でもないさ!気にするな!それよりお前は大丈夫か?丸5日も目を覚まさなくて心配したぞ!特にカルデ様がしきりに念話石でお前の事を心配していてな。ウィルに何かあったらって、そりゃしつこかったんだぜ!カルデ様もあんな乙女みたいな事を言うんだな!あっはっはっ!そういえば、今日はまだ連絡がないな?」
「…トーマス、何がおかしい?我が何だって?」
声のした方にトーマスが振り向くと、そこには腕を組み仁王立ちするカルデの姿があった。
「カ、カルデ様!?ど、どうしてここに!?」
「ロベールと連絡が取れて正式な国賓として招かれたのだ。それで、誰がしつこくて女々しいだって!?」
凄まじい威圧感を放ちながらカルデが前に出るとトーマスは後ずさる。
「いやぁ、あははは!女々しいなんて言ってましたっけ?あは、あははは。」
「カルデ、それ位にしてやるさねぇ。実際、アンタは昔から女々しいじゃないか?」
「我のどこが女々しいと言うのだ?」
「そりゃアンタ、ウィルがグラヴィザードの生まれ変わりだと気付いたから全ての力や記憶を解放しなかったんだろ?解放したらあちきに取られるとか思ったのかねぇ。十分女々しいじゃないか?」
「テスカ、我を愚弄するのか?殺されたいか?」
「フフッ、面白い事を言うじゃないかねぇ?やってみるかい?」
思わぬテスカの生まれ変わり発言に、アリス達が話についていけず困惑しているのに気付いたウィルは、テスカとカルデを止めに入った。
「テスカもカルデもいい加減にして下さい!皆、困ってるじゃないですか?少し落ち着いて下さい。」
テスカとカルデが落ち着くと、ウィルは自分が異世界から転生してきた吉口雄介だという事は伏せつつ、自分が300年前に存在した無属性魔法を使う人だけが住むヘクティアという国の最後の国王の生まれ変わりであり、その力と記憶がテスカによって解放された事を簡単にアリス達に説明した。
正確にはグラヴィザードの生まれ変わりは吉口雄介としての自分だったが、そこまで説明すると話がややこしくなる為、ウィルがグラヴィザードの生まれ変わりだという事で話を進めたが、テスカやカルデはウィルのそんな考えを察してか黙って話を聞いていた。
ウィルの説明が終わると心配そうにアリスが口を開いた。
「そ、それじゃあ、ウィル様はそのグラヴィザードという方になってしまわれたのでしょうか?」
「うーん、グラヴィザードの記憶があるから少し感情や言動が引っ張られる感じはあるけど、人格は俺のままだから心配する事は無いよ。」
「なるほど。少し前から自分の事を僕じゃなくて俺って言ったり、酒が飲めなかったのに飲めるようになったり、おかしいとは思ってたんだが、封印されていたグラヴィザードという人の記憶が影響してたのかもな。」
「そ、そうかもね。あははは。」
まさかそれは吉口雄介として転生した影響だと言える訳も無く、ウィルはトーマスの仮説に乗っかる事にした。
「あ、あの、ではウィル様はテスカ様の事をその、好きになってしまったのでしょうか?」
「えっ!?ア、アリス、いきなり何を!?」
いきなりの質問にウィルが困惑していると、アリスは真剣な表情でウィルに詰め寄った。
「だって、グラヴィザード様とテスカ様は恋人同士だったんですよね?」
「うっ!?そ、それは…。」
「ウィル、別に恥ずかしがる事はないさねぇ。はっきり言ってごらんよ。」
「テスカ、何を勘違いしている?たとえあの男の生まれ変わりだとしても今はウィルなのだ。それにウィルと我は既に契りを交わしているのだ。貴様のような淫乱女の入る隙間など無いわ!」
カルデはそう言うと薬指にはめたウィルとお揃いの念話石の指輪を自慢げにテスカへ見せた。
