第51話 嫌い者同士
「ミカエル!?」
地下室の入口に立つミカエルを見て思わずウィルは驚きの声を上げた。
「呼び捨てかい?君に呼び捨てで呼ばれる筋合いは無いんだけどね。」
「アンタだって俺の事を変な呼び方するじゃないですか?」
「フフッ、そうだったね。でも、それは初めて会った時に名乗りもせずに凡人顔君が攻撃してきたのが悪いんじゃないか?」
「それじゃあ、名乗ったらその変な呼び方やめてくれるんですか?」
ミカエルは顎に手を当て少し考えると肩をすくめた。
「それは無いかな。私は極力、女性の名前しか覚えないようにしているんだ。君の名前を覚える気は無いよ。それに私は君が嫌いなんだ。」
普通、他者に嫌いと言われれば多少なりとも傷付いたり不愉快になるものだが、ウィルはむしろその言葉に共感し好意的に受け止めていた。
「奇遇ですね。俺もアンタが嫌いです。それなら俺も呼び捨てをやめる必要はないですね。
あれっ?そういえば、羽根は治ったんですか?」
先日の闘いでウィルが重力渦で消失させたミカエルの片翼は元に戻っていた。
そんなウィルの挑発するような物言いに、ミカエルは眉をひそめた。
「ああ、あの時は不意打ちとはいえ屈辱だったよ。まぁ、あんな事には二度とならないから安心してくれ。それより随分と好き勝手やってくれているじゃないか?ロベールやクラスティの連れて来たあの女の子を隠したのは君の仕業かい?」
「何の事ですか?皇帝陛下とクラスティは男なのに名前覚えてるんですね?
もしかして、覚えないんじゃなくて、覚えられないんじゃないですか?顔は良いのに頭は悪いんですね。」
その嫌味の込もった言葉に、再びミカエルは眉をひそめた。
「やっぱり私は君の事が嫌いみたいだ。今すぐ息の根を止めてあげたい所だけど、今ここでそんな事をしたらオグニイーナに怒られてしまうからね。私は君を迎えに来たんだ。」
「俺を迎えに?」
「ああ、オグニイーナの思いつきで今夜の晩餐会の余興として、私達と君達が闘う所を皆に見てもらう事になったのさ。テスカポリトカとアリエルはオグニイーナが迎えに行ったから、私は不本意だけど君を迎えに来たって訳さ。」
「テスカとアリエルがそんな簡単について行く訳ないじゃないですか。それに俺もそんなものには応じませんよ。」
「フフッ、今のオグニイーナを甘く見ない方がいい。先日、君と闘った時とは比べ物にならないくらい魔力量が増えているからね。それに君には拒否権なんて無いのさ。たとえ、腕の1本や2本切り落としてでも連れて行くよ。だけど、その前に結界を解除されてララに逃げられたら厄介だから、そこの男には死んでもらうよ。」
ミカエルはゲンに視線を移すと、どこからともなく手に剣を出現させ、ウィル達の方へと近付いて来る。
「ゲンさん、ミカエルは俺がなんとかするので結界の解除をお願いします。」
「あ、ああ、ウィルさん、わかりやした!任せてくだせえ!」
次の瞬間、ミカエルが一気に間合いを詰めゲンを狙おうとするが、ウィルは磁力操作を使い床の石材で石壁を作り出した。
「ナメないでほしいな!」
構わずミカエルは突っ込むとその石壁をいとも簡単に切り捨てた。
だが、ウィルはその隙に瞬間移動でミカエルのすぐ後ろに回り込むと、その背中に触れた。
「ゲンさん、頼みました!」
そして、ウィルは瞬間移動を使いミカエルと共に地下室から移動するのだった。
瞬間移動でボルケニア城の中庭に出るとミカエルはすぐさま後ろに飛んでウィルと距離をとった。
外はすっかり陽も落ちて暗くなり、城から漏れ出る明かりが2人の姿を浮かび上がらせている。
「凡人顔君、驚いたよ!まさかこんな魔法が使えるなんてね。」
その様子にウィルはクラスティと遭遇した時に瞬間移動を使った事を思い出す。
「クラスティは知ってるはずなんですけど、聞いてないんですか?」
「いや、聞いてないな。知っていたらあんな不用意に近付いたりしないさ。」
