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34歳のオッサンによるフォルトリア星系戦記  作者: 八鶴ペンギン
第2.5章:先を見据えて
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2.5-12:見据える先⑫

もう少しだけ続きます。前にも言った気がする……。

 「で、次の3つ目なんだけどね。これを見て欲しい」

 「はて……、これは一体?」


 自分用の端末に、開発して欲しい物のお手製イメージ図を映し出した画面をドクターに見せる。うん、首を捻っているよね。まぁ、画面上には立方体が2つ連なっているだけだから、仕方が無い。


 「あくまで、説明用のイラストだから細部は気にしないで欲しい。2つの立方体は金属性ケーブルで接続し、1つは使い捨ての簡易スラスターと推進剤タンクを内包、もう片方には最低限の制御システムを組み込んでおく。で、そちらに艦艇を模したバルーンを内包させておきたい」

 「……つまり、艦艇を模したダミーバルーンですな? それを簡易式の制御システムとスラスターで動かされると?」

 「流石はドクター。俺の拙い説明でも理解が早くて助かるよ」

 「何を言われるか、香月司令官の説明でも十分に意図は伝わりましたぞ?」

 「ドクターにそう言われると、満更でも無いかな?」


 ドクター優秀すぎる問題。ソフィー達も一家に1人は欲しい所だけど、ドクターは一企業に1人って感じかな? 優秀なエンジニアってのは、何物にも代えがたい存在だよね。で、それは置いておいた。依頼したのは、昔見た某金髪の逆襲で出て来たダミーバルーンが元ネタの代物。どうしても、数的に不利な戦闘が続く事が予想出来る以上、多少なりとも敵の注意を引き付けられる物を用意したいと思ったのだ。


 「艦の性能差に頼ってばかりの戦闘だと、何れ何処かで行き詰るのは必定だろ? 同数の相手だとしても、戦術面で優れた経験豊富な将を相手じゃ、無傷とは到底いかない。勝つ為には小細工の1つや2つは御覧じろってね?」

 「実に良いお考えですな。何処まで行こうとも戦争とは、結局は勝たねば意味がありません。どれだけ高尚な目的を掲げようと、負ければそれまで。生き汚くとも、勝てば良いのです。歴史は勝者が紡ぐもの。正に、その言葉こそが真実ですぞ」


 勝てば官軍、負ければ賊軍だったかな? オッサンのすべき事は、フォルトリア星系に平穏を齎す事。その為には、卑怯と言われようと何と言われようと、勝つしかない。共和国の地方艦隊程度に勝てない様じゃ、本国は勿論の事、その先にいる連邦や帝国にも遠く及ばないのは確実。歴戦の将であろうとも、乗艦諸共に宇宙の塵になって貰おうじゃないか。止まる事は許されないし、その余裕も無い。勝つ、それだけだ。


 「ありがとう。で、どうかな? いけそう?」

 「勿論ですぞ。仕組み自体が非常にシンプルですからな。イメージ図もこの通り見せて頂きましたし、直ぐにでも形に出来るかと思いますぞ。……直ぐに使われるでしょうしな?」

 「分かる? 出来れば、次の戦闘から投入したいと思ってる。無理を承知で、急ぎで頼むよ」

 「お任せを」


 取り合えず、堅実な開発依頼は後1つで終わりだな。今すぐ必要になるかは不明だけど、開発をしておいても損は無い筈だ。


 「さて、次の4つ目はっと……」

 「いやはや、こうして香月司令官と話をしていると、年甲斐もなくワクワクとした気持ちになりますな」

 「そう? 俺としては、思い付いた事をただお願いしているだけだぜ?」

 「例え、そうだとしてもです。1人の科学者として、技術者として、研究者として、探究者として。己の知見・技術・経験が求められると言うのは、何事にも代えがたい物なのですよ」

 「なるほど」


 オッサンとしては、形に出来る人がいるのならば任せてしまう方が効率が良いって感じなんだけどね。適材適所って言うか、役割分担って言うか。要塞司令官として、仕事を割り振っているだけと言うか。でも、それで士気が上がると言うのならば、自身のやり方は少なくとも間違ってはいないって事なのだろう。


 「次は、そこそこの大物だな。要塞防衛用に、敵戦艦の装甲を長距離から貫通出来る様に、最低でも口径500㎜以上の砲身とそれで運用する砲弾を開発して欲しい。物自体は砲身と姿勢制御用のスラスター、それに砲弾の供給ユニットだけのシンプルなヤツで頼むよ。射撃管制は、専用の電子戦型の巡洋艦を準備するから。現行の機動砲をより大型化した感じかな?」

 「ふむ。現行の戦艦を上回る高火力と射程、艦艇では無く兵器故の比較的に安価で量産性を持つ代物ですな。口径に関してのご希望がございますかな?」

 「理想は敵戦艦を一撃で仕留められる物だね。でも、砲身長や口径なんかの最適解が不明だから、色々な条件でシミュレーションをした結果を見てからかな? 現実的な範囲内で、幾つか実験データを出して欲しい」

