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第2話 異世界転生は突然に

雄介の意識が次第に戻る。

「ん…んん。」

雄介が目を開くと、ぼやっとした視界が徐々にクリアになり、見覚えのない天井が見えた。

それから、ゆっくりと上半身を起き上がらせると、周囲を見回した。

雄介の寝ているベットの横には、サイドテーブルがあり、その上には小さな黄色い花が飾られた一輪挿しが置いてある。

少し開いた両開きのガラス窓からは、柔らかな日差しと共に爽やかな風がそよぎ、白いカーテンを揺らしていた。

窓から反対側にはドアがあるが、ベットとサイドテーブル以外の家具は何も無い生活感のない質素な部屋だった。

「ここは…?」

雄介がそう呟いた次の瞬間。

『ズキンッ!!!』

突然、雄介を激しい頭痛が襲った。

余りの激痛に雄介は叫び声をあげ、頭を両手で抱え込む。

「うわあぁぁぁ!!!」

それと同時に、ものすごい勢いで誰かの記憶や見知らぬ世界の知識が、どこからともなく雄介の頭の中へと流れ込んだ。

「こ、これは!?うぐっ!うわあぁぁぁ!」

途中、余りの激痛に意識を失いそうになりながらも、徐々に痛みは収まりそれと同時に記憶や知識の流入も止まっていた。

「はぁはぁはぁ……。今のは何だったんだ?」

雄介が困惑していると、部屋の外からバタバタと足音が聞こえ、間も無く勢い良くドアが開いた。

『バタンッ!』

そこにはメイド服を着た薄緑色の髪をした胸の大きな可愛い女の子が立っていた。

「ウィル様!あっ!?目を覚まされたのですね…。ウィル様!!!」

そう言うと女の子は泣きながら勢いよく、雄介に抱きついてきた。

「うわっ!?」

雄介は抱きついてくる女の子を受け止めようとするが、次の瞬間、久しく忘れていた柔らかな感触が雄介の顔面に襲いかかる。

「うぷっ!」

「わぁーん!ウィル様、良かったぁー!」

女の子がさらに強く雄介の頭を抱きしめると、雄介の顔面はさらにその暴力的なまでの柔らかさの中へとめり込んでいく。

このままいつまでもめり込み続けていたいと心の底から思いながらも、さすがに息ができなくなってきた雄介は、泣く泣く女の子の両肩を持つと優しく引き離した。

「苦しいよ!アリス!」

雄介は自然にその見知らぬ女の子の名前を呼んでいた。

「あっ!も、申し訳ありません!ウィル様!」

アリスは、顔を真っ赤にしてあたふたしている。

「あれ?なんで君の名前知って…ん!?ウィルって、俺?あっ!なるほど、そういう事か!!!」

雄介はこのアリスという女の子が心配しているウィルという人物こそが今の自分であり、先程流れ込んできた記憶はそのウィルのものであると不思議と一瞬で理解出来た。

「ウィル様?大丈夫ですか?」

アリスが雄介の顔を覗き込んだ。

「あっ!?大丈夫!大丈夫!あははは。…あ、あの、アリス…だよね?」

雄介はここで間違えてはいけないと恐る恐る確認するように尋ねた。

「ウィル様?もしかして、私のこと忘れちゃったんですかぁ!?」

アリスは今にも泣き出しそうな顔になるが、その反応に雄介は慌てて言葉を繕いながら、アリスの頭をぎこちない手つきで撫でた。

「こ、こんな可愛いウチのメイドを忘れる訳ないじゃないか!」

アリスはさらに顔が真っ赤になる。

「だけど、まだ起きたばかりで記憶が曖昧なんだ。悪いけど少し状況を説明してもらえるかな?」

その言葉に納得したのかアリスがコクリと頷くのを見て、雄介はホッと胸を撫で下ろした。

こうして、新しく得た記憶の確認と現状を把握する為、雄介はアリスと話を続けるのであった。


ウィル・バークリー・サウストン。年齢は17歳。

顔は至って普通の凡人顔。髪はこげ茶色。

マクグラン王国のど田舎貴族である、サウストン男爵家の次男として生まれる。

優しいハイスペックな家族と大自然に囲まれ、ごくごく普通の少年へと成長する。

13歳の時に地元の初級普通学校に入学し、平凡な学校生活を送る。

16歳で平凡な成績で学校を卒業すると同年、フライヤー伯爵家の警備兵として仕官するも魔物に襲われ、深い傷を負い意識を失う。

