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出会い16

 マドレーヌの写真を試行錯誤しながら数枚撮ると、コーヒーを入れてマドレーヌを食後のデザートにした。


「うん、美味しくできた」


 甘いマドレーヌが心に落ち着くと、飲みかけのコーヒーを片手に、もう一つマドレーヌを持ち昨日の続きを読もうと部屋に向かった。


 気持ちはウキウキしていた。


 明日はお出かけ、しかもMASATOも同じ場所にいる。今日は一人だし、マドレーヌは美味しいし、新しいブログネタもできたし、そうだ、明日はデジカメを自分専用で持たせてもらおう。どうせ両親は家族でお出かけするときにはいつも一眼レフのカメラを持つのだ。明日はデジカメで写真をたくさん撮ろう。ブログネタもできるし、もしかしたら、もしかしたらMASATOを映り込ませることもできるかもしれない。


 いろんな考えが湧いてきて、部屋に入りマドレーヌとコーヒーをローテーブルに置くと窓辺に向かい、カーテンを開けて空を見上げてみた。SUNさんが空ばかり載せるからか、どうも空を見上げる回数が増えた気がする。


「さてと、本の続きでも読むか。パソコン、とりあえず消しておこう。電気ももったいないし」


 でも、と、もしかしたらMASATOが朝書いた記事にコメントが入っているんじゃないか、ついでに自分のブログにも何か変化がないかもう一度確認してから消そうと思い、更新ボタンを押した。


 すると、愛美のゲストページと記事の方にNEWのマークがついていた。


「誰かな?新しい人が来たのかな」


 まず、ゲストページを開いた。


「え?」


 見間違いかと思った。


 よく、『二度見した』なんて言葉を聞くけれど、そこまで驚くことって、ある?

そんなふうに思っていたけれど、まさに今、自分がそれをした。


「うそ……嘘でしょ……」


 実際、そんなことが本当に起こるなんて、思ってもいなかった。


 出会いを操作してMASATOとブログで知り合う。そんな策略を練ってはみたものの、実際はこちらから何かしらのアクションを起こさない限り、ここで本当にMASATOと出会うなんて、まず無理なんじゃないか……そんなふうにも思っていたのだ。


 それが、今、愛美の目の前で実際に起きた。


 『AIさん、はじめまして。ブログ始めたばかりなんですね。ブログの世界へようこそ。自分もアボカドを育てようと思っているので、これから交流をさせてください。よろしくお願いします。ファン登録していきます』


「と、登録……」


 その言葉で、統計表の新規ファンを記す数字が増えていることに気付いた。 


 ということは、記事へのコメントのNEWもMASATOかな。と、コメント欄を見ると、予想通りMASATOだ。


 愛美は不思議と冷静だった。


 今朝、MASATOの履歴を見つけたとき、身体中が熱くなったそれが今度は感じられず、ただただ、冷静だった。本当に、信じられないのだった。


 ここで出会いたい、本心からそう思っていた。けれど、それが本当に起こった時、愛美には戸惑いが起こったのだった。


「どうしよう。そうだ、私だってバレないようにしなきゃ。本当に本当に、気をつけなきゃ」


 ローテーブルのパソコンの前で浮かぶ手の指先が震えていることに気付いた愛美は、その手を鎮めるために右手で左手の指先を包み込んだ。その指先が無機質を思わせるほど冷たく、次に自分がどうしたらいいのか、すぐには思い浮かばなかった。


「そうだ、読書だ。今、本を読もうと思ってたじゃん」


 すぐに返事をしなきゃ。そう思ったけれど、それよりもまず、自分を落ち着けることが先決だ。


 息詰まるほど動揺が激しい愛美は、まず本の続きを読もうと、そう思った。それが容易ではないことは火を見るより明らかであったが、愛美は一度パソコンの電源を落とした。


 昨日の続きを読むために。

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