 「畏まりました」


 戦艦を要塞の守備隊として残すって選択肢は正直言って厳しいと思う。少なくとも、余力を残して勝てる程これからの戦いは楽なものではない。最大火力を前線へと投入せざると得ない状況下でこの手の兵器は有用だと思う。逆に言えば、前線に持っていくには色々と費用対効果の悪い兵器だわな。


 「で、堅実系は次で最後」

 「堅実系ですかな?」

 「そう。この後のは出来たら良いな程度の物だからね。先ずは堅実で実用性のあるヤツを優先で頼むよ」

 「分かりました」

 「全体で5つ目になるけど、頼みたいのはレーザーやビームと言った、光学兵器に対する防御手段だよ。既にレーザータイプの兵装が要塞にもある訳だから、これ等への対抗策を予め用意しておきたい。空間への散布型か船体への塗布型、或いはその併用が理想かな」

 「そうですな……。では、併用を前提に開発を進めましょう。両方あっても損はしない物だと思われますしな」

 「頼むよ。……人員は希望より多く手配するから安心してくれ」


 流石に、一気に仕事を依頼し過ぎているのは自覚しているので、少しでもドクターの負担を減らす為に補佐のアンドロイドを多めに手配するとしよう。過労でドクターに倒れられても困るしな。まぁ、開発依頼を減らせって話なんだけどさ。今は、その余裕が無いから諦めて貰おう。


 「さて、続きをお聞きしましょうかな?」

 「此処からは、更に軽く聞き流すレベルで良いから。次で6つ目だな。……コロニーを動かすのにどの位の推力が必要になる?」

 「……コロニーですか?」

 「後、廃棄された資源衛星もね?」

 「少なくとも、戦艦クラスに搭載されている推進システムでは到底足らないでしょうな。専用の推進器を1から設計する必要があります。因みに、それらをどう使われる心算ですかな?」


 ドクターの此方を探る様な鋭い眼光。まぁ、別に何かを隠す様な事も無いけどね。なあに、盛大にパーティーを盛り上げる小道具だよ、小道具。いや、コロニーの用途は違うかな?


 「資源衛星は、それ自体を質量兵器として使う。表層に光学迷彩を埋め込んだ上で敵艦隊なりに突っ込んで貰う。コロニーの方は、巨体を活かした巨大レーザー砲に改造するか、出撃時の推進剤節約の為の加速器として使うかだな」

 「資源衛星サイズとなると、機動性は到底望めませんな。相手の進路を想定するか、或いは動けない様にしてから放り込むかですな」

 「まぁ、所詮は使い捨て前提だからね。相手の意表を突ければ十分だよ。後は、脅しの材料として惑星目掛けて進ませるのもありかもね? 砲弾外交ならぬ質量兵器外交か?」


 流石に資源衛星よりも更に巨大なコロニーを、例の作品みたく質量兵器として使うのは良心から止めておいた。だけど、コロニーレーザーは漢の浪漫だと思うのよ。ぶっちゃけ、あれは初見殺しなだけだからな。情報が漏れた時点で、最大効果を発揮するのは難しくなるだろう。実質、費用対効果の面から考えたら他の兵器を大量生産した方が絶対に良い。でも、漢には決して譲れない戦いがあるのです。

 加速器の方は、巨大な電磁カタパルトって感じかな? コロニー内部を通過する艦艇を電磁力で強制的に加速させて放出するという代物。出撃時の初期加速に必要な推進剤を大幅に節約出来るだろうし、コロニーサイズならば多数の艦艇も同時に行けそうだなって安易な発想です。


 「流石に自分達が住まう土地を目指してくるとなれば、敵も先ずは総力を挙げて迎撃に……、成る程。それも狙いですかな?」

 「まぁ、少なく無い戦力をそっちに引き裂けると思うよ? 特に火力の高い戦艦クラスは確実に誘引出来るだろうね」

 「目前の脅威に気を取られている敵の無防備な横っ面を、思いっきり殴り付けると?」

 「無防備なのが悪いだろ? 勝てば良いって言ったのは、ドクターじゃないかな?」

 「だははっ! これは一本取られましたかな? 如何にも! 勝てば良いのです。勝利こそ全て」


 酷い言い様だとは思うが、勝利と敗北では結果は全く別物だ。勝者と敗者が笑顔で互いの健闘を称え合うなど、ルールの決まったスポーツの世界だけ。戦争では、勝者が全てだ。無論、敗者の奮闘を称えられる事はあるだろうが、それが勝者を上回る事は無い。何十万という非戦闘員を一方的に殺そうと、戦争終結に必要だったと言われればそれまでだ。故に、勝たねばならない。故に、負けてはならない。


 と、まぁ色々と言ったものの。結局は、ソフィーやシャンイン、ドクターやサウサンと言った大事な仲間達を護りたいってのが、負けられない一番の理由なんだよな。その過程で戦争への勝利ってのがある訳で。だから、勝つ。護る為に勝つ。

お読みいただきありがとうございました。

次回もお楽しみに。

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― 新着の感想 ―
[一言] 彼が「こんなこともあろうかと」を口にする日が楽しみです。まあ、そんな時ってピンチの場面が多いわけですが。
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