2.5-8:見据える先⑧
もう直ぐ1月も終わり……。
1月が終わると2月が来る。
月が替わり10月も1週間が過ぎた翌日の8日朝、司令室に隣接して新しく設置されたミーティングルーム(1SP消費)にて、オッサンを含め要塞のメインメンバー5人が集合した。特に、定期的に集まって何かしていると言う訳では無いが、今日は情報共有の場としてこの場を設けている。
「さてと、先ずはドクターから報告頼めるかな?」
「畏まりました。では、早速。先ずは、香月司令官から依頼されている拠点艦ですな。基本設計は完了しましたので、現在は試作艦建造前の準備段階となっております。建造資源について、後ほど相談をさせて頂けますかな?」
「勿論。それにしても、半月足らずで試作艦の建造手前まで進めるとは、流石はドクター」
「いえいえ、前線への配備速度を優先し既存の工作艦をベースに改設計した物ですから、それほど手間は掛かっておりません。その分、能力としては抑えざるを得ませんでしたがな。本命は、これからゼロベースで設計する艦になりますな」
「おぉ。それは、完成が楽しみだ」
先月の18日にドクターに依頼していた拠点艦の開発。既存艦をベースにしているとは言え、既に試作艦の建造に進める段階まで行けているのは、偏にドクターの優秀さを証明していると思う。しかも、それと並行して他の研究開発も進めている訳だしな。彼には、本当に頭が下がる。
「今申し上げた通り、既存の艦をベースにしているので、性能は高くありません。現状では、修理は4隻、補給は24隻まで同時対応可能隻数として想定しております。また、ご要望のあった各生産プラント機能の一部移設に関してですが、管理者より正式に許可がおりましたので、完成品の集積備蓄という形で拠点艦の機能に取り込んでおります」
「完成品の集積備蓄って言うと?」
「要塞で生産されたそれらの一部を、要塞内の貯蓄タンクや弾薬庫から拠点艦へと異次元空間を経由して移動させると言えば良いですかな」
「一馬さん。元々、この要塞は推進剤の原料となる水を、近隣の惑星の水脈と直接繋げる事で得ています。それと同様の事を、要塞と拠点艦の間で行うという事です」
「なるほど。それは、他じゃ真似出来ない手段だな」
最早、ある種のワープだわな。それも、ほぼ永続的に繋ぎっぱなしにしている訳だから、トンネルって認識の方が正しいかな。ワープ技術自体はフォルトリア星系では失われているって話だから、これは管理者の権能を借りるって事なのかもしれない。その程度の肩入れならば、問題無しと管理者は判断したのだろう。
「拠点艦の貯蓄可能量はどれ位かな?」
「現状では、推進剤が2万ℓ、弾薬が3,000tを予定しております。それとは別に修理用の資材として金属を2万t、非金属を4,000tまで積載可能としておりますな」
「補給物資は、概ね補給艦3~4隻分程度って事だね。うん、良いと思う。最初の段階として、十分な性能でしょ」
「えぇ。初めての運用となりますので、先ずは実証データの収集を行うには良いサイズです。今後は、そのデータを基に艦隊の規模に合わせて大型化した次世代艦を建造するのが宜しいかと?」
「だな。最初から大きく作り過ぎるより、たたき台になるデータを基に次を造っていった方が堅実だ」
新しい物を創る時、失敗や想定外ってのは当然起こる物として考える必要がある。大事なのは、失敗から得られた事を次にしっかりと活かす事。それさえ出来れば、失敗は十分に取り戻せるとオッサン的には思っている。今回の拠点艦だって、後々の共和国戦、そして帝国及び連邦戦で結果を出せる事が重要だからな。
「では、拠点艦に関しては、このまま進めると致します。続いて、光学迷彩技術ですが、装置の試作が完了しましたので、何れかの艦での試験運用をお願い致します。それらから得られた運用データに問題が無ければ、今後の新造艦から表層装甲にこの装置を取り入れた船体の建造に移れますな。既存艦は、その後で改良を行う形になると思います」
「試験運用は、各艦種事に行った方が良いかな?」
「そうですな。艦のサイズによって装置の必要数はどうしても異なりますので、万全を期すなら各艦種毎にテストすべきです。とは言え、ある程度はシミュレーターでテスト出来ますので、装置の設置を優先する艦のみでも宜しいかと思いますな」
「了解。なら、前線に最も出るであろうウェクスフォード級1隻とシャニッド級1隻を試験運用に回そう。後、出来れば潜航艦もだな……、1隻新造する必要があるか」
駆逐艦と巡洋艦は数があるので、数隻程度が運用から一時的に離脱する程度なら問題は無い。しかし、潜航艦はサウサンのチームが使う分しか現状では存在していないし、間も無く彼女達は潜航艦で要塞を出発する事になっている。そうなると、試験運用の為には別のロッグモア級を建造する必要があるか。
「ん、香月。なら最優先で私の艦を換装して貰えば、出発には間に合うんじゃないか? 丁度良いデータ収集にもなるだろうしな。ドクター、どの程度の時間が掛かる?」
「潜航艦に必要な量を計算した上で生産と、換装ですからな。凡そ、3、4時間程度は頂きたい」
「ならば、問題はないな。香月、良いか?」
「実際に使うサウサンが問題無いって言うならば、此方としても問題は無いよ?」
「では、決定だ。ドクター、早速頼む」
「ふむ、直ぐに取り掛からせるとしましょう。では、香月司令官。潜航艦、駆逐艦、巡洋艦の順に試験用装置の設置を行いますぞ」
「宜しく」
サウサンからの思わぬ提案で、彼女達の専用艦が光学迷彩の試験運用艦も兼ねる事となった。まぁ、今回の彼女達の任務を考えると、むしろ都合が良いかもしれないな。少しでも発見されるリスクが減るのは、重要な事だ。それに、潜航艦に光学迷彩って物凄くマッチする組み合わせだよな。
「ちなみに、装置の製造コストってどの程度?」
「そうですな。装置1つ辺り、金属で10㎏、非金属が5㎏程度です。駆逐艦サイズなら、4個程度で十分賄える計算ですぞ」
「分かった。開発を引き続き頼むよ」
「お任せ下さい」
金属と非金属合わせて15㎏か。デスクトップのパソコンとかそれ位のヤツを自宅で使ってたなと、思い出した。色々と他人に見せられない映像とか画像とか満載だから、誰にも見つかってませんように。オッサン、管理者に今だけは祈っておく。
お読みいただきありがとうございました。
次回もお楽しみに。