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交流70

 修学旅行後の2日間の振り替え休日を終え、その日の朝は青空が広がっていた。愛美は起き掛けに窓を開けて空を見上げ、やっぱ北海道の空の方が澄んでいるよなと、そんなことを思い耽りながら、今日はなんと言って真崎先生にお土産を渡そうかと、昨夜も何度も繰り返し言おうと思う言葉を思い返していたように、またそれを繰り返した。


「先生、あれ……ありがとうございました。とっても美味しかったです!それで、あの……これ、ほんのお礼の気持ちなんですけど……」


 そんな言葉を思い浮かべながら、真崎先生へ渡す土産と同じ形の雪の結晶のペンダントを、また首にかけてみた。もちろん、真崎先生へペンダントを渡すわけではない。真崎先生には、同じ雪の結晶を模したストラップを買ったのだ。土産物屋で、何か同じものをとあちこち探したがいいものが見つからず、班行動で行った時計台で見つけたそれを買ったのだ。ペンダントとストラップ、物は違えど同じ雪の結晶だ。真崎先生とお揃いのものが持てると、愛美はそれだけで気持ちが昂るのだった。何としてもこれを受け取ってもらわねば。そんなわけで考えた言葉は、美味しいラーメン屋を教えてもらったお礼だと言うもので、それならば受け取ってもらえるのではないかという算段だ。


 今日は朝からいつ渡そうかと幾度となく用もないのに職員室周辺に行ったが、真崎先生の姿を確認することが出来ず、なかなか会うタイミングってないんだなと、結局放課後まで一度も真崎先生を見つけることが出来ずにいた。まあ、会えたところで渡せるタイミングがあったかどうかはわからないので、放課後の方が渡しやすいかもしれないとは思っていた。ただ、職員室に入る口実が必要なのだ。


 そこで愛美は、担任の増本の協力を仰ぐことにした。もちろん、その本当の意図は隠して、お礼に渡したいのだということにした。増本はラーメン屋を教えてもらった時にその場にいたので、適任だった。


 その増本に用事がある顔をして職員室へ行くと、そこには真崎先生の姿がなく、増本の「渡しておこうか?」の問いかけに、「お礼を言いたいので直接渡したいのですが」と、そんなやり取りをしていると、真崎先生が職員室に入ってきた。


「真崎先生、ちょっといいですか?」


増本のその問いかけに「はい」頷いた真崎先生の視線が自分を捉えたことに愛美は気づき、軽くお辞儀を返した。


 増本が給湯室を指差したことで、真崎先生もそちらに向かい、「ほら」との増本の声掛けに、「え、私だけ?」「嫌か?」「お願いします」胸の辺りで小さく手を合わせ懇願し、増本と連れ立って給湯室に入った。そりゃそうでしょう、そこで2人だけって緊張するでしょ。そう愛美は心の中でどつきながら。


「真崎先生すみません。なんかお礼が言いたいようです」


「あっ、もしかして行きました?」


「はい、行きました。先生が言っていたように、めちゃめちゃ美味しかったです。班の子たちにも評判よくて、いいところを調べてくれたって喜んでもらえました。いい思い出になりました。ありがとうございました。それで、あの……これ、ほんのお礼なんですけど」


一気にそう言って、小さな小袋を差し出すと、


「え?お土産ですか?そんなの気にしないでくれてよかったのに……いいんですか?」

 

そう言って真崎先生は増本のほうを見やると、増本が「まあ、気持ちだと思って」と後押ししてくれた。ありがとう増本と心で喝采を上げながら、真崎先生にそれを渡した。少しだけ、手が震えた。


「失礼しますと」声をかけ、給湯室を出て職員室を出ると、殊の外緊張していたことに気付いた。吸い込んだままで息苦しいほどだった息を、ふぅ~っと深く吐くと、手の平が汗ばんでいることに気付いた。真崎先生に気付かれなかっただろうかと不安になったが、それよりもお揃いのものを持てたことで、愛美の気持ちは高ぶっていた。


 真崎先生、ストラップどこかに付けてくれるといいな。


 その気持ちはその夜に愛美の気持ちを代弁するように愛が直人に伝えた。


 翌朝、いつもより少しだけ早い時間に登校すると、用もないのに真っ先に真崎先生の車が見える体育館脇に向かった。それは電車や徒歩通学の子たちが入ってくる正門方向にあるため、愛美が登校姿でその辺りにいても、なんの違和感もない。


 あった。


 それはちゃんと、真崎先生の車の中に見つけることが出来た。前の晩、直人が言っていた通り、助手席側のフロントガラスの上につけてある交通安全のお守りと一緒にそこにぶら下がり、陽を受けてキラキラとしていた。


 梅雨に入る前の、汗ばむ暑さの車の中で、雪の結晶はまるでそこの暑さなどで解けるものかと言っているように、キラキラと光って綺麗だった。

 


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