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交流63 MASATO

 AIのその書き込みを目にし、強く動揺した。AIのその気持ちが勢いよく直人に流れ込み、何かが身体を突き抜けた。


 ……愛おしい。


 『AIさん、今ね、とてもあなたが愛おしいって、思ったよ。もっと一緒にいたいね。ずっと一緒にいたいよ。他の女の人のことなんか考えもしないよ。今、自分の心の中にいるのはAIさんで、Sさんに撮ってもらったNAOだって、カメラの向こうにAIさんがいるって、そう思いながらSさんが向けるカメラに笑顔を向けてたんだ。不思議だね。あなたの顔も、声も、その仕草も、何一つ知らないのだけれど、言葉だけのAIさんだけど、それだけだって、こんなにも愛おしいと思えるんだ。今、あなたの触れたいって、思ったんだ。いやらしい意味じゃないよ、ただ、触れたいんだ。そのくらい、傍に行きたいのさ』


 AIのその感情を受け止める心の準備はできていた。いや、むしろ自分の方がそんな想いは強いと思っていたくらいだ。AIもきっと、そう思いながらも今一つその自信が持てないでいた直人は、このAIの書き込みでその気持ちを確信に変えていた。


 が、どうしたことか。


 コメントを投稿した途端、先のAIのコメントが消え、違うコメントにすり替わっていた。


 そのすり替わったコメントを目にし、一瞬天井を仰いだ。自分の返したコメントも、それに合わせて変えたほうがいいのか?いや、それは止めよう。こんなふうに書く言葉であっても、一度自分から出た言葉には責任を持ちたい。これが面と向かって声に出して言った言葉だとしたら、取り消すことなどできないのだから。AIの返事を待とう。


 直人は一ずつ口に運んでいた柿の種をひとつかみすると、それを口の中に放り込んで、かみ砕きながら胸の鼓動を少しずつ鎮めた。


 『……MASATOさん、ごめんなさい。コメントを書き直してしまいました。最初のコメント、読まれてしまったんですね。書き直すようなことをして、ごめんなさい。あんなふうにね、感情を出したらいけないって思ったんです。MASATOさんを困らせると思って……あんなふうに言ったらMASATOさんが困るだろうし、……でも、MASATOさんのコメントを読んで、今、とても幸せな気持ちに包まれています。私も、MASATOさんの傍にいたい。触れられるくらいMASATOさんの近くに行きたいです。こんなこと言ったらいけないって、ずっと思ってた……でも、今だけ、ここでだけ……MASATOさんのことが、大好きです。でも、私を知らないMASATOさん、MASATOさんを……言葉でしか知らないMASATOさんを知らない私は、まだ……怖いです。MASATOさんが怖いんじゃなくて、まだ、……』


 そうだよな、そりゃそうだよ。自分の立場だったら、こんなところで知り合って、名前も顔も、どこの誰なのかもわからない人に実際会うなんて、絶対にダメだって、生徒に対しては止める立場じゃないか。それを自分が破るようなことなんて、本当はしちゃいけない。AIさんだって、自分をよく知らないのだから、会うべきではないとAIさんを実際に知っている人ならそう言うに決まっている。……でも、自分はAIさんに惹かれている。言葉だけでも伝わる気持ちや心があって、それがAIさんからは伝わってくるんだ。信頼できる人……それは、間違いない。だからこその、このAIの反応でもあるんだ。


 『AIさん。今ね、自分も幸せな感情に包まれているよ。AIさんの気持ちが自分と同じだってちゃんとわかって、今、すごく嬉しいんだ。急がないよ。急がなくていい。ゆっくり知っていこうよ。もっともっと、AIさんのことを教えてよ。自分も、もっとたくさん自分のことAIさんに話すよ。でもね、AIさん。AIさんはMASATOのことを随分と知っているんじゃない?藤崎市で女子高に勤めていて、NAOの名でクリニクラウンの活動をしているMASATOだよ。これだけ知っていれば、どうにかMASATO本人にも辿り着けるさ(笑)自分で言うのもなんだけど、自分のこと、信頼して大丈夫だよ(笑)』


 『MASATOさん、ありがとう。MASATOさんのことはもう信頼していますよ(笑)私が私に自信がないのです。今日みたいに、感情を丸出しにしてもいいですか?気軽に会うというところまで、まだ全然行けないかもしれませんけど、なんだか感情が胸にいっぱいあり過ぎて、もう抱えきれないかもしれません。MASATOさんを知れば知るほど、MASATOさんに惹かれていきます。MASATOさんが好き。NAOさんも好き。……MASATOさん、大好きだよ』


 ダメだ。もう感情が抑えられないのは自分のほうだよ。抑えても抑えても、胸に込み上げてくる感情があって、心が勝手に動き出すんだ。……AIさん、あなたが欲しいんだ。


 『AIさん。…… …… ……直人だよ。MASATOじゃない、NAOじゃない、直人だよ。いや、MASATOでもあり、NAOでもある……自分の名は、直人』


 本当の自分を知って欲しい。本当の自分に、その想いを向けて欲しい。直人はその気持ちから、自分の名を明かした。


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