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交流62

 新採のSさん?可愛い感じの子?


 その言葉を見て、愛美は机に置いてあるクリアファイルから職員紹介の一覧の用紙を取り出した。そこには全教員の担当も書かれており、新採にはその旨の記載もある。


 SさんSさん……新採の名を追いながら、Sの頭文字の人を探した。真崎先生と同じ1年担当の中に坂本美和という一人、そして愛美の学年でもある3年担当の西谷悟という一人がいたが、西谷は愛美の学科とは関係のない商業科の教員で、しかも男だ。


 Sさんで可愛い子だから、この坂本美和……先生か。


 真崎先生が、この坂本美和を誘い、写真も頼み、可愛いと称して飲み会にも誘う。それだけで、愛美の心の中はざわつきをはじめた。職場の人に写真を頼むことは知っていた。だが、それが女性だとは思っていなかった。考えてみたら女性でも不思議ではないのだが、なんだか面白くない。坂本美和。家政科の食物担当だ。そして部活は茶道部副顧問。


 どんな顔なのか、頭の中で学校の中を探したが、そのどこにも坂本美和はいない。学年が違うと、教員の顔などほとんど覚えることなどない。そもそもほとんど関わりもないのだから、面識すらない教員も多い。休みが明けたら職員室に探りを入れてみよう。1年担当ならば、こんなふうに声をかけるのだから、真崎先生の近くに席があるのかもしれない。


 なんだか面白くないなと思いつつも、愛美は今日の職員室での真崎先生との一コマを思い出し、その自分に向けられた視線を思い出し、心を鎮めた。


 『Sさん、いい写真を撮ってくれてよかったですね。NAOさんのそんな素敵な笑顔を見たら、自分も活動してみたいって気持ちになったかもしれませんね。仲間になってくれるといいですね。……Sさん、そんなに可愛い人なんですか?ジャス君が夢中になっちゃうような?MASATOさんも、可愛いって思うくらい、いい印象の人だってことですよね?ふ~ん、可愛い人が仲間になってくれて、よかったですね』


 『あ……いや、一般的に言って可愛いっていうだけですよ。あの……もしかしたら、妬いてくれてます?(笑)』


 ムムム……そうくるか。


 『ふーんだ。別に妬いてなんかいないですよーだ。私は今日、美味しいプリンを作って、生クリームた~っぷりと、フルーツ乗せて美味しく食べたんだよ。写真、見せてあげようかと思ったけど、どうしようっかな。可愛いSさんに鼻の下を伸ばしてるNAOさんになんか、見せてあげないよーだ』


 『あっ、見せて見せて。自分も帰りにコンビニでプリン買ったんだよ。AIさんと同じ日にプリンが食べたくて。生クリームも乗ってたよ。AIさん、絶対生クリーム乗せると思ったからさ(笑)……ねぇ、AIさん。……妬いてくれた?』


 ずるいな、MASATO。そんなふうに返されたら怒れないし、嫉妬してるってことだって、書きたくなっちゃう。


 『ふーんだ。……妬いた……かもしれない。だって、MASATOさんが他の女の人のこと、可愛いとか言うんだもん。私が知らない、MASATOさんだけが知ってるSさん。私が知らないMASATOさんの時間に一緒に過ごせているSさん。私が知らないMASATOさんの仕事中の……MASATOさんのこと、私、知らないこといっぱいだって、なんだか今、本当の意味で気付いた気がする。MASATOさんのこと、もっと知りたい。MASATOさんに、もっと私を知って欲しい。もっと一緒にいたい。もっともっともっと、MASATOさんといたい。他の女の人のことなんか、考えちゃ嫌だ』


 何かが身体の中を突き抜けた。

 

 こんなこと書いたらいけない。こんなふうに感情をぶつけてはいけない。こんなふうに想いを伝えてはいけない。MASATOも同じようにAIを求めてくれていることがわかる今、こんなふうに書いたら近づきすぎて、その、MASATOの言葉から、はっきりと「会いませんか」などと言われたら困るではないか。


 そう思った時には、既にコメントは投稿されており、慌てて書き直そうと思い削除した。MASATOに見られていないか、それだけが不安だった。


 『妬いてなんかいませんよーだ(笑)って、でもやっぱりちょっと妬けるかな。私の知らないMASATOさんんを、NAOさんを知っているSさんが、ちょっとだけ羨ましくなったんです。でもそのSさんのお陰で、キリンを作っているNAOさんが見られたので、Sさんに感謝です。私からもお礼を言っていたと伝えておいてくださいね(笑)今日のプリンの写真、MASATOさんのゲストページに届けておきますね。まあ、また近々記事にもしますけどね』


 先程の削除したコメントをMASATOが目にしませんようにと祈りながら、書き直したコメントを投稿した。



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