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34歳のオッサンによるフォルトリア星系戦記  作者: 八鶴ペンギン
第2章:星女と宙賊と戦艦
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2-45:シャングリラ宙域戦③

共和国側は今回で終了。

まぁ、こうなるよね。


※誤字報告、ありがとうございます。何時も助かっております。

 「何があった!」

 「閃光の原因は不明! なお発生源は、前方及び左翼艦隊第1防衛ライン付近と推定されます!」

 「発生した閃光に伴う、友軍の被害状況は何か入ってきているか!」

 「そちらも現在、不明! 情報が錯綜しています!」

 「分かり次第、逐一報告せよ!」

 「はっ!」


 強烈な閃光によって一時混乱に陥った司令部艦橋も落ち着きを取り戻すと共に、各艦隊からの情報収集を開始する。通信網が未だ不通の為、発光信号などの時間の掛かる手段しか無い為に状況確認に必要な時間は長い。せめて、短距離のレーザー通信さえ復旧すればと、誰もがもどかしさを感じていた。


 「モニター越しですら強烈だと感じるだけの閃光。何らかの隠し玉でも持っていたのでしょうか?」

 「だとしたら、このタイミングで実行した理由が分からんな。多少の損害は此方に出るだろうが、今さら状況をひっくり返せるとは思えん。最初の混戦状態で使ったならまだしも、どう考えても完全に機を逸したとしか言えんだろ。むしろ、此方に鹵獲される事を恐れて、損傷の酷い艦を起爆し自沈させたと考えた方が妥当だな」

 「なるほど。確かに、それならば筋は通るかと。あれだけの高性能艦を拿捕出来れば、我が軍の戦力向上に有用だったでしょうからな」

 「とは言え、もしそうだった場合。深追いすれば此方の被害も跳ね上がる可能性があるな」


 先ほどまで、追撃を行い敵艦隊に打撃を与えるべきと考えていたヴァルドリッジ中将に取って、先ほどの原因不明の閃光が出鼻を挫く事となる。此処までの戦闘で友軍にかなりの損害が出ているのは確かだが、相手側にも相応の損害を発生させているのは確実だと計算していたのだ。だからこそ、このタイミングで一気に追撃して叩くべきだと考えて、実行に移そうともしていた。しかし、あの強烈な閃光がもし自爆だとしたら。此方の追撃によって、敵の損傷艦が自沈を兼ねた足止めの為に自爆した場合、友軍の被害は極めて甚大な物になると理解してしまった。艦隊指揮官として彼は難しい判断を迫られる事となる。


 「情報入りました! 現時点で、少なくとも戦艦1、巡洋艦2、駆逐艦6隻の所在が閃光発生個所付近にて確認出来ずとの事!」

 「9隻も一度に!? 何らかの兵器か自爆か……。敵艦隊の様子は!」

 「はっ! どうやら撤退を開始した模様との事! 前衛及び左翼艦隊より追撃許可を求める発光信号が入っております!」

 「ヴァルドリッジ中将?」

 「……追撃の必要は無い! 前衛及び左翼艦隊は生存者の救出を最優先だ! 損傷艦を下げ艦隊の再編成も急がせろ! 次があるやもしれんぞ!」 

 「はっ! 追撃は不要! 各艦隊、生存者の救出を最優先! 艦隊再編を急げ!」

 「了解しました!」


 関係各所への命令伝達の為に再び慌ただしくなる艦橋。ヴァルドリッジ中将は自席に深く腰掛けると深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。


 「撤退が事実であれば、我々の……勝ち、ですかな?」

 「正直、勝利と言えるか微妙な程の損害だがな……」


 今回の襲撃によって、TF211では20数隻の艦艇が現時点で撃沈確実であり、更にそれの数倍にも及ぶ損傷艦が出ていた。ヴァルドリッジとしては、実質的に戦闘艦の3分の1が何らかの被害を被ったと考えると、気楽に勝利だと浮かれる事は出来なかった。むしろ、第6機動艦隊の総司令部に対しどの様に報告すべきか今から悩む事となる。


 「レーダー及び通信障害。徐々に回復傾向にありとの事!」

 「ご苦労! 被害状況の纏めを急がせろ!」

 「はっ!」

 「やはり、これらの障害も敵艦隊によって引き起こされていた物でしたか。我が軍も、電子戦に対する備えは準備してありましたが、此処まで一方的にやられるとは。正直、敵の底が見えません」

