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交流26

 美容院には10分前には着いた。


 「まだ早くない?」と言う美菜をせっついて家を出てきてよかった。着いてすぐに「どっちが先?」と声を掛けられた。ついさっき、もう少し短くしようと思ったにもかかわらず、いざ美容院に着くと決心は揺らいだ。だから美菜に「先にやってもらいな」と言い、3人ほど座れるソファに腰をおろし、持ってきた本を取り出した。


 それを読み始めようとし手が止まった。すぐそこの本棚に、『春は軽やかに』と表紙に描かれた髪型のカタログが目に入った。愛美はそれを手にとり、自分が思い描く髪型と同じものがないか探した。それがあれば説明しやすい。


 自分の順番となり、カタログで見つけた髪型を指さし、「こんな感じでお願いします」とは言ったものの、鏡の前に座っても、心は揺らいだ。ストレートのサラサラヘアに憧れていた。自分のような天パの髪では、パーマをかけなければそうはならないし、おまけに髪質が柔らかい愛美では、憧れと思い描く髪にはならないことは十分承知の上でもあった。


「お姉ちゃん、そんなに切っちゃっていいの?」


ひと目で短くすることがわかる位置にハサミが入り、美菜が目を丸くした。


「うん、ちょっとね、気分転換」


「マナちゃん、この髪型似合うと思うよ。髪も柔らかいし、綺麗にウエーブが出るからかえって扱いやすくなると思うわ」


「やっぱそうですよね。ちょっと長すぎて学校では結んでるからいいけど、そうじゃない時は重そうに見えるかもって思ってたんです」


「マナちゃんの髪は柔らかいから重そうってこともないかもしれないけど、梅雨の時期とか広がっちゃうでしょ?手入れも面倒だからね」


 そんな話をしながら、気付けば足元に髪が山になっていた。


「こうやってワックス薄く塗るだけで髪がまとまるし、綺麗にウエーブが出るからね。はい、出来上がり」


 出来上がった髪を見て、やっぱ切らないほうがよかったかな、あそこまで伸ばすの大変なんだよな、などという気持ちは途端に消え失せた。鏡に映る自分の姿は、先程までと違い大人っぽく見えた。


「お姉ちゃん、かわい~」


「そお?似合う?」


「うん、似合う似合う。私も今度はそうする!」


「いや、あんたは髪がストレートなんだからこうはならないよ」


美菜の髪は愛美と違い、ストレートで硬い髪質だ。同じ親から生まれた姉妹でも、なぜこんなに違うんだろうと、ストレートな髪質を持つ美菜を羨ましく思っていた。けれど、鏡に映った自分の姿は、自分の想像を超えるくらい自分に似合っているように見えた。


 帰り道、コンビニ寄り、サンドイッチとクリームパスタを半分ずつにすることにし、美菜は自分用にシュークリームを、愛美は気持ちはティラミスに向いたが、その横にあったニューヨークチーズケーキを目にして、しばらく悩んで、そのチーズケーキを買うことにした。


 12時前には家に着き、2人で分け合いながらの昼食を済ませると、愛美は急いで部屋に向かった。


 愛美は急いでパソコンを立ち上げると、朝、MASATOが書き込んでくれたゲストページを開き、ずっと考えていたコメントを書き込んだ。


 『MASATOさん、こんにちは。今、お昼休みです。今朝は書き込みをしてくださって、ありがとうございました。急いでいたのでこの書き込みに気付かなくてごめんなさい。私のほうこそ、昨夜はたくさんお話しできて嬉しかったです。MASATOさんのことたくさん知ることができてよかったです。また遊びに来てくださいね。記事も楽しみにしています』


 当たり障りのなさそうなコメントを残した。

 朝からパソコンを開けMASATOのブログを訪問していたことにも、あえて触れず、『急いでいたので』という言葉を入れることで、これから学校生活が始まったとき、朝に交流するのは無理だということをMASATOに植え付けたつもりだった。


 が、そこまでしてからとんでもないことに気付いた。それは、今、この時間のことだ。考えてみたら昼休みにブログに書き込みをするなどということは、学校にいる時間には決してできないことなのだ。そんなことはわかっていたはずなのだが、今朝の書き込みを見つけ、できるだけ早く、きっとMASATOは昼休みに覗くだろうから、その時にはコメントが書かれている状態でいないとと、そのことばかりに気を取られてしまっていた。


 まだMASATOが見ていませんようにと、祈るような気持ちで投稿したコメントを削除した。


 

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