交流6
『こんばんは。ディズニー記事、読ませてもらいました。妹さんと行ったんですね。泊りがけで出掛けるなんて、仲がいいんですね。自分は男兄弟なので、2人で旅行なんてなかったな。あ、でも兄がアメリカ赴任しているので、そこに遊びに行ったことがあります。話しを戻しますが、実は自分も早いもの系は苦手なんですよ。AIさんと同じで、以前は平気だったのに、大人になってダメになりました。今回のように仲間と行くときは無理して乗りますけどね(笑)パレードもいい場所で見られたようですね。自分たち、その時間はそれこそ早いもの系に乗っていた頃かと思います(笑)それにしても、同じ日に同じ場所にいたなんて、すごい偶然だし、どこかですれちがっていたかもしれませんね』
朝書いたディズニー記事を20時に更新予約をしていたので、愛美は夕食後すぐに入浴を済ませ、20時過ぎにはパソコンの前に座り、まず先に下書きに入れておいたコメントをゲストたちのブログを回りながら書き込んでから自分のホームを開くと、そこにはMASATOが新しい記事をUPしたという新着が入っていた。そしてそれに気付くと同時に、愛美のディズニーの記事にコメントが入っている表示にも気づき開くと、それはMASATOからだった。
愛美はそれを目にし、自分の顔が綻ぶのを感じた。
MASATOはもう家に帰ってるんだな。しかも今、パソコンの前にいる。同時にパソコンに向かっているんだな。そう思うと、また胸が高鳴り始め、MASATOへの返事をすぐに書き込みたい衝動に駆られたが、そこはひとまず我慢して、先にMASATOのブログへと飛んだ。MASATOがどんな記事を書いたのか知りたかったからだ。
動揺(F)
その名は、一度聞いただけで脳にインプットされていた。
こういう形で顔を合わせることになるとは、想像していなかった。
同じ仕事をしていると、偶然にもどこかでなんてことはある。
けれど、同じ教科でもないのだから、そんなことは滅多にないはず
そう、楽観視もしていたが、……
書けないや。
まだ相当動揺している。
会いたくなかった。
顔を見たくなかった。
何事もない顔をしていた自分。
彼は、どうなんだろう?
何か聞いていた?
何も知らない?
どっちだろう……
苦しい。苦しい。……苦しい。
ここから1年、自分にできるんだろうか?
えっ?何?どうしたの?何があったの?これだけじゃ、よくわからない。っていうか、私のところへ書いてくれたコメントと全然様相が違うじゃん、どうしたらいいの?
愛美はこの記事を読んだ途端、MASATOに何か辛い出来事があったことだけは理解でき、頭をフル回転してMASATOの今までの記事の中から、起こった何かを必死で探した。
そうだ。と、愛美はファン記事を読めるようになったその日に読んだ、『サーフィン』の記事にあった、『嫌なことも飲み込んでくれる』という一文には引っ掛かりを覚えたではないか。それが何か関係しているのではないか。それに昨日のディズニーの記事も、なんだか思わせぶりな記事だったじゃないか。まるで昔、恋人と行った思い出の場所のような‥‥‥
そうは思ったものの、それが何なのか確実なことはわからず、結局のところなにもわからないことには違いない。
「コメント、書かなきゃ」
自分の記事へコメントをもらったので、コメントを書かなければ。このブログではそんなふうに交流をしていく人が多く、MASATOもそれを楽しんでいる風でもあり、こんなふうに辛い気持ちを吐き出すからには、何かしらの反応がきっと今、MASATOには必要なんじゃないか。でも、どう書いたらいいんだろう?
MASATOに何かが起こったことは確かだ。
会いたくなかった人がいて、会うことなどないだろうと思っていたのに、4月から何かしら関わることになるその人と、今日、会ったんだ。そしてその時、『彼』は何かを聞いていた?何も知らない?……誰かにMASATOの何かを聞かされていたかもしれないってことだよね。誰かに。
それだけであれこれと想像するに、これには多分、MASATOの好きな人が関わってるんだろう。じゃなきゃこんなふうに記事を書かないだろうし、こんな書き方をしないだろう。そして想像するに、会いたくない人はMASATOが好きな人の彼氏で、その好きな人はMASATOが自分を好きなことを知っている。或いは恋人だったことがある。それはたぶん、一緒にディズニーに行ったことがある人。
すべて想像でしかないけれど、コメントを書くには注意が必要だ。MASATOの気持ちが少しでも和らぐことができるよう、少しでも苦しみが減るような、そんなコメントを……
『大丈夫ですか?そんな辛い気持ちで仕事をしなきゃならないなんて……
ダメだ。わかんないや。
愛美はコメントを書き始め、それを書き込まずに消した。
どんな言葉をかけたらいいのかわからなかった。そこで愛美はしばらく様子を見ようと思ったのだ。新しい記事の更新があったのだから、さつきさんやニコさん、ソーランさんやシュンさんといったMASATOのゲストたちが何かしら書き込むだろう。その返事を見て、MASATOに起こったことを多少なりとも理解できるかもしれない。その時のMASATOの反応を見てからでもコメントを書くのは遅くはないだろう。
愛美はMASATOが必要とするコメントを書きたいと思った。
MASATOの気持ちを少しでも掴みたいから。