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第60話 罰と金

話はボルケニア城の西塔で大爆発が起きた時に戻る。

ベリアルの置いていった箱が爆発したその時、突然七色に光り輝く隔離結界がトーマス達を包み込んだ。

『ドガァァァァァン!!!』

凄まじい爆発が起こるが隔離結界はビクともしない。

爆発が収まると共に隔離結界は消え、瓦礫の山の上でトーマス達が唖然としていると、そこにボサボサの金髪の腰蓑をつけた半裸のレオナルドが現れた。

「ふわぁ。アリエルがいるかもと思って来て見れば物騒じゃな。」

レオナルドはオグニイーナの隔離結界に弾かれたのではなく、アリエルが城に潜入した時に居眠りをしていたらいつのまにかぬいぐるみから抜け落ちてしまい、置いてけぼりをくっていただけだった。

怪しさ全開の原始人のようなレオナルドの格好にその場にいる全員が奇異なモノを見る視線を送っていると、意を決してトーマスが話しかけた。

「あ、あの貴方があの結界を…?

私はトーマス・バークリー・サウストンと申します。あ、貴方は?」

「んっ!?トーマス?ああ、おぬしウィルの兄か?」

「は、はい。兄のトーマスです。ウィルの事を知ってるんですか!?」

「ああ!ワシの名はレオナルド。ウィルとは裸の付き合いをした仲じゃ!あやつは顔は凡人だがアソコはなかなかの男前だったぞ!わっはっはっ!」

「ア、アソコですか…?」

いきなりウィルの股間の話を始めた事にトーマス達がドン引きしているのも気付かず、レオナルドは話を続けた。

「安心しろ。ワシはウィルの仲間だ。事情も知っているぞ。ところでそこにいる赤い鎧の奴らは敵だろう?さっきは急だったからついつい助けてしまったが、片付けてしまおうではないか。

とは言ってもそこで倒れているのはほっといても死ぬだろうがな。」

レオナルドは、ミレーヌに抱きかかえられているウィリアムを見た。

ミレーヌは泣きながらも必死に回復魔法をかけているがウィリアムの傷口は塞がらない。

「他はともかく彼はもう私達の敵ではありません。」

「そうなのか?だがその娘の回復魔法じゃ助けられんだろうな。どれ、ワシが特別に治してやろう。こんなサービス滅多にしないんだからね!レオちゃんビーム!」

レオナルドの指先から七色に光り輝く光線が照射されると、ウィリアムの傷口が見る見るうちに塞がっていく。

そのレオナルドのふざけた立ち振る舞いとは裏腹に目の前で起こる信じられない光景に、その場にいる者たちから驚きの声が上がる中、ウィリアムが身体を起こした。

「こ、これは…私は助かったのか?」

「団長!!!」

信じられないように傷のあった腹をウィリアムが触っていると、泣きながらミレーヌが抱きついた。

「それじゃあ、ワシはアリエルを探さないといけないから、他のをとっとと片付けてしまおうではないか!」

レオナルドがギロリと周囲にいた神殿騎士達を睨んだ。

その圧倒的なまでの威圧感に神殿騎士達がたじろいでいると、ミレーヌが叫んだ。

「お待ちください!ワタシはウィリアム団長をお慕いし神殿騎士になりました。団長が神殿騎士を辞めるというのであればワタシも神殿騎士を辞めます!」

そう言うとミレーヌは立ち上がり神殿騎士の証である勲章を引きちぎった。

「ミレーヌ…。」

「それに今いる神殿騎士のほとんどは、ワタシと同じように団長をお慕いし入団してきた者達であるという事をワタシは知っています。そうであるなら剣を捨てなさい!そして、もし違うのであればワタシが相手になります!さあ、かかってきなさい!」

