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第3話 サウストン・アビー

雄介がウィルとしてこの世界で生きていくことになってから1週間が経っていた。

ウィルはサウストン男爵家の屋敷の裏庭で、1人で薪割りをしながら考え事をしていた。

あれから、サウストン家の人々と交流を深めながら、記憶の整理を進めていった結果、ウィルはこのままではトレンディドラマのような人生を送ることができないと言う結論に至っていた。

その結論に至った要因として最初にあげられるのが世界観である。

この異世界は、一言で言ってしまえばファンタジー世界そのものであった。

この異世界には天地界と魔界があり、ウィルのいる天地界には、光 闇 火 水 土 風 の6人の神様が存在し、それぞれの神様が加護する6つの大国が世界の覇権を永きにわたり争っていた。

そして、ウィルのサウストン男爵家が属するのが、風の神様が加護するマクグラン王国である。

さらにこの異世界には、魔王や勇者、魔物や聖獣、エルフやドワーフ、ネコミミ族なども存在するという、トレンディドラマからはかけ離れた、とある終わらないファンタジーRPGのような世界観となっていた。

次に要因としてあげられるのが環境である。

現在の環境を一言で言ってしまうと、ど田舎である。

サウストン男爵家の領地は、マクグラン王国の南部にあるクリスプ半島のフルーリー山脈を越えた最南端に位置する、言わば陸の孤島である。

気候はフルーリー山脈からの冷たい風により、1年中涼しく牧草地帯と針葉樹の森が広がる大自然で、当然大きな街は無く、あっても100人程度の集落が点在するに過ぎない。

また、王都へは徒歩であれば1ヶ月以上はかかるという、トレンディドラマというよりは、どこかのアルプスの女の子が住んでいるような設定である。

最後の要因としてあげられるのが、ウィル自身のステータスである。

一言で言ってしまえば凡人である。

知力、体力、魔力、容姿などは全て平凡で、何か特別な能力がある訳でもない。

またど田舎貴族の次男であり、相続権や貯蓄もなく、意識不明中に仕官先をクビになり無職、挙句の果てに童貞という、トレンディドラマというよりも異世界転生アニメの転生前の主人公のような設定だった。


