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交流60

 AIのことを考えている。気持ちが向いている。いい思い出にして欲しくない。ずっとこうしていたい……それら全ての言葉にドキリとし、きゅんとした。そしてTさんのことは、確かに可愛い子だと……その言葉も読み、愛美の身体は自分でも驚くほどに熱くなったことを感じていた。可愛いと思ってもらえたことが嬉しい。だって、その言葉はいい感情に結びついているではないか。先生だって人間だもん、苦手な子や何の感情も湧かない子もいるだろう。だから、可愛い子と意識されたことがすでにいい感情を持ってもらえているということだ。


 『可愛い子や綺麗な子がたくさんいて、Tさんも可愛い子って、Tさんは綺麗ではないってことですか?(笑)なんて、ちょっと意地悪なこと聞いてますか?(笑)……だって、今、私、すごくドキドキしているんですよ。MASATOさんが……ずっと一緒にいたいなんて言ってくれたから嬉しくて……私の気持ちも、今、MASATOさんに向いていますよ。毎日こんなふうにおしゃべりする相手なんて、MASATOさんの他には誰もいませんもん』


 こんな返しでいいだろうか?嬉しくて感情を出してしまうことは簡単だけれど、……自分が現実には真崎先生とAIとして会えるわけではないのだから、どこかで感情をセーブしないといけない。そんなことわかっていた。わかっているけど……MASATOの気持ちを自分に向けたい、繋ぎとめておきたい。もうそのことで頭はいっぱいだった。


 『AIさん。同じ気持ちでいてくれて嬉しいです。自分も、こんなにたくさん話ができる相手って、今、AIさんしかいないし、AIさんとしかしたくないと思っているんです。Tさんですか?そうですね、可愛いと言ったのは、綺麗との境界線が自分ではよくわからないからです。なんかね、綺麗って言うと、ちょっと冷たい感じがしませんか?こう、なんていうか、ツンとしたイメージというか(笑)まあ、これは自分の主観の問題ですかね(笑)Tさんは、ツンとしていなくて柔らかい感じとでもいいますか(笑)』


 そうか、真崎先生にとっても綺麗は冷たい印象なんだ。でもTさん……愛美は可愛いという、柔らかい感じなんだ。そうわかると、綺麗と思われなくてよかった。やはり真崎先生にとって、愛美はいい印象なんだ。


 熱くなっていた身体中の感覚が和らぎながらも温かく、毎日毎晩こんな想いに包まれる幸福感で、不思議と自分自身が優しくなれていることも感じていた。


 人って、好意を寄せられるだけで優しくなれる、いい人になろうとできるのかもしれない。


 『柔らかい感じのTさんから学校で癒してもらえるといいですね(笑)MASATOさん……今ね、病院のホームページを開いて、NAOさんの姿を目に映しています。画面の向こうにはNAOさん、……MASATOさんがいて、それがなんだか嬉しいんです。実際には会ってなくても、顔を見ることが出来なくても、MASATOさんがそこにいて私に語り掛けてくれる。こんなにも幸せな気持ちをくれるMASATOさん……いつもありがとう』


 いつもありがとうと書いた。本当は、……大好きって書きたいのに。


 『自分のほうこそ、いつもありがとう。AIさんの顔が見えなくても、ちゃんとAIさんがここにいて話を聞いてくれる。自分にとっても、こんな幸せな気持ちはとても貴重なものです。顔を見ることが出来ないというAIさんのその言葉に、ちょっとだけ報いようかと思っているんですよ。明日ね、職場の人が一人クリニクラウンの活動を参観してくれるんです。なので、病院の広報さんが撮る写真じゃなく、個人的に何枚か写真を撮ってもらうことになっています。それはね……AIさんに、見せたくて頼んだものなんだ。明日の夜にはここに載せることが出来ると思うよ。お楽しみに(笑)今夜も遅くまで付き合わせちゃったね。今夜も……一緒に時を超えることが出来た。ありがとう。明日の夜、また来ますね。おやすみなさい』


 時計を見ると、すでに0時半を過ぎていた。休日前になると、こんなふうに一緒に時を超えるというのがお約束となっていて、そんな時間が近づくほどMASATOの感情がAIに向き、AIの感情もMASATOへと向き、夜の高揚感に繋がっていた。互いの感情が自分に向いている。それが本当かどうかはわからないが、自分がそう感じているという今の気持ちが愛美には大事だった。


 MASATOが好き。もう、その気持ちを抑えることなどできない。


 『明日、その写真を見られることを楽しみにしています。画面でしか見られないNAOさん、NAOさんのいろんな顔を見たいです。……それが、MASATOさんだから。MASATOさん。MASATOさん。MASATOさん……夢でいいからあなたに会いたいです。おやすみなさい……』


 『待って……AIさん、待って……まだ、いる?そこにいる?AIさん。AIさん。……AIさん、あなたの夢が今夜も見られますうようにと、自分も毎晩思っています。姿形がハッキリしていないけれど、夢であなたを感じる日があるんです。ぼんやりとしたその姿に向かい、「AIさん」と声をかけている自分を感じています。AIさん……夢でいいから会いたいです。おやすみなさい』


 MASATO……会いたい。AIとして会いたい。MASATOが心を寄せてくれるAIで会いたい。


 でも、真崎先生の前では私は寺井愛美……そのことが、今、悲し過ぎる。


 いつの間にが目に溜まっていた涙が、ぽろぽろと流れ落ちた。



 

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