ミレーヌが剣を構えるとその場にいた全ての神殿騎士達が迷う事なく剣を捨て勲章を引きちぎった。

「皆…。」

ウィリアムは立ち上がりトーマス達の前まで来ると、跪き首を差し出した。

「これまで貴方がたにオグニイーナ様がしてきた非礼は、それを止める事が出来なかった私の責任です。

それは神殿騎士を辞めたからと言って無くなるものではありません。

それに部下達はあくまで何も知らず従ったまで、全ての責任は私にあります。

どうか私の首に免じてお許し下さい。」

「団長!それならワタシの首を!」

ミレーヌがウィリアムとトーマスとの間に割って入り首を差し出しと、それに続くようにその場にいた神殿騎士達が次から次へと跪き首を差し出した。

「トーマス、どうするのだ?今なら全員の首を切り落とすのも造作もないが、おぬしの好きなようにしろ。」

レオナルドが何かを試すようにトーマスに問いかけると、トーマスは肩をすくめた。

「皆、何か信じるものがあって戦っていたのでしょう。それがわかった今、私がこの人達を斬れるとでもお思いですか?斬れませんよ。それに斬るべき敵は最初から決まっています。」

レオナルドはその言葉を聞くとニヤリと笑った。

「フフッ、それでこそウィルの兄だ!ここでおぬしがこの者達を斬ると言ってたら、ワシがおぬしを殺していたぞ。わっはっはっはっ!」

レオナルドの冗談に聞こえない言葉にトーマスが苦笑いを浮かべていると、納得出来ないウィリアムが口を開いた。

「それでは私が納得出来ません!どうか私に罰を…。」

「しつこいのぉ。それではこの神獣であるワシがその罰とやらを決めてやろう。トーマスに代わってお仕置きよ!」

レオナルドはそう言いながらどこかの美少女戦士のような決めポーズをした。

その場にいた全員がレオナルドが只者ではない事を察していたものの、まさか腰蓑に半裸の変なおっさんが伝説の神獣だとは夢にも思わず、呆気に取られているとレオナルドの身体が七色に光り輝き獅子の姿へと変身した。

「それではウィリアムと言ったな。おぬしの罰はこのトーマスが成そうとしている事を命を賭して手伝う事だ。もし他の者も罰を与えて欲しいというのであれば、このウィリアムに付き従う事を罰とする。わかったな?」

レオナルドのあまりの神々しさに唖然としていたウィリアム達はその言葉にふと我に戻ると声を揃え返事をした。

「ハッ!!!御心のままに!!!」

それからトーマス達は互いに知っている事を共有し、オグニイーナの目的を知るとそれを阻止すべく今後の方針を決めたのだった。

「それじゃあ、アリスは皇帝派のお義父様の元へ向かい事態を知らせてくれ。皇帝派は今頃グリル平原を迂回しコンロ森を抜けるルートでこちらに向かっているはずだ。

ミレーヌさんはアリスのサポートをお願いします。アリスはボルケニアの地理に詳しくないので。」

「トーマス様、承知しました。」

「はい。必ずアリスさんをお送りします。」

アリスとミレーヌは顔を見合わせ微笑むと握手をした。

ラスクは相変わらずアリスの背中で気持ち良さそうに眠っている。

「それから、ゲンさんは五つ星宿屋に向かって下さい。隔離結界は頃合いを見てウィルに解除してもらいますから皇帝陛下に事態を伝えて下さい。この内乱を収束させるには必ず陛下のお力が必要になります。

ウィリアムさんはゲンさんのサポートをお願いします。もしかするとまだ皇帝陛下の命を狙っている者がいるかもしれません。その時は陛下をお守りして下さい。」

「合点承知の助!任せてくだせえ!」

「はい。命に代えてもお守りします。」

まるで江戸っ子のように自分の腕を叩き返事をするゲンの横で、ウィリアムは胸に手を当て力強く頷いた。

「他の神殿騎士の皆さんは三人一組になって、この事態をここにいない神殿騎士達に伝えて下さい。味方になってくれれば良いですが、もし敵になるようなら可能な限り殺さずに捕縛して下さい。仲間内で殺し合いをするのは辛いでしょうから。」