 「ボルド少将。この様な辺境の地において、電子戦すら可能な程に強力な戦力を保有した組織が唐突に生まれるとは思えん。何か、裏があると見るべきだろうな。帝国や連邦が一枚噛んでいるのやもしれん」

 「だとすると、自治国家から此方方面への警戒度が上げる必要がありますな」


 この辺境の地から着々と厄介な事態が進行してきていると、ヴァルドリッジはそう感じた。今回の損害を考えるに、本国がこのまま引き下がるとは到底思えないとも考える。だとすれば、恐らく戦力を再度整えた上で後顧の憂いを断つべく、本格的な軍事侵攻が行われる事になるだろう。もし、可能ならば自身がその一番槍を務め今回の雪辱を晴らさんと彼は心に決めた。




 「レーダー及び通信障害。艦隊全域での回復を確認!」

 「友軍の被害状況はどうか!」

 「現時点で、戦艦1、巡洋艦8、駆逐艦20、護衛空母1隻のシグナルロストを確認。及び艦載機18機がシグナルロスト。損傷艦は、戦艦3、巡洋艦6、駆逐艦38隻に上ります!」

 「撃沈も含め77隻。被害は戦闘艦の4分の1強ですな」

 「彼我の艦艇の性能差、それに目と耳を潰された状況から考えると、その程度で済んだと見るべきかもしれんな。総司令部に出す報告書では、敵の脅威度を高めに設定しておくとしよう。甘く見て掛かると、今回の比では無い損害を出す事になりかねん。それに例の閃光も未だに原因が分かっておらんしな。アレが未知の兵器であった場合、迂闊に攻め込めば一蹴されて終わるやもしれん」


 ヴァルドリッジは今回の襲撃を通し、この敵を低く評価するのは危険だと直感している。今回は此方の読みが当たり上手く行ったが、次も同じ様に上手く行くとは限らない。むしろ、戦場などではそれが当たり前だ。指揮官は常に相手の裏をかく事を意識する必要がある。昔から使われてきた戦術や兵法は存在するが、当然それは敵も学んでいる事。状況に応じて適宜、最適解を見つけられるかに自身と部下達の命が掛かっている。


 「此方は一先ず置くとして、向こうはどうなっている? 拿捕した例の船は?」

 「敵の艦隊は、此方に仕掛けて来た艦隊と同様、撤退した模様です。何れも駆逐艦クラスだったと報告にあります。それから、拿捕した船ですが、間も無く海兵隊による臨検が開始されます」

 「そうか。誰が乗っているかによるが、もし例の女が乗っていたのならば探し出す手間が省けるんだがな……」


 パルメニア教団の星女。今回、TF211に与えられた3つの任務の内で、最優先に設定されていたターゲットこそ星女その人だった。他の2つに関しては、状況から考えて一旦見送るべきだろう。獲物を追い過ぎて、1つも手に入らないなど馬鹿のやる事だとヴァルドリッジは考える。


 「それから、コンラッドコロニーへ先行させた艦隊ですが、戦艦クラスを含む10隻前後から迎撃を受け撤退を開始しました。どうやら、敵は戦力を出し惜しみした様ですな」

 「戦艦クラス迄とはな……。最早、一介の民間武装組織の枠では収まりきらん。明確に我が国に脅威足り得る軍事組織と見るべきだろうな。此方に仕掛けて来た艦隊、コロニー裏側へと向かった別動隊、後方で待機していた艦隊。合計すると最低50隻近くにはなるか……」

 「TF151が攻撃された時は、4から10隻前後との話でしたから。急速に規模を拡大している可能性がありますな」

 「確か、前回も今回も艦載機を運用していたか。そうなると、更に空母を含めた艦隊も何処かに居たのかもしれん。そうなると、艦艇60……いや拠点防衛部隊も含めれば70隻以上プラス相応の艦載機を運用していると見るべきだな」


 ヴァルドリッジが予想する戦力規模は、実際のランドロッサ要塞が保有する戦力を多少上回るものであった。しかし、脅威として認識する上で、敵戦力の過小評価は後々に悪影響を与えるものであり、この時の彼の判断は正しいものであった。後に彼から提出された戦闘報告書を受け、共和国本国は第6機動艦隊に対して更なる戦力の増強を行う方針を採用する事となる。

お読みいただきありがとうございました。

次回もお楽しみに。

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