17年間彼女はおらず、当然童貞。


これが雄介の中に流れ込んできた、ウィルという人物の半生であり、童貞の部分は省いたがアリスの認識とも相違はなかった。

念の為、ウィルの記憶の中にある他の人の情報についても問題がないか確認する為、アリスの生い立ちについても聞いてみた。


アリス・ミラーズ。年齢は17歳。

10歳の時に孤児院からサウストン男爵家にメイドとして引き取られる。

薄緑色の髪の毛が特徴的な可愛い女の子。

料理は得意だが、それ以外の家事は苦手。

胸が大きく足元が見えにくいせいかよく転ぶ。


アリスは、胸が大きく足元が見えないと言う点についてはしっかりと否定したが、それ以外の部分については雄介の認識と相違がなかった。

雄介はウィルの記憶を確認する中で、もしかしてウィルってトレンディとは無縁の人生を送っていたのでは?と思いながらも、まずは状況把握が優先であると思い直し話を続けていた。

「それで僕が魔物に襲われた後ってどうなったのかな?

ここって実家だよね?」

雄介はウィルの記憶のおかげで、ここが実家の部屋であると認識していた。

「はい。旦那様がウィル様を連れ戻られました。」

旦那様とはウィルの父ブライトのことである。

「なるほど。それでどのくらい眠っていたのかな?」

「半年ほど眠っておられました。

身体の傷は治癒魔法ですぐに治ったのですが、意識だけが戻らなくて旦那様たちも色々と手を尽くしていたのですが…。」

「なるほど、それでそこに俺があてがわれたのか。だとするとウィルの意識は…?」

雄介は考えていたことを自分でも気づかないうちにぶつぶつと声に出していた。

それを見たアリスは、心配そうに雄介の顔を覗き込んだ。

「ウィル様?どうかされましたか?」

「あっ!いや、何でもない、何でもない。あはは。」

ウィルの意識がどうなったかは気になるが、神様もヘタな事はしないだろうと思い、雄介は深く考えるのをやめた。

「もしかしてアリスはずっと僕の世話をしてくれてたの?」

「はい。私にはそれぐらいしかできないですから。」

雄介は、ふとサイドテーブルの上にある一輪挿しに飾られている小さな黄色い花が目に入った。

それはウィルとアリスが小さい頃2人でよく摘みに行った花であり、アリスの1番好きな花だった。

「あの花、カッシアだよね。アリスが飾ってくれたの?」

アリスは恥ずかしそうにコクリと頷く。

「はい。覚えていてくれたんですね。嬉しい…。」

雄介はウィルの記憶の中にカッシアの花言葉が『乙女の祈り』である事を見つけ複雑な気持ちになるが、それと同時にこれ以上アリスを悲しませてはいけないと思った。

「アリス、ありがとう。」

「本当に…。本当に意識が戻って良かったです!」

そう言うとアリスは涙がこぼれそうになるのをこらえながら、天使のような微笑みを雄介に向けた。

雄介はその微笑みに目を奪われながらも、ウィルとして生きていく事を決意するのであった。

たとえそれが、トレンディとは無縁のウィルと言う人物から引き継いだ人生であっても…。



ウィル・バークリー・サウストン

男性 17歳

顔は至って普通の凡人顔。髪はこげ茶色。

マクグラン王国のど田舎貴族であるサウストン男爵家の次男として生まれる。

優しいハイスペックな家族と大自然に囲まれ、ごくごく普通の少年へと成長する。

13歳の時に地元の初級普通学校に入学し平凡な学校生活を送る。

16歳で平凡な成績で学校を卒業すると同年、フライヤー伯爵家の警備兵として仕官するも魔物に襲われ、深い傷を負い意識を失う。

17年間彼女はおらず、当然童貞。


アリス・ミラーズ

女性 17歳

サウストン男爵家のメイド。

10歳の時に孤児院からサウストン男爵家にメイドとして引き取られる。

薄緑色の髪の毛が特徴的な可愛い女の子。

料理は得意だが、それ以外の家事は苦手。

胸が大きく足元が見えにくいせいかよく転ぶ。


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