「あーあ、どうしようかなぁ。

というか神様、転生先を間違えてるんじゃないのかな?」

そう言うとウィルは、切り株に置かれた木片に向かい斧を振り下ろした。

次の瞬間、木片は小気味よい音とともに真っ二つに割れた。

「まぁ、神様の贈り物も何かわからないし、自力でトレンディを目指すしかないかぁ。」

ウィルが次の木片をセットしていると、弓矢を背負った男達が声を掛けてきた。

狩りにでも行っていたのか、それぞれ腰や肩には野ウサギや野鳥をぶら下げている。

その中でも一番大柄な白髪の筋骨隆々の大男は心配そうにウィルを見た。

「おう!お前、動いて大丈夫なのか?」

このどこかの海賊の船長のような大男は、サウストン男爵家当主のブライト・グリーク・サウストンである。

ウィルの父親。

質実剛健で心優しく領民からも慕われている。

20年前の大戦で英雄的な武功を上げ爵位を授かり、ここマクグラン王国では白き大熊という異名で知られる豪傑である。

すると、ブライトの横にいた金髪の爽やかイケメンがウィルの肩に腕を回した。

「ウィル、病み上がりなんだからまだ無理は良くないぞ!」

この白い歯をきらりと光らせたイケメンはサウストン男爵家長男のトーマス・バークリー・サウストンである。

ウィルの兄であり、容姿端麗で文武両道に優れ上級騎士学校を主席で卒業後、史上最年少でマクグラン王国王宮騎士団筆頭騎士を務めた完璧超人。

現在は騎士団を辞めブライトの領地経営の手伝いをしながら、妻ララと息子ラスクの3人でサウストン屋敷の別邸で暮らしている。

ブライトとトーマスに心配されていると、金髪おさげの母親メリーにそっくりな美少年がウィルの服の裾を引っ張った。

「ウィル兄さん、無理しないでね。」

この可愛すぎる美少年は、サウストン男爵家三男のクラスティ・バークリー・サウストンである。

ウィルの弟。

12歳にして魔法と剣技は兄トーマスをも凌ぐ実力で、来年には上級魔法学校への入学が決まっている。

本人は剣よりも魔法を極めたいらしく、よく部屋にこもり魔法の研究をしている。

この1週間、常にウィルの事を気に掛けてくれる、ど田舎貴族とは思えないほどのハイスペックな人達である。


ウィル自身は転生の影響なのか、半年も眠っていた割にすこぶる健康体なのだが、まさかそんなことが言えるわけもなく、病人扱いしてもらっていた。

「みんな心配してくれてありがとう。

でもこのまま無職って訳にも行かないから、少しずつ身体動かさないとね。」

ブライトはウィルの頭をわしゃわしゃと撫でた。

「まぁ焦る事は無い。ゆっくり休め。」

「そうだな。フライヤー伯爵様の所もクビになった訳だから、いっそこのまま父上と私の手伝いをしてくれると助かるんだけどね。」

「トーマス兄さん、それいいね。ウィル兄さんがフライヤー伯爵様の所に行っちゃってから、みんな寂しがってたし、このまま家にいてくれたらうれしいな。」

そんな心優しい3人と話していると、屋敷の裏口からクラスティにそっくりな女性が顔を出し声をかけてきた。

「みんな、そろそろ夕飯にするわよー!」

この美人はサウストン男爵家当主夫人のメリー・バークリー・サウストンである。

ブライトの妻でありウィル達の母親。

金髪おさげの20歳半ばにしか見えない美人。

明るく活発的で誰からも慕われる女性。

名門バークリー伯爵家の長女であり、上級魔法学校を主席で卒業した才女。

マクグラン王国随一のフルート奏者として知られている。

ブライトはメリーに軽く手を挙げて応えると敷地内の水浴び場に向かい、トーマスは3人分の弓矢を持って武器庫に向かった。

クラスティは獲物をメリーに見せ褒めてもらうと、満足げにブライトの後を追った。

「ウィル、あまり無茶しちゃダメよ。今はゆっくりしなさいね。」

メリーはウィルの前まで来ると頭を軽く撫でた。

ウィルの顔が赤く染まる。

ウィルの記憶の中では何度もされている事だとしても、雄介がウィルになってからはまだ日も浅く、ついつい照れてしまうのであった。

「ん?顔が赤いみたいだけど大丈夫?」

「あっ!あははは。大丈夫!僕も水浴びしてくるね!」

ウィルは後ずさると、一目散に水浴びに向かうのであった。

そんなウィルを不思議そうに見送ると、メリーは武器庫から出て来たトーマスに手を振った。

「トーマス、夕食にするからララちゃんとラスクを呼んで来てもらえる?」

「わかりました。母上、今日のメニューはなんでしょうか?」

「今日はね。アリスちゃん特製のアイスバインと、シュニッツェルよー。」

「それは楽しみですね。」

そう言うとトーマスは、敷地内の別邸にララとラスクを呼びに行った。


マクグラン王国の食文化は、雄介が元いた世界のドイツの家庭料理の様なものであった。

ちなみにアイスバインとは、塩漬けにした豚スネ肉を野菜と一緒に煮込んだ料理で、シュニッツェルとは牛肉にパン粉を付けて揚げ焼きしたカツレツのような料理である。



ブライト・グリーク・サウストン

男性 45歳

サウストン男爵家当主。

ウィルの父親。

白髪角刈りで筋骨隆々の大男。

質実剛健で心優しく領民からも慕われている。

20年前の大戦で英雄的な武功を上げ爵位を授かり、ここマクグラン王国では白き大熊という異名で知られる豪傑である。


トーマス・バークリー・サウストン

男性 23歳

サウストン男爵家長男。

ウィルの兄。

金髪サラサラの真っ白な歯がキラリと光る爽やかイケメン。

容姿端麗で文武両道に優れ上級騎士学校を主席で卒業後、史上最年少でマクグラン王国王宮騎士団筆頭騎士を務めた完璧超人。

現在は騎士団を辞めブライトの領地経営の手伝いをしながら、妻ララと息子ラスクの3人でサウストン屋敷の別邸で暮らしている。


クラスティ・バークリー・サウストン

男性 12歳

サウストン男爵家三男。

ウィルの弟。

母親メリーにそっくりな金髪おさげの美少年。

12歳にして魔法と剣技は兄トーマスを凌ぐ実力。

来年からは上級魔法学校への入学が決まっている。

本人は剣より魔法を極めたいらしく、いつも部屋にこもり魔法の研究をしている。


メリー・バークリー・サウストン

女性 43歳

ブライトの妻でありウィル達の母親。

金髪おさげの20歳半ばにしか見えない美人。

明るく活発的で誰からも慕われる女性。

名門バークリー伯爵家の長女であり、上級魔法学校を主席で卒業した才女。

マクグラン王国を代表するフルート奏者。


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