第63話 天を貫く刃
骨龍の放った黒い覇気が会場全体を包み込むと、逃げ惑う貴族や兵士達は狂ったように殺し合いを始めた。
ウィルとテスカはラウヌと攻防を繰り広げながらも会場の様子がおかしい事に気付く。
「くそっ!?一体何が起きてるんだ!?」
「それはこの黒い覇気のせいさねぇ。これは狂奪の覇気と言ってね。魔力の弱い者がこれを浴びると正気を失って誰彼構わず周りにいる者の命を奪い続けるのさ。」
「そんな覇気があるのか!?」
すると、骨龍が咆哮を上げながら翼を羽ばたかせ空へと舞い上がった。
「グオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」
「空も飛べるのか!?アレが街の方へ行ったら大変なことになる!イツトリ、俺はアレを止めに行くから、コイツを頼む!」
「わかったさねぇ!気を付けるんだよ!」
「ああ!」
ウィルはラウヌの大鎌を大きく弾き返すと骨龍の方へと瞬間移動で飛び両手を天にかざした。
「行かせるか!重力操作!!!」
重力が通常の100倍に跳ね上がると骨龍は体制を崩しながらもウィルに向かって口から黒い魔力球を放った。
「うおっ!?でかい!」
ウィルはそのあまりの大きさに思わず瞬間移動で避けるが、魔力球は会場の西側を吹き飛ばし、そのままの勢いで街の東門の近くに着弾すると大爆発を起こした。
『ドゴォォォォォォン!!!』
「な、なんて威力だ!」
街の東門とそれに連なるように建てられていた石壁を含む一帯が巨大なクレーターと化したのにウィルが驚いていると、再び骨龍が魔力球を放った。
「避けたら街が!くそっ!亜空間障壁!」
魔力球は時空の裂け目に飲み込まれ消滅した。
しかし、それと同時にに骨龍の巨大な爪がウィルへと襲いかかった。
「デカイくせに速いな!」
ウィルは迫り来る爪を瞬間移動でかわし骨龍の背後に回り込むと両手を前に突き出した。
「連弾重力渦!!!」
『ズドドドドドドドッッッ!!!』
その突き出された両手から無数の重力渦が放たれ骨龍の巨大な翼を抉ぐり取るように消滅させるも本体には届かない。
「グガアアアアアアッッッ!!!」
「チッ!デカすぎて全てを消滅させるのは無理か!?」
ウィルが攻め倦んでいると、そこへ不気味な笑い声と共にベリアルの放った氷の矢が降り注いだ。
ウィルは防御障壁で防ごうとするが、氷の矢はいとも簡単に防御障壁を貫きウィルの左太ももに突き刺さった。
「ぐうっ!?」
「ふわははははっ!そんなお粗末な障壁でワタクシの攻撃を防ごうなんてナメられたモノですね。骨龍の魔力球を消滅させた先程の障壁であれば防げたのに、何故使わなかったんですかね?
あっ!もしかして使いたくても使えなかったんですかね?」
ベリアルの言う通り亜空間障壁は連続して使うと、しばらく時間を置かないと使用出来ないという制約があった。
「さぁ?本当にナメていただけかもしれないぜ?」
ウィルは一瞬動揺しながらも、それを誤魔化すように左太ももに突き刺さっている氷の矢を引き抜いた。
「ふふふふっ、貴方嘘をつくのが下手ですね。顔に出ちゃってますよ。おやっ?狂奪の覇気を浴びた連中が街の方へ向かい始めましたね。ウキウキしますね。ワクワクしますね。殺戮が始まりますね。ふわはははははっ!」
ウィルが横目でベリアルの視線の先を追うと、狂奪の覇気を浴びて正気を失った5万人近い神聖派の貴族や兵士達が、崩壊した会場の西側から街の方へ溢れ出ているのが見えた。
「くっ、街の石壁はさっきので崩壊しているし、このままじゃ街の人達が!?」
ウィルは周囲を見渡すがテスカはラウヌと、レオナルドはクラスティと闘っていて気付いていない。
「くっ!?どうすれば…んっ!?なんだあの兵は!?」
ウィルが焦りの表情を浮かべていると、その目に思いがけない光景が飛び込んで来た。
それは、狂奪の覇気に侵された神聖派の貴族や兵士達を食い止めようとする、チャールズ率いる皇帝派の軍勢とウィリアム率いる金色の鎧を纏った神殿騎士団の姿だった。
「あれは皇帝派の軍勢じゃあーりませんか!?確か情報だと明日進軍して来るはずでは?これは1本取られた感じですね。悔しいですね。ラウヌは後でお仕置きですね。
骨龍にオグニイーナの魂を移せなかったのは残念ですが、まぁ今回はこれで良しとしますか。さてと、あちらの方が本気を出す前に貴方だけでも始末してワタクシはおさらばしましょうかね。ポイッと!」