「フフッ、契りねぇ?どうせアンタの事だから連絡手段が必要だからとか言って無理やり付けさせたんだろ?それを契り?笑わせてくれるじゃないか?」
「なっ!?そ、それだけでは無いぞ!わ、我とウィルはせ、せ、接吻したのだぞ!ど、どうだ、恐れ入ったか!?」
「そりゃアンタ、それは力を解放した時にキスしただけだろ?それなら、あちきだってしてるし、こっちは胸だって揉まれてるんだ!カルデ、アンタの出る幕は無いさねぇ!あははははは!」
「む、む、む、胸なら我だって揉まれてるぞ!そ、それも風呂に入りながら激しく揉みしだかれたのだ!テスカ、貴様こそ出る幕は無いわ!ははははは!」
おかしなテンションでテスカとカルデが張り合っていると、アリスが瞳を潤ませながらウィルに抱きついた。
「ウィル様!ヒドイです!昔、ワタシをお嫁さんにしてくれるって言ったじゃないですか!?」
「ええーっ!?そ、それは小さい頃の話だよね?た、確か…そうだ!それはアリスの貰い手が無かったらという前置きが…。」
ウィルはなんとか記憶の中から10歳の頃に冗談半分で言った一言を思い出すが、納得出来ないアリスは立ち上がるとテスカとカルデを睨み付けた。
「ウィル様、信じてたのにー!こんなオバさん達のどこが良いんですかぁー!」
「オ、オバさんだと!?小娘が我をオバさん呼ばわりするとは!?」
「アリス、今のは聞き捨てならないねぇ。神は歳を取らないからあちきは20歳のままなのさ!」
「でも2人とも何百年も生きてるんですよね?いくら若くてもオバさんじゃないですか!?というかお婆ちゃんじゃないですか!!!」
アリスの強烈な言葉に頭を撃ち抜かれるような衝撃を受けながらも、カルデとテスカはひるむ事なくアリスへ詰め寄った。
「この我を年寄り扱いとはー!?小娘が!もう許さん!表に出ろ!この淫乱女と一緒に粛清してくれるわ!」
「望むところさねぇ!アリス、お婆ちゃんは取り下げてもらうよ!」
「ワタシも望むところです!お2人に若さとはどういうモノか教えて差し上げます!」
3人が肩を突き合わせながら部屋を後にすると、唖然とするウィルの肩をトーマスが叩いた。
「ウィル、羨ましい…コホンッ!じゃなくて、流石に三股はマズイだろ?せめて二股にしとけ!…イテテテテ!!」
ララはトーマスの耳を引っ張りながらウィルに微笑みかけた。
「ウィル君、男性に必要なモノは誠実さよ。わかる?お義姉さんを悲しませないでね。」
「で、でも俺は…。」
「ウィル君、わかりましたか!?」
ララの圧の込もったその言葉にウィルが押し黙ると、そこへ帝国騎士団長のノアルと、副団長のカインズが訪ねて来た。
「やあ、ノアル殿とカインズ殿ではありませんか?どうしたんですか?」
トーマスとララはウィルが眠っていた間に2人と顔を合わせていた。
「皇帝陛下からウィル殿の様子を見て来いと言われまして。あっ?目を覚まされたのですね。」
ノアルとカインズはウィルに自己紹介をすると本題に入った。
「この度はボルケニア帝国をお救い下さり本当にありがとうございました。
つきましては、皇帝陛下が皆様へお礼を言いたいと申しております。ボルケニア城までご足労願えますでしょうか?」
「お礼って俺は別にボルケニア帝国を救おうと思って動いた訳じゃないですし…。」
「たとえそうだとしても貴方達は火の神オグニイーナと魔王ベリアルからボルケニア帝国を救った英雄なのです。どうか。」
「うーん、わかりました。ではこれから伺わせてもらいますね。」
「ありがとうございます!」
こうしてウィル達は、風呂で口喧嘩をしていたカルデ達が戻って来てから、事情を話しボルケニア城へと向かうのだった。




