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交流69

 愛美は修学旅行から帰った翌日の夜、いくつも入っていた直人からのゲストページの一番新しいものに返事を入れた。それらの書き込みには、前日全て目を通し、愛がここにこない1週間の夜を、直人がどんな風に過ごしていたのかが毎日書かれていた。それは愛がいないことで、愛を待つ直人の愛への想いが溢れそうで、愛美は心を熱くしていた。が、それらの書き込みの間には、それと同じくらいの数、タクシーからの書き込みも入っていた。


 『直人さん……ただいま帰りました。今ね、ここを開いてすっごく胸を熱くしているんですよ。直人さんがどんなに待ってくれたのか伝わってきて、本当に……涙が出るくらい嬉しい。私もね、直人さんに会えない1週間は、何度も直人さんの言葉を思い出していたし、会いたいなって、毎日思っていました。仕事の方はバッチリですよ。直人さんに会えない寂しさをバネに、めいっぱい頑張っちゃいました(笑)』


 『愛さん、おかえりなさい。今日はね、愛さんが帰ってくるってわかってたから、さっさと職場から帰ってきました。愛さんがいつ帰ってもいいように、今日の夕飯は部屋で食べています。今夜はコンビニでパスタを買ってきました。あ、ちゃんとサラダも食べていますよ(笑)愛さん、愛さん……愛さん。愛さんがここにいて、なんかホッとしました。帰ってくるってわかっていても、やはり会えない時間が不安を呼び起こしてしまうようで、もう二度と会えないんじゃないかとまで思うほどでした。こうしてちゃんと会えるのに、おかしいね(笑)』


 『直人さん。ちゃんとサラダも食べてて、偉い偉い(笑)……直人さん。私はちゃんと帰ってきますよ。私も直人さんに会いたかった。毎晩、直人さん今頃何をしているかなって考えていたし、……あのね、直人さんの夢も見ちゃったんだ。直人さんの顔は、ハッキリとはわからないんだけど、でもNAOさんの顔は知っているし、だからかな……夢に出てきたのはNAOさん(笑)NAOさんが目の前でキリンを作って手渡してくれたんだよ、めっちゃ笑顔でね(笑)』


 一つだけ嘘をついた。


 夢に出てきたのはNAOではなく真崎先生だった。真崎先生がどういうわけか白いイチゴをたくさん持って、愛さんに食べさせてあげたいんだと会いに来たのだ。夢の中で私はイチゴを食べながら真崎先生が作るキリンのバルーンアートを見ていた。愛さんが模様を描いてよと満面の笑みで手渡され、ああ、真崎先生は私が愛だって、もう知ってるんだな。そんなこと夢の中で思っていた。


 『そっかぁ、愛さんの夢の中にNAOが登場したんだな。愛さんに会いた過ぎてNAOが愛さんに会いに行ったに違いない(笑)夢か……あのね、自分も愛さんの夢を見たことがあるよ。もちろん、顔はわからないんだけど、そこに愛さんがいて、そうは言わないけどそれが愛さんだとちゃんとわかっていて、なぜか一緒にショートケーキを食べているんだ。スイーツ好きな愛さんが、このケーキのイチゴが一番好きって言うから、じゃあ僕のもあげるよって(笑)翌日、バカみたいな話だけど本当にショートケーキ買ってきちゃった。自分用にチーズ系じゃないケーキを買ったのは何年ぶりだろう(笑)』


「えっ?嘘でしょ……」


直人のコメントを読んで、イチゴの言葉を目にして絶句した。愛美は自分が見た本当の夢の内容など話していないのに、直人も似たようなシチュエーションの夢を見たとは驚きだ。スイーツの話は確かに多いが、イチゴのショートケーキの話などしたことはなかった。それなのにそれに乗っているイチゴが夢に絡んで出てくるなんて……


 愛美は奇跡のようなその出来事に、ますます直人との不思議な心の繋がりを感じ、やっぱりこの人は自分にとって何か特別なのではないかという思いを強くした。


 『直人さん。あのね、直人さんのコメントの後にこんなこと書くと信じられないと思うかもしれないけれど、私ね、夢でNAOさんのバルーンアートを見ながらイチゴを食べていたんだよ。しかも、そのイチゴはNAOさんがくれたものなの。もちろん夢の中の話……だけど、今、直人さんのコメントでイチゴの話が出て、驚きすぎて心臓が跳ね上がっちゃった(笑)不思議だね』


 『不思議か……不思議じゃないかもしれないよ。お互いを求める気持ちが強くて、見えない場所で心がリンクし合ったのかもしれない。ショートケーキを食べながら、愛さんにも食べさせてあげたいなって思ったから、その気持ちが愛さんのいるところへ飛んでいってしまったのかも。それにしても、今、愛さんが自分があげたイチゴを食べた話を聞いて、もちろん夢の中の話だけど、夢でも繋がっていたように思えて、嬉しくて顔のニヤケが止まらないよ(笑)……いつか、本当にイチゴを食べさせてあげたいよ(笑)あっ、そうだ……イチゴといえば、白いイチゴがあるって知ってる?』


 知ってる。だって夢に出てきたのは白いイチゴだったのだから。そして今、白いイチゴを夢で食べたなんて話していないのに、直人の言葉に白いイチゴが出てきて、愛美の心臓はまた跳ね上がった。こんなことって、あるのかな……偶然かもしれない?でも、心がリンクし合っているという直人の言葉が本当にそうなんじゃないかと思え、愛美は、やはり直人は自分の特別だ。直人は運命の人かもしれない。人は生まれ出た瞬間、その手に握っていた運命の欠片を手離すという。その欠片をひたすらに探し求めるのだと、何かで読んだことがある。その運命の欠片が、自分の魂の欠片がそこにある。愛美はそんな気がした。


 その後も、直人と数回想いを伝え合うコメントを交わしたあと、いつもの休日の前の日のように日付を一緒に跨いでから「おやすみ」を伝え合った。


 その日、AIがブログにいない間に何度もゲストページを入れてくれたタクシーへのお返しのコメントは入れなかった。心の中は直人でいっぱいだったし、他の人へコメントを残すと、その想いが一つ減るような気がしたからだ。今夜は、たくさんの直人の想いで満たされた心を抱えて、眠りたかった。


 

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