ベリアルはどこからともなく黒曜石の鏡を取り出すと、骨龍の口の中に投げ込んだ。
すると、骨龍の全身が紫色に光り輝き消滅していた翼が元に戻っていく。
「グオオオオオオッッッ!!!」
骨龍が咆哮を上げると、その頭上に先ほどよりも更に大きな黒い魔力球が浮かび上がった。
「おお!?思ってたより鏡の中に魂が残っていたようですね。それでは念には念を入れときますかね。」
ベリアルが片手を天にかざすとその頭上に骨龍の黒い魔力球と同じ大きさの白い魔力球が浮かび上がった。
「避けないで下さいね!避けたら街が吹き飛んじゃいますからね!それではサヨナラ!バイバ…。」
ベリアルが決め台詞と共に魔力球を放とうとしたその時、突如それを遮るようにミカエルの声が響いた。
「凡人顔君!ハア、ハア…何を遊んでいるんだい?その腰にぶら下げているのはただの飾りなのかな?…ハア、ハア、ハア、そこのピエロは私に任せたまえ。君なんかと一緒に戦うなんて私の美学に反するが、今は帝都バーナに住む女性たちを守るのが優先だ。我慢してあげるよ。ハア、ハア……か、感謝したまえ。」
ウィルが声のした方に視線を移すとそこには左上腕部を失いボロボロになったミカエルがジェレミエルに支えられながら立っていた。
「ミカエル!?それはどういう事だ?お前らは仲間じゃなかったのか!?」
「フッ、察したまえ。ハア、ハア、信じるのも信じないのも君の勝手だが、ハア、ハア……1つだけ言えるのは私は君よりそこのピエロの方が大嫌いだという事さ!」
「ミカエル、お前…。わかった。今は信じてやるよ。」
ウィルとミカエルが話していると痺れを切らしたベリアルが叫んだ。
「せっかく盛り上がっていたのにとんだ横槍ですね!ウザいですね!死に損ないですね!
良いでしょう!お望みとあらば、貴方も一緒に死んで下さい!それでは改めて、サヨナラ!バイバイ!さよおならブー!ふわはははははっっっ!!!」
笑い声を上げながらベリアルが魔力球を放つのと同時にミカエルの力ある言葉が辺りに響いた。
「最後の審判!!!」
それと同時に地面に真紅の光を帯びた魔法陣が浮かび上がり、その中央から神々しいまでの煌びやかな装飾の施された巨大な門が出現し扉が開くと、ベリアルの魔力球を凄まじい吸引力で吸い込んだ。
『ビョォォォォォォォ!!!』
「ぐぬぬぬぬぬっっっ!こ、この魔法は最後の審判!?まだこんな力が残っていたんですね!?ぐぬぬぬぬっ!」
ベリアルは吸い込まれまいと必死に耐えながらミカエルを睨み付けるが、ミカエルはその様子を嘲笑うかのように言い放った。
「フフッ、私の愛しのオグニイーナを欺いた罪は重いよ。確か貴方はサタンとは仲が悪かったはずだね?あちらでサタンに八つ裂きにされるといい!」
ミカエルがそう言うと門の吸引力が更に上がりベリアルを吸い込んだ。
「っっ!ち、畜生ぉぉぉぉぉっっ!!!覚えていろぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」
ベリアルが吸い込まれると門は眩い光を放ち大爆発を起こした。
『ドガァァァァァンンン!!!』
キノコ雲が立ち上り爆風が吹きすさぶ仲、防御障壁を展開し爆発を回避したウィルが目を凝らすとそこには、ウィルと同じく防御障壁を展開した無傷の骨龍が魔力球を維持したまま佇んでいた。
「グオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」
骨龍は咆哮をを上げると、まるで機をうかがっていたかのように魔力球を放った。
「亜空間障壁!!!」
ウィルは亜空間障壁を展開し魔力球を消滅させると、骨龍の目の前に飛び腰にぶら下げていた刀身の無い短剣の柄を手に取り天に向かってかざした。
「天突銀震刃!!!」
短剣の柄から天を貫くような数百メートルはあろうかという巨大な銀震刃が出現すると、ウィルはそれを骨龍に向かって思い切り振り下ろした。
「でやあああああああああっっっ!!!!」
『ズドドドドドォォォォンン!!!!』
「グオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」
その一撃を受けた骨龍は断末魔のような咆哮を上げ粉々に砕け散った。
そして、魔力を使い果たしたウィルは何とかそれを見届けると気を失い、その場に倒れ込むのだった。
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