「そうですか。嫌われてるんじゃないですか!?」
「嫌われているのは君の方だろ!?」
ミカエルが地面を蹴ろうとした瞬間、ウィルは磁力操作で作った足枷でその足を地面に繋ぎ止めた。
「おっと!?」
それと同時にウィルは一気に間合いを詰め銀震刃を出現させた。
「でやぁぁぁっ!」
ミカエルは足を固定されながらもウィルの繰り出した銀震刃を剣で受け止めた。
『ギィィィィィン!!』
銀震刃の超振動により生じた鈍い金属音が辺りに鳴り響く。
ウィルは休む間も無く剣撃を繰り出すが、ミカエルはその全てを難なく受け止める。
そして、そんな2人に気付いた神殿騎士達が次第に集まり始めた。
「その剣、前のと違って丈夫ですね。」
「わかるかい?これはボルケニア帝国の宝剣で世界一の名工サイクロプスが鍛えた聖剣プロメテウスだからね。だからこんな事も出来るのさ。」
ミカエルは受け止めていた銀震刃を弾き飛ばすと、剣に魔力を込めた。
すると剣から真っ白な炎が発生しミカエルの身体を包み込んだ。
「うわぁっ!あちっ!?」
その凄まじい熱さにウィルはたまらずミカエルから離れた。
「あちちちちっ!な、何してるんですか!?燃えちゃいますよ!?」
「はははははっ!私は熱くないよ。これがこの聖剣プロメテウスの力だからね。この白き炎はどんなものでも焼き尽くす究極の炎なんだ。ほらっ、君が作った足枷も無くなっているだろ?」
ウィルが目を移すと今までミカエルの足を地面に固定していた足枷は跡形もなく消えていた。
「へぇ、すごいですね。でも、それなら離れて闘えばいいだけです。どのみち接近戦じゃアンタに勝てなさそうですしね。」
「フフッ、離れて闘えば私に勝てるとでも?見くびられたものだ。さあ続きと行こうか?」
ミカエルが不敵な笑みを浮かべ剣を構えたその時、突如ボルケニア城から離れた西の夜空が淡い赤色に染まり、ウィルは戸惑いの声を上げた。
「な、何だ!?」
ミカエルはその光の意味に気付くと身体に纏っていた白い炎を消して剣を鞘へと納めた。
「どうやらオグニイーナはテスカポリトカとアリエルを捕まえたようだね。」
「えっ!?テスカとアリエルが?そんなの信じられる訳ないだろ!」
そんな疑うウィルにミカエルは肩をすくめた。
「そう言われてもあの光はオグニイーナの隔離結界のものだし、テスカポリトカとアリエルを捕まえたら隔離結界を展開する手筈だったから間違いないさ。で、凡人顔君はどうするんだい?」
その問いにウィルが困惑していると、騒ぎを聞きつけウィリアムとミリーナがやってきた。
ウィリアムはヘルムを装着していないウィルを見て神殿騎士ではない事を察するとミカエルに話しかけた。
「ミカエル様!その者は!?」
「ウィリアム遅かったね?この凡人顔君は余興の私の相手さ。それより、西塔の地下室に侵入者がもう1人いるから神殿騎士を向かわせてくれ。」
すかさずウィリアムは近くにいる神殿騎士達に指示を出した。
「ウィリアム、ロベールがいなくなったのは把握しているね?」
「はい。少し前に帝の間に銀色の隔離結界が展開され、結界が消えると同時に突入したのですが、その時には既に中にいたはずの陛下や従者達の姿は無く、現在城や城下町を捜索させています。」
「それはそこにいる彼の仕業さ。まぁロベールの居所は余興で彼を叩きのめした後に聞くから問題無いとして、少し手伝ってもらえないかな?彼を余興の場所に連れて行きたいんだけど聞き分けが悪くて困っているんだ。一瞬でも隙を作ってくれれば良いんだけど、頼めるかな?」
その言葉にウィリアムとミリーナと周りにいた神殿騎士達が一斉に剣を抜いた。
「うわっ!?何人いるんだ!?」
そして、ミカエルが隔離結界を展開したのを合図に、一斉に神殿騎士達がウィルへと襲いかかるのだった。
前回の投稿で、一日のPVが初めて600を超えました(^-^)
これもひとえに日々読んで下さっている皆様のおかげです。
ありがとうございます(*^_^*)