「ハッ!!!」

その場にいた30人ほどの神殿騎士達はトーマスの心遣いに胸を打たれ一斉に敬礼をした。

「私とレオナルド様は余興会場に向かいます。きっとそこにララもいるでしょうし、ウィル達も助けが必要でしょうから…。」

トーマスの脳裏にパッカードが浮かぶ。

そんなトーマスの統率力に感心しながら話を聞いていたレオナルドが口を開いた。

「わっはっはっはっ!おぬし、本当にウィルの兄か!?顔だけじゃなく中身も男前ではないか?よしっ、気に入ったぞ!少しおぬしらに力を貸してやろう。」

レオナルドの身体が七色に輝きその場に光の粒が降り注ぐと、神殿騎士達の胸にレオナルドが付けていた腰蓑のようなデザインの勲章が付き鎧の色が金色に変化した。

「こ、これは!?」

「わっはっはっはっ!なかなかイカすだろう。その勲章をつけると鎧の色が変わり強度が上がるのだ。だが先程の誓いをやぶれば勲章は砕けおぬしらの命を奪うだろう。まぁ効果は一週間ほどだがな。それとウィリアム、手を出せ。」

ウィリアムが手を差し出すとその上に布袋が出現した。

「その布袋には同じ勲章が入っている。仲間になる者がいれば渡すが良い。くれぐれも転売しちゃダメなんだからね!」

「ハッ!ありがとうございます!」

レオナルドはトーマスに視線を移した。

「トーマス、おぬし勇者の血が流れているようだが勇者ではないな。人間としてはそれなりに強いようだが、今のままではオグニイーナはおろか大天使にすら苦戦するだろう。そこで一時的だが、ワシの力をわけてやろう。レオちゃんプリズムパワーメイクアップ!」

意味不明な掛け声と共にレオナルドの魔力がトーマスの中へと流れ込む。

「おおおおっ!!この力、すごい!」

「よしっ!これでオグニイーナとも対等にやり合える位にはなっただろう。だが油断は禁物だぞ。」

「はい!レオナルド様、ありがとうございます!」

今までに感じた事の無いみなぎる魔力に興奮を抑えられないトーマスを横目に、レオナルドはアリスの豊満な胸を見た。

「それと、アリスといったか…?おぬし、なかなか良い乳をしているな。おっと、そうじゃなかった。おぬしにはモロモロの事情があって、ワシの力を分ける事が出来ん。だから、これをやろう。」

レオナルドがそう言うとアリスの目の前に金色の杖が現れた。

その杖はまるで金属製のおたまのような見た目をしている。

「その杖はゴールドオレロと言ってな。魔法の威力を上げる事が出来るのだ。だがその分魔力も使うからいざという時に使うといい。まぁ普段は料理する時にも使えるから便利だぞ。わっはっはっはっ!」

「モロモロの事情ですか?うーん、なんかよくわからないけど、お料理でも使えるなら便利ですね。レオナルド様、ありがとうございます!」

意味深げなレオナルドの言葉に引っかかりながらもアリスがお礼を言うと、その杖を物欲しそうに見ていたゲンが口を開いた。

「あ、あの、レオナルド様。俺っちにも何か…その、頂けるんでしょうか?」

一瞬、ゲンの言葉にレオナルドは固まるが、その何かを期待したキラキラした瞳に堪えかね、何かを思い出したようにニヤリと笑った。

「あー、そうだったな。ゲンと言ったか?おぬしにはこれをやろう。」

すると、ゲンの腹巻が淡く光り始め、それまで茶色だった腹巻が金色の腹巻へと変化した。

「これは!?」

「それはワシの毛で編み上げた腹巻だ!どんなに寒くても決して腹が冷えず、どんなに暑くても決して蒸れる事の無い優れモノだ!有り難く貰ってくれ!わっはっはっはっ!」

あまりにどうでもいい贈り物にその場にいる全員が複雑な表情を浮かべていると、ゲンは感動に身を震わせ涙を流しながら叫んだ。

「うおーーー!ありがとうございやすっ!家宝にしやすっ!!!」

「あ、ああ、喜んで貰えたなら何よりだ…。」

予想外の反応にさすがのレオナルドも困惑する中、変な雰囲気を変えるようにトーマスが声を張り上げた。

「それでは皆さん、行きましょう!!」

「オオーーーッ!!!」

こうして、トーマス達はそれぞれの役割を果たすべく動き出したのだった。




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