2-46:完敗
今話にて、第2章『星女と宙賊と戦艦』は完結となります。
(うん、色々と中途半端で申し訳ない)
2.5章(現時点で話数未定)を経たのち、第3章へと物語は進みます。
星女は、4章(予定)で再び登場します。
「……完敗だな」
司令官用の席に全身を投げ出し、思わずそう呟いてしまった。書いて文字の通り、今回のは完全に負け戦だ。陽動を目的として敵艦隊へと攻撃を仕掛けた主力艦隊は、戦域での自爆による自沈1隻、大破2隻(後に自爆による自沈処理を実施)、中破6隻、小破19隻、損害軽微2隻の被害を被った。艦載機は大破が4機、中破9機となっている。シャンイン率いる宙賊艦隊は幸い被害は少なく何れも小破未満で済んだのが不幸中の幸いと言うべきか。一方で、此方の戦果としては戦艦クラスを0~1隻、巡洋艦クラスを5~10隻、駆逐艦クラスを15隻以上を撃沈出来たと想定している。それに加えて敵艦載機を10機以上と、数十隻に及び損傷を与えたと戦況から判断した。現状で考えると敵戦闘艦全体から見て、20%に満たない損害だろう。ただ、トロイ用の元共和国艦艇が無事に敵艦隊に潜り込めたので、何れかのタイミングで追加の損害を与える事が可能になったのが唯一の救いだな。
「一馬さん。共和国海兵隊内の通信内容を見るに、拿捕された教団の高速艦2隻には星女を始めとした本部務めの幹部達が複数人乗り込んでいた様です。片方には星女と従者、もう片方には幹部達と分かれていた様ですね」
「やはり、どちらかが囮だったのかな? 或いは、少しでも逃げる確率を上げる為だったのか……」
「何れにせよ、共和国艦隊の手に落ちた以上、迂闊には手が出ませんわ」
「だな。一旦、戦力の補充を行わない限り無理だ。それに、性能差に頼った戦いが何度も通用しない事も改めて実感させられたよ……」
性能差があろうと、結局は指揮する人間の差が明確に出る事を今回痛感させられた。もし、共和国側の指揮官と立場が逆だったらどうだっただろうか? 恐らく、もっと善戦出来たのでは無いだろうか? 無論、IFを考えた所で結果が変化する訳では無い。しかし、考えてしまうのが人間だろう。でも、今は止まってもいられない。自分は指示を出す立場なのだから。
「共和国艦隊の動き次第だけど、対宙賊戦は一旦凍結としよう。全艦隊を要塞に戻し、修理と整備を最優先とする。それから、要塞周辺宙域からガルメデアコロニーに掛けての監視を強化しよう。敵がこの機に一気に来ないとも限らないからな」
「では、私は此方の戦況報告書を纏めます」
「なら、私は共和国側の損害と最新の動向について調べますわ」
「2人とも頼むよ」
「了解です(わ)!」
得たものより、失ったもの或いは手から零れ落ちたものの方が多い戦いだった。助けると誓った星女は共和国の手に落ち、あの宙域から我々は実質追い出された様なものだ。貴重な戦力も多くが損傷を受け、修理待ちの為に長期の戦線離脱を避けられない艦も出てくる。残りの資源から見て、再建の道のりは相応に厳しいものになるだろう。
第10コロニー『シャングリラ』宙域戦における戦況報告 フォルトリア星系歴524年9月13日
状況:両軍共に軍事行動終結
戦況:作戦目標達成に失敗
実情:以下の通り
友軍 主力艦隊
カンターク級巡洋艦(電子戦型):中破1隻、小破5隻
ウェクスフォード級駆逐艦:中破4隻、小破14隻
ウェクスフォード級駆逐艦(簡易補給型):自沈1隻、大破後自沈2隻、中破1隻
シャニッド級巡洋艦(艦載機運用型):損害軽微2隻
オグマ:大破4機、中破9機、小破3機
秘匿艦隊
損害なし
宙賊艦隊
改アスローン級駆逐艦:損害軽微5隻
機動150㎜対艦砲(連装型):損害なし
補給艦隊
損害なし
敵軍 共和国軍 第6機動艦隊隷下 第211任務部隊
前衛艦隊(50隻)
撃沈:巡洋艦5隻、駆逐艦11隻
損害:中破15隻(戦艦1、巡洋艦1、駆逐艦13)、小破11隻(戦艦1、巡洋艦2、駆逐艦8)
左翼艦隊(50隻)
撃沈:戦艦1隻、巡洋艦3隻、駆逐艦9隻
損害:中破7隻(巡洋艦2、駆逐艦5)、小破6隻(駆逐艦6)
中央艦隊(80隻)
撃沈:巡洋艦1隻、駆逐艦2隻、護衛空母1隻
撃墜:艦載機18機
損害:小破12(戦艦1、巡洋艦3、駆逐艦8)
右翼艦隊(50隻)
損害:中破4隻(巡洋艦1、駆逐艦3)、小破8隻(駆逐艦8)
後方艦隊(50隻)
損害:中破4隻(駆逐艦4)、小破3隻(駆逐艦3)
警戒部隊(20隻)
損害:小破4隻(巡洋艦1、駆逐艦3)
翌日、ソフィーとシャンインが纏め上げた戦況報告書に目を通す。最終的に共和国側も、此方の予想よりかはダメージを受けてはいた。撃沈は合計33隻、他に中破30隻、小破44隻となっている。100隻を超える損害を被った共和国は、今朝から撤退を開始した様だ。シャンインの話だと、どうやら今回の艦隊派遣は星女の身柄を抑える事が目的だった可能性が高い様だ。彼女を確保した事で、此方との交戦で発生した損害も鑑みて撤退を開始したと思われる。潜り込ませた元共和国艦はそのままにしておく事にした。どうせならば、母体となる第6機動艦隊に合流してから暴れさせた方が良いだろう。無論、それまでの航行中にバレそうになったら発動させるしか無いがな。出来れば、最大の戦果を上げられるタイミングを狙いたい。
「共和国が星女の身柄を求めた理由に、何か見当は付いた?」
「共和国軍内の強硬派が動いた事までは掴めましたが、理由は何ともですの。恐らくは、彼女の持つ星託を授かる力かと思いますわ?」
「星女を通して主神『ルーフェス』から、帝国や連邦に打ち勝つ力でも求めているのか……」
「可能性はありますわ。パルメニア教の起こりを考えれば、そう期待するのも分からなくはありませんもの」
「星系最大の宗教団体を敵に回してまで実行するって事は、帝国及び連邦に対してかなり追い込まれているって可能性もあるのか」
3大勢力は膠着状態って話だったと思ったが、どうやら共和国としては悠長に戦力強化を図る状況には無い様だ。何か共和国内で起ころうとしているのか、或いは一気呵成に戦況を変える手を望んでの事か。理由は何にせよ、星女が連れ去られたのは事実。此方がすべきことは、傷を癒し、戦力を増強し、次こそは確実に勝つこと。もうパルメニア教団の意向なんぞ気にしている暇は無い。あの宙域から宙賊を一掃し、フォラフ自治国家方面への侵攻ルートを構築する。そして、お礼参りに行こうじゃないか。
お読みいただきありがとうございました。
次回もお楽しみに。