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交流64

 直人……知ってたよ。


 愛美は直人が自分の名を明かすコメントを何度も読み返した。その前に入れてくれたコメントも、何度も読み返していた。削除してしまったコメントをMASATOに読まれてしまったことで、MASATOの心にいるAIの存在がMASATOの中でとても大きなものになっていると知り、そのうえでMASATOは無理にどうこうしようとはしない、その誠実さを感じたことで、愛美はMASATOへの想いが、今までよりも更にその感情が心の深いところから湧き上がってくる、そんな不思議な感覚が身体の中を突き抜けてゆき、身体の中がポッポッと、熱くなっていた。


 そして、MASATOは自分の名を明かしてくれた。


 では、自分はどうしよう……愛美だと言うわけにはいかない。愛美だと教えたところで、生徒である寺井愛美とそれが同じ人物だと思うかどうかはわからないが、それでもやはり、愛美だというわけにはいかない。万が一にでもどこかで気付かれたら……MASATOの想いを失うことになる。それだけは絶対に嫌だ。


 『MASATOさん……直人さん。直人さん、直人さん、直人さん……直人さん。不思議だね、直人さんって呼び続けていると、もっと心の中から直人さんへの想いが湧き上がってくるみたい。名前、教えてくれてありがとう。私は……AIあい。五十音の一番最初の2文字のあい。I My Me……私という意味の、あい。人を愛するという意味のあい。それから直人さんが最初に間違えた、AIえーあいという意味の、あい。AIって、いろんな捉え方があるよね、だからね、ハンドルネームをAIにしたの。これならば、万が一にも、もし私を知っている人が訪問してくれても、本当の私に辿り着くことなんてできないだろうって思ったから。だからね、私は本当の名前をハンドルネームに使ったんだよ。……そう、私の名前は、あい。だから直人さんは、ずっと私の名前をちゃんと呼んでいてくれてたんだよ』


 また、嘘をついてしまった。だって、仕方ないじゃない……MASATOを失いたくないのだから。


 『AIさん。……愛さん、なんですね。ずっと、ちゃんとその名を呼んでいたなんて、なんだろう……すごく嬉しい。愛さん、愛さん、愛さん、あなたはその名の通り、深い愛情を持つ人なんだなって思います。その……愛さんの深い愛情が、いつか自分に向いてくれたらいいな……』


 どうしよう。身体を突き抜ける感覚が止まない。止まないどころかどんどんと熱くなってゆく。


 『私の心の中には、今、直人さんしかいません。……あのね、言って欲しい言葉があるの』


 『言って欲しい言葉?なんだろう……愛さん、大好きだよ』


 身体の中から熱い何かが零れ落ちた。もう、止まらない。


 愛美は直人の言葉を何度も目で追い、その姿を真崎先生に重ね、視線が絡んだその瞬間を思い浮かべ、満ち足りた心の中でしばらく目を瞑り、……そしてカッと目を見開いた。


 違う。愛じゃない。私はAIじゃない。愛じゃない。


 直人の想いが向く愛の自分が、直人が想う愛じゃないことを知っている愛美は、その想いの行方に戸惑い、そして、自分を愛にしてしまった愛美を、少しだけ恨んだ。


 『直人さん……大好きだよ』


 その言葉を書き、決して直人の想いを向けられることのない愛美は、愛に嫉妬